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無名サイトのつづき

事後報告 -コミケで本を出しましたの経緯と顛末- [宣伝・当日編]

というわけで、経緯については前回を参照して頂きたいのだが無事原稿は本という形になった。多分語り尽くされていることだとは思うが、自分の書いたものというのが形になって手元に届くというのは、やはり大きな感慨があった。

とはいえ、これまではブログという形式で書き散らかして来た人間が、他人に対して頒布するということはやったことに対する対価を要求することになるわけで、形の上ではプロと同じである。お金を出して買って頂く以上は、やはりそれだけの価値はあると納得してもらいたい。しかし、思いの外印刷費がかさんでしまったのもまた事実である。

なので、価格の決定についてはだいぶ悩んだが、最終的に「印刷原価割れの赤字頒布はしない」という方針に決めた。これは自分が今後も続けていくために必要だと思ったとともに、仮にタダで配ったとしてもタダなら誰もが欲しいというものでもないという理由からである。

さて、今回の本だが基本的に告知はTwitterのみで行った。このサイトを更新してるヒマは正直言ってなかったし、その他の宣伝手段というものも思いつかなかった。何せ内容があまりにも人を選ぶし、そもそもこちらには過去なんの実績もない新参である。であれば、ある程度知り合いを中心に話題になってくれる方がありがたい。今回の目標は「とりあえず知り合いを含めて刷った冊数(ロットの関係で50部)の半分は夏で売り切る(残りは冬で売る)」である。ちなみにこの時点で「この人なら絶対買ってくれる」と思い浮かんでいたのは4-5人といったところである。

宣伝方法についてはいろいろ考えた末で、下記の点について配慮した。

1.「頒布場所の明確化」
2.「内容の明確化」

具体的に気をつけた点としては8月以降はTwitter上のスクリーンネームに「○日目○○」といったサークルスペースの案内を付加した。まあこれは実際に頒布されている方であれば誰でもやっているわけだが、実際に自分でやってみるといよいよこちら側に立てたのかという謎の感慨があった。とりあえずこれで「何処で売るか」伝えるという問題はある程度解決できると言えよう。

次に、「どのような内容か」を伝えることである。これはTwitterに最近になって追加された要素を活用させてもらった。具体的には、RTしてもらうための元ツイートはごく少数に留めるために、まとまった告知を一度作ってある程度RTが収まったら適当なタイミングで自己RT→時間をおいて取り消し→再RTで告知ツイートがバラけるのを防いだ。以前はこの機能(自己RT)がなかったので、一度告知ツイートが流れてしまうと再度同内容でツイートしなおさなければならなかったのである。もちろん画像ツイートを使用し、「表紙」「目次」「サンプルページ」の三枚をpdfが出来た時点で貼りこんでおいた(ただし、本文モノクロなのにこの時点ではカラーで貼ってしまったのでそれは誤解を招いた可能性があり、反省点の一つ)。サンプルページはスケベブックであれば引きの強いページが自ずと決まってくるだろうが、うちの本はそういうもんでもないので、とりあえず主題のページを見開き公開としておいた。また、ツイートの固定機能を使用することで、フォロー関係にない人でもログを掘り返さずに詳細を確認できるよう務めた。

これは買う側の立場での話なのだが、スクリーンネームに頒布場所が入っていてかつRTで「○○出します」というツイートが回ってきたユーザーでも、告知ツイートが固定されていないので後で気になって探してみると該当の告知ツイートが見つけられないということがよくあったのである。見た側がTwitterのお気に入り機能を使えばいいのだろうが、人によってはそれこそ日に数十~数百件fav押しているような人もいるし、お気に入りは検索性も悪いので、告知ツイートへのアクセス性は良いに越したことはないと思われる。

あんまり毎日宣伝ばかりというのも嫌らしいのだが、一方で誰もがタイムラインに張り付いてるわけでもないので可能な限り告知は増やしたい。この辺りのバランスは気を使ったが、開き直って複数回RTすることにした。正直言ってここは答えが出ていない。自分が逆の立場だったらウザいんだろうなーと思いつつもRTボタンを押させてもらった。

なお、幸いなことに頒布前日までの間に、当日買えないということで通販希望を8部頂いた。とはいえ、この8部というのはほぼ前述の「心当たりのある4-5人+α」の方からの依頼であり、逆に言うとここに当日売れないということは他の人にはちっとも売れないんじゃないだろうかという新たな恐怖を感じたというのも正直なところである。結局在庫分10部(8部+本人1部、Azmin氏1部)と当日頒布40部という構成になった。

というわけで、前日までにある程度周知は出来た。あとはいよいよ会場で売るのみである。正直、前日の夜は眠れなかった。遠足前の小学生かよと自分でも可笑しかったのだが、どうにもどのくらい売れるか全く検討も付かないし、また受け入れてもらえるかどうかも分からない。一つ幸いなことがあるとすれば、思ったよりは体積が小さくて部屋に在庫しておいても罪悪感が少なくて済みそうという点くらいである。

そしてやや寝不足のまま、8/14・コミケ三日目当日が来た。Azmin氏は当日朝2時過ぎになっても全く関係ないツイートをしているこちらを見て本当に遅刻せず来るのか不安になったそうだが、そこはなんとか気合で乗り切って無事予定の時刻に新橋駅に集合した。挨拶もそこそこにゆりかもめに乗り込み、向かうは東京国際展示場である。

今回の我々は、基本的に本の判型が小さめということもあり、カメラバッグにまるごと入ることから前日搬入はせず当日朝搬入ということになった。また、それに加えてカメラ関係の本ということもあってカメラを持ち込むことにした。

こちらの本ではZ-1とMZ-Sをフィーチャーしたこともあって、Z-1[限定]にFA☆28-70/2.8という当時のトップモデルの組み合わせ、それとAzmin氏から借りっぱなしになっていたMZ-SとDA40/2.8XSを持ち込んだ。DA40にはフルサイズ(フィルム)でも使えるという意図も込められてはいたが、大部分はカメラバッグの空きスペースの問題からのセレクトである。同様にAzmin氏からも*istとK-30を持ち込んでもらった。あとは個人的にコス撮影やるかもと思って私物のカメラも持ち込んだのだが、結局そのヒマはなく使うことはなかった。すべて電池の入っている状態で展示し、ある程度自由に触ってもらえるようにしておいた。これは本の内容からしても、どうしてもやりたかった展示コンセプトである。

あと、今回Twitterでの宣伝がメインだったということもあって、一応名札を下げておいた。今回は委託ということで間借りする形での出展になっているので、ブースには二人いて、当然面識のない人から見るとこれ書いた奴はどっちだ(誰だ)ということになりそうだからである。というか自分が買いに行くときとかにも売り子さんも含めて複数いるブースだとそう感じていた。ほら全然別の人に内容褒めちぎったりしてなんかこう微妙な空気になるのとかも避けたいじゃない、と。

そんなこんなで。簡単に飾り付けを済ませているとシャッターが開き、いよいよコミケ三日目の開幕である。といっても、三日目というのはいわゆるスケベブックの祭典なわけで、そういうの「ではない」こちらのホールというのは至って平和なものだ。この時間のここだけ見れば、いわゆるコミケのあの人の波というイメージからは少し期待はずれかもしれない。もちろん人通りは絶えないのだが、あのスケベブック島の長蛇の列やコス広場のストロボがもげそうになる人の密度とは全く異なっている。

というわけで、まぁそのうち誰か買いに来てくれるだろうと思っていたら、開場からわずか15分ほどで見に来てくれた人がいた。TLで宣伝RTを見かけて探してきてくれたとのことだった。実際にフィルム時代からのペンタックスユーザーの方で、なんだか泣きそうになりながら最初の一部を手渡したのを今でも覚えている。なんというか、色々報われたような気がしたのである。正直この瞬間に、この後仮に一部も売れなくて○万円の損失が出たとしても、もうそれは些細なことなんじゃないかというのも感じた。冒頭の発言と矛盾しているようだが、どちらも偽らざる本音である。

その後も、考えていたよりもずっとハイペースで、そしてずっとコアな方がブースに来ていただき、一冊、また一冊と買っていただいた。中にはこの本のために来ていただいたと断言して下さる方や、評判を聞いて見に来たと言って下さる方などもいた。正直価格が高めなこともあって、見本紙を見て納得してから買って下さいと繰り返し案内していたにも関わらず、この表紙だけでもう買いますと断言してくれた方もいらっしゃった。半分売れた辺りでもしかしたらの気持ちが芽生えたのだが、その後も気が付くと減っていき、ラスト数部はあれよあれよという間に売れてしまった。結局見本紙として置いといたものさえワケあり扱いでお譲りする事態になってしまった(手書きで「みほん」と書いてしまっていた)。もうまったくもって狐につままれたような気分だが、午後1時30分、見本や隣の方にサンプルとしてお譲りした数部を除いた40部弱が完売してしまったのである。

40部弱の完売というのが誇れる実績なのかどうかというのは、正直に言って分からない。もっと売っているところは、もっと良い物を作っているところはいくらでもある。ただ、何か一つこうやり遂げたという気持ちになったのは確かである。

こうして初めての「作り手側」に回ったコミケは終わった。終わってみればまったくもってあの怒涛の数日間というのはなんだったのだろうかと思う。当初は盆休みがぶった切られて旅行に行けないと嘆いていたことも、今では遠い昔のようである(もっとも、PCトラブルによって貴重な休みが丸々潰れた上に新刊落としかけた件については未だに根に持っている)。

そして現在、次のコミケまで4ヶ月しかないという事実に震えつつ、うっかり巻末に次回予告を書いてしまったことについて頭を抱えているのである。願わくば、またあの場所でお会いしましょう。

事後報告 -コミケで本を出しましたの経緯と顛末- [作成編]

出オチである。

だいたい言いたいことというのはこの記事のタイトルで言い切ってしまったのだが、この度開催されていたコミックマーケット90において、本を作って頒布した。もちろんこのようなことをするのは初めてである。結果としては概ね成功と言っていい結果を残せたのでここに経緯と顛末についてまとめておくことで、次回以降の反省としたり、同様に参加を検討している人に対して何かの参考になればと思い書き残しておく。

まず、そもそものコミケ参加の動機であるが、一応コミケ自体は何度か行っていた。ただその主目的というのは主に「人を撮ってみたい」という動機によるコスプレ撮影だった。これはこのサイトでも過去何度か触れていたが、数年やり続けてとりあえず自分なりに納得できるところまで来たので、前々回くらいからは知り合いに任せることにした。余談だがこの友人は回を重ねるごとに腕・機材ともにステップアップし、とうとう今回は終了直後から速報を流すレベルのカメコに成長した。そこまでやれと言った記憶は一切ないのだが、結果として適切な人材を選定したように思える。

で、そういう経緯もあって前回(C89)はカメコ行為もそこそこに、Twitterで知ってる人のブースなんかを回ってみようと思ってカメラ関係が配置されている辺りに行くことにした。そしてそこに出展されていたのが、今回のキーマンとなるAzmin氏(サークル「鶯谷光学工業」主宰)だった。元々Twitterではだいぶ前からフォローしていたものの、実はこれが初対面だったのだが、それにも関わらずブースに持ち込まれていたMZ-Sの話でずいぶん長いこと話し込んでしまった(今更な反省だが、これは販売妨害にも繋がりかねない行為なので適度に自制心を持ちましょう……)。そして、発行されていた本もブロニカ-Kマウントのアダプターを配管パーツでDIYするなどの絶対に商業誌には載らなそうなニッチでマニアックな内容であり、これが非エロ同人の世界なのかと感銘を受けた。

と、同時についうっかり「実はこれって自分でもできるのではないか」と思ってしまったのである。絵は描けないが、文章であればなんとかなるかもしれないんじゃないか……と。そして、これだけ多種多様なものが受け入れられている場であれば、ひょっとしたら自分が書きたいと思っていることもここに来ている人達のどこかしらには響くのではないかと、そんなことをAzmin氏と話しながら考えていた。そしてもし書くのであれば、このサイトで触れた内容をベースにすれば目処も立つという打算もあった。結局、その場では半ば冗談のような形で「なんか書くから寄稿させて下さいよ」という口約束が行われたのだった。

そういうわけで、今年の目標に「本を出す」が追加されたわけである。

そして年が明けた。当初は先方の本に寄稿という形で何か書くところから始めようと思っていたのだが、年明け後にCP+等で会ったり、何度か打ち合わせを経るうちに、こちらの文字数がだいぶ嵩みそうなのでこちら負担で制作し、置かせてもらう(委託販売)という形を取ることにした。この頃にはテーマも概ね「フィルムAFカメラの本」というところに決定し、一番語りやすく、ある程度元になる文も完成しているペンタックスのハイパー操作系の話をメインにすることにした。また、目標とする方向性は「新製品のメカ紹介とかがなくなって段々『もう新製品とかいいから自分たちの好きなカメラの話しようぜ!』という方向に傾き始めた00年代~廃刊までの写真工業のリスペクト」に決定した。このためレイアウトや判型等は元ネタに合わせた。パロディ本は同人誌の王道でもあるわけだし。

しかし、今年前半にはここまで決まっていたものの、そこからの歩みは極めてゆっくりしたものだった。その理由は「既にブログで公開したものをリパッケージして金を取っていいものか」という点にある。個人的な感情としては、既に公開したものに対して何も手を加えないでそのまま金を取るというのは買う側からすればガッカリだし、そもそもブログで見ればタダという問題がある。

かといって、別の媒体で発表したから昔はタダで見れたけど今は公開停止でお金払って見てねという一部で見られるようなやり方もしたくなかった。以前とあるサイトでやられて非常に不信感を持ったからである。

つまり、このブログを見てくれている人のことは裏切れない。かくなる上は──ブログにある部分は現在の知見でブラッシュアップ、そしてブログにない部分を大量に書き足すことである。元々は全部書きなおそうかとも思ったのだが、正直ハイパー操作系解説の辺りは我ながら良く出来ていたので少変更で掲載することとした。これであれば、コア部分はとりあえずタダで読める状態をキープしつつ改めてお金を取るという大義名分ができる。

これはナイスアイディアである……と思ったのもつかの間、結局それらは大幅な作業量の増大を意味するのであった。今回発行の本では、ハイパー操作系の話をメインにしつつも、その前後におけるペンタックスカメラの操作系を主要機種を取り上げて解説し、更にZ-1とMZ-Sについては個別レビュー記事も加えている。当初案では他の機種もジャンクで買ってきて書くとかK-1のレビュー書くとか実写作例入れるとかいろいろアイディアはあったのだが、最終的にとても間に合わないということでだいぶ削られた。とはいえ、このサイトに載ってない部分が半分以上あるので、このサイトを見たことがあってもなんとか納得して頂けるかな……と思っている次第である。

そういうわけでスケジュールは押しに押して結局本格的に仕上げにかかったのは7月からであり、本文完成の目処が立ったのが7月末だった。当時のAzmin氏とのやりとりを見ていると、7/24時点で10,000字完成というところだったらしい。このあと、退路を断つために7/30にTwitterで新刊発行の告知ツイートを行っている。つまり、概ねラスト二週間くらいで全体の半分くらいを書き上げる羽目になったということだ。しかし、文章は出来ても今度はそれを本にするという作業が居る。

今回のうちの本の場合、だいたい下記のような流れの作業が必要である。

1.本文を書く
2.挿絵・図表・写真等の撮影や手配
3.DTPソフトでそれらをレイアウトする
4.出力し、印刷屋さんに渡せるデータにする
5.本が完成し、受け取る
6.販売する

さて、7月末の時点で終わっていたのはこのうちの1番でしかない。仕方がないので説明等のための写真を簡易スタジオを組んで一日で全部撮影し、2番はクリア(と、思ったののだが書き足し部分や読み返しての校正を行って追加が必要と判断した場所などもあるので結局ギリギリで追加撮影した部分も多い)。3番はAzmin氏はWordを使用しておりInDesignも保有しているそうなのだが、うちにはOfficeの入っているPCがないためScribusというフリーのDTPソフトを探し当てて、基本的な操作を覚えてなんとかレイアウトを完成させた。写真工業リスペクトなので右開きの横二列組横書きである。Scribusには海外ソフトのため日本語縦書きが扱えないという致命的な欠点があるそうなのだが今回はそういう影響がない版組だったのが功を奏した。

ちなみに、ベタのテキスト書きには当初はどこからでも編集できる点を買ってGoogleDocumentを使用していたが、文章量が多くなってくるとやりづらくなってきたので、最終的にはEmEditorでベタ書きし、章立てごとにGoogleDocumentで切り分けるという手法で作成し、最終的にScribusで様子を見ながら詰め込んでいき、後から入れる写真を考えるというスタイルに落ち着いた。しかしこの方法だとあとで連結することになるので章立てで断ち切られた流れが通しで見ると不自然になったりしたので、アウトラインエディタとかを使用したほうがうまくいくのかもしれない。

というわけで、Scribusでレイアウト組みして本文は完成した。表紙はカッコいいロゴの一つも作りたかったのでPhotoshop(Lightroomの年間契約しているので使える)とかを引っ張りだして来たのだが、この作業に入ったのが既に8月に入ってからだったということもあって今からどうにかなるものではないと判断、結局MSペイントで作成している。困ったときのMSペイントである。

これらをレイアウトしたら、あとはScribusにはpdf出力機能が付いているのでトンボ付きpdfで出力して印刷屋さんに渡して入稿完了である。ちなみに入稿完了までのラスト一週間でWindows10のアップデートからPCが調子を崩してしまい、危うく落としそうになるもセーフモードでPCを立ち上げて無理矢理編集して送付するというエクストリーム入稿を行い冷や汗をかく羽目になった。(ちなみにこのPCはロールバックしたら別の不具合が出て8/15現在不動になっている。結局夏休みが全部潰れてしまった)

今回依頼した印刷屋さんはAzmin氏が元々使用しているところで、ある程度作業の流れが分かっているというところも大きかった。具体的にはオンデマンド印刷なのでかなりの短納期が可能とのことで、実際の納期も夜中のオンライン入稿から日付上の翌日で自宅着という速さだった。ただ、少部数だとなかなかコストを下げるのは難しいようで、当初捌けると思っていた見込みよりかなり多めに刷ったにも関わらずそれなりの単価になってしまった。ちなみにページ数は表紙込み34Pで、文字数はちゃんと数えてないがたぶん五万字くらいである。

というわけで、最終的なタイムスケジュールは下記の通りである。

1.本文を書く (2015年12/31~2016年8/10)
2.挿絵・図表・写真等の撮影や手配 (2016年7/30~2016年8/10)
3.DTPソフトでそれらをレイアウトする (2016年7/30~2010年8/10)
4.出力し、印刷屋さんに渡せるデータにする(2016年8/10)
5.本が完成し、受け取る(2016年8/11)
6.販売する(2016年8/14 コミケ三日目)

なんかこう参考になるのかならないのかよくわからないデータだが、とりあえず現代においてはそのコミケ開催前週の時点でもオンデマンド印刷を使えばまだ手直しの余地があるということでもある。もしこの辺をもう少し迅速に行えばコストダウンが可能ということであれば、次回はその辺りをもう少しなんとかしたいところではある。

というわけで本は完成したのだが、文字数が多くなりすぎたので次回のコミケ当日編へ続く。

レンタカーで車を借りに行く男達 -実録変なレンタカーを借りに行く3-

特に誰かから望まれているわけでもないのに地味に連載化されている変なレンタカーシリーズもとうとう第三弾である。実際はここに書いてないだけで変なレンタカー借りてきたのは三度どころではないのだが、最新版となる今回は特に意味の分からない行程だったのでせっかくなのでここに書き残しておく。

話の始まりは数日前、知人から「富士スピードウェイでは本コースを体験走行出来るらしい」という話を教えてもらったことから始まる。

これまで知らなかったのだが、改めて調べてみるとレース等が行われている合間の時間帯で車両持ち込みでの走行が可能になっており、またトヨタ G'z車両を貸し出しての走行も出来るようになっていた。そしてどちらも2,100円である。あの国際格式のサーキットを先導付きの体験走行とはいえ、3周走れて2,100円なのだ。観客として見に行ったことはあるし、ゲームで走ったこともあるが、あの景色が体験出来て2,100円は格安なのではないかと気分はにわかに盛り上がった。

しかし、これらの体験走行は何らかのレースが開催されていれば当然そちらが優先されるので多くは平日に開催されており、また予約は不要ながら開始時間は12:00からと予め指定されている。ひょっとしてこれは参加の難易度が高いのでは……と思ったが、運良くその週の土曜日は開催日となっていたので勢いのままに行ってみることにした。

さて、ここで問題になるのが現地までの足である。当然家に車があるんだからそれでいいと思っていたのだがせっかくだから他の車に乗りたいといういつもの理由により、車を借りていくことにした。出来ればS660が良かったのだが、直前予約ということもあり予約が取れなかったのでコペンにしたコペンは以前も借りたことがあるのだが、神奈川県内には複数配備されているようで近所の店舗でも借りられるようになっていたことと、何よりS660よりも安いのがいいところである。

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ちなみに前回借りた時はローブだったが現在配備されているのはエクスプレイの方のようだ。写真は前回借りた時のもの。(2014年11月)

と、いうわけで当日朝、言い出しっぺの知人と合流しレンタカー屋でコペンを引き取る。借りたのは白/黒ツートンカラーのエクスプレイで、前回のシルバーのローブに比べると、言っちゃ何だがパトカーかパンダのような配色である。流石に男二人で乗ると先日のロードスターよりも狭いが、携帯や飲み物を置くスペースはあるのでドライブには苦にならない。最近自分の中で車の利便性に対する評価基準が著しく低下している気がするが、たぶんこういう車ばっかり乗ってるからだと思う。

早速オープンにして走り出す。幸いにして天気はこれ以上ない快晴で、逆に少し暑いくらいである。日焼け止めと帽子を持ってこなかったことを若干後悔しつつも富士スピードウェイを目指す。途中高速が事故で渋滞になっているとの情報を掴んだので、東名ではなくR246を使うことにしてヤビツ峠に立ち寄った。

休日のヤビツ峠は(特に秦野側の表ヤビツは)チャリ勢が非常に多く、またバスも通っていることから気を使うのだが、流す程度のスピードで駆け抜けるには大変気持ちの良い道である。展望台まで駆け上がって折り返したが、やはり自分の手の中に入るサイズとスピードという面では「軽でいい」し「軽がいい」のかなという感想を抱いた。FFということもあってか飛ばしすぎなければあまり変な挙動も起きないので、グイグイ曲がっていくことが出来る。前回借りたロードスターのようなアクセルオンで意図的にリアを巻き込んで遊びたくなるクイックな感じともまた違う乗り味である。

麓に戻っても高速は未だにダメそうということもあって、再びR246をそのまま進む。排気音は思ったよりも野太くてキャラクターには合ってるのか疑問もあるが、バイパスの巡航を無難にこなす。そうこうしてる間に少しの余裕を残して富士スピードウェイに到着。ここに来るのは昨年のWEC以来だが、今日は特にレースが行われていない日なので静かなものである。入場料1000円を払って場内へ。

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今日のレンタカーPart1。レースウィークではないのでこのような記念撮影も出来る。(ゲートは端にあるものしか開いていないので) それにしても天気がいい日だった。

さて、最初に述べた通り車持ち込みでコースを走ることが出来るのだが、残念ながらオープンカーは安全上の問題があるためロールバー装備でないとたとえ体験走行であっても走行は認められていない。つまり、ここまでレンタカーで来ておいて何だが更に車を借りる必要があるのだ。

なら最初っから家の車でそのまま来いよという話なのだが、持ち込み走行とG'z車両のレンタルでの走行はどちらも2,100円で、ならば借りた方がオトクという論法も成立するわけである。コペンの代金については取り急ぎ無視するものとする。

おそらくこの価格設定にはトヨタとしても価格差分を負担してでもモータースポーツに触れてもらいたいし、自社製品に触れてもらいたいという思いも込められているのだと思われる。もちろん消費者側から見れば結果安価に楽しめるのだし、普段試せない車に乗れるのだから良いことずくめである。

借りられる車両はいくつかあるのだが、今回は延々悩んだ末でマークX G'zを選んだ。MT車ヴィッツ G'zだけで他は全部ATなので、こういう時こそMT車という選択もあったのだが、こういうスローペースの体験走行では下手すれば3速入れっぱなしになってしまいMT選ぶ意味がなくなってしまうのではと思ってやめてしまった。実際は後述するようにどうもそうでもなかったようなのだが……。ちなみに知人はアクア G'zをセレクトした。

f:id:seek_3511:20160618114931j:plain今日のレンタカーPart2。400万以上する高級車だけあって流石に端々の作りがいい。ノーマルを知らないのでチューニングによる差異はわからないが、こうした場所で走るにも十分な車なんだなーと思った次第。

……開始時間が近付くと続々体験走行の車が集まってきた。だいたい一般車が20台くらい、レンタル車両4-5台+数台の二輪でトータル30台弱くらいでの走行になるようだ。先頭には当然先導車が付くのでスピード出し放題というわけではないが、これから走るのはまぎれもない国際格式のサーキット、富士スピードウェイの本コースである。

一般車、レンタル車両、二輪の順にコースインしてあとは前の車に着いていくことになる。ピットロードから加速して本コースに出た瞬間は「ゲームで見た景色だ!」と感動してしまった。ちなみに体験走行ということでペースはどんなもんなのかなと思っていたのだが、前走車を追い越さない程度のスピードは出せるのでシケインではスローダウンするしストレートでは100km/hを越えるくらいまで加速することが出来る。これならMT車でも良かったかなと思ったがもう後の祭りだった。(マークXではパワーがあるのでほぼ2-3速に入れておくだけで済んでしまう……)

前後の車があるので当然抜いたり抜かされたりするわけにはいかないが、その枠の中でアウトインアウトでコース幅を目一杯に使って走ってみれば実際にサーキットを走っているんだという感慨がふつふつと湧いてくる。意外に狭く感じたり、ゲームで感じたアップダウンなんかもいちいち新鮮だし、撮影しに来た時に各スポットでカメラを構えていたことを思い出しながら今はこちら側(?)であることが誇らしかったりする。そうこうしているうちに三周の周回はあっという間に終わってしまった。とても楽しかったので次は自分の車で来てみようと心に決めたのだった。

さて、せっかくなのでもう少し遊んでいくことにする。富士スピードウェイ内には本コース以外にもショートコースやカートコースなどがあり、カートは7周1,500円で借りられるということでそれも乗ってくことにした。ちなみにこの値段、普段会社の有志でやっている県内某所でのカート大会(同程度のコース長で練習走行含めて15~20周・参加費5,000円くらい)に比べても安い。

f:id:seek_3511:20160618124018j:plain今日のレンタカーPart3。車としてはこれ以上ないくらいシンプルなもの。

初見のコースなのでギリギリを攻めるわけにもいかず抑えめに走ったのもあるのだろうが、以前走ったことのあるカートコースのカートよりも扱いやすくて拍子抜けした。普段乗ってるカートはハンドル真っ直ぐでブレーキを踏まないとすぐスピンするし、ブレーキも考え無しに踏むとすぐロックするので非常に気を使うのだ。見た感じ仕組みは一緒に思えるのだが、謎である。

その後は30度バンクを見学したりしてから飯を食いに行き、再びコペンで箱根を越えてのんびりと一般道を使って帰ってきた。この日の気温は30度を越えていたが、箱根は標高が高いせいか涼しくてやはりオープンカーにはちょうど良い感じであった。トータルでは総行程150km行かないくらいのショートツーリングであったが燃費はメーター読みで16.4km/lと優秀で、ちょっとコペンがうらやましくなった。

……このレンタカーを借りるシリーズも段々ひねくれてきて、とうとう家に車あるのにレンタカーを借りて更に行った先で別の車を借りて走るというメタ的な領域にまで到達してしまったが、これはこれで大変面白かった。レンタカー云々はともかくとしても、サーキットでこうした体験走行が出来るというのはあまり周知されていない気がするし、とかく敷居が高くなりがちモータースポーツに初めて触れるという意味でも面白いのではないかなと思うのである。

もちろんこれを体験してからは、一度くらいは先導無しのフリー走行がしてみたいと思うのも自然な流れなわけで、帰ってきてからその辺りを調べ始めている自分がいたりするという……。

なにをいまさらDSC-RX10

私事ではあるが、ゴールデンウィークは友人と九州に行ってきた。

例の地震の直後だったので一時は中止も考えたのだが、もともと(珍しく)宿も飛行機もキッチリと取ってしまった後だったので結局そのまま行くことになり、結果としてその決断は正解だったと胸を張って言える程に楽しんできた。というか、行く先行く先ゴールデンウィークとは思えない人出の少なさでとても快適だった。だが、それはつまりキャンセルをした人も多いということなので、そういう意味では内心複雑だったのも確かである。

で、旅行自体は良かったのだが、最近は旅行に行くたびに持っていくカメラを何にするのかで迷っている。一人旅で写真を最優先しても文句を言われないのであればそれこそ一眼レフでも中判でも何でも持っていくのだが、友人達と一緒であれば写真を最優先にするというのは少し気が引ける。第一重すぎて持ち歩くのが億劫である。

一昨年の北海道旅行の時もそういうことを感じて中古で当時安かったPowerShot G1Xを買う寸前まで行ったのだが、結局α900を持っていくことになり機材の重さに耐えた結果として素晴らしいカットを納めることが出来た。しかしまぁ、北海道は正直別格である。今回はそこまで気合いの入った旅ではない。

というわけで、今回は写りと可搬性のバランスを考えてボディはα900をやめてα7にした。ここまでは良かったのだが、レンズはというとそういえばEマウントどころかAマウントでも便利ズームを持っていなかった。結局24-70/2.8ZAとアダプターという形になり、可搬性の面ではだいぶ課題が残った。

かといってGR一本勝負というのは、それはそれで旅写真のひとつのスタイルとして憧れるが旅先という未知の地平に対し、人間そこまで思い切りよくはなれない。

かくして、さほど必要でもないかもしれないニッチな「旅行用のカメラ」というのが気になり始めた。それなりに画質がよくて、それなりに取り回しがよくて、それなりにズーム出来るカメラが足りていないのだ。逆に言うとそこから取り回しを諦めればα900大三元を持っていくし、ズームを諦めるならGRで済む。どちらもほんの少しの我慢である。そうした小さな我慢をするだけで不要になるかもしれない、そんな程度のニーズだった。

しかしこのニーズ、防湿庫に中判からコンパクトデジカメまで取り揃えている割には確かにエアポケットであった。先述の通りAマウントもEマウントも便利ズームは持っていないし、コンパクトカメラはGRなのでどうしても諦めるものが出てくる。というわけで選択肢はだいたい3つくらいに絞られた。

1.Aマウント用にタムロン 28-300mm F3.5-6.3 Di PZDを買う
2.Eマウント用にソニー FE 24-240mm 3.5-6.3 OSSを買う
3.それなりのズームコンデジを買う

とりあえず価格の順で言えばモノにもよるが3→1→2の順に高価であろうか。ズームコンデジを買うと言ってもやっぱり現行で言えばRX100mk3とかその辺になるんだろうなーとぼんやり考えていたので、その辺で行くとやっぱり最低でも5万くらいは用意しないといけない感じである。さっきも言ったようにニッチな需要なのだが、出す金額としてはなかなかヘビーである。

そんな中、それまでは全くノーマークで「一体これを欲しがるのはどういう層なのだろう」とすら思っていた初代DSC-RX10がmk2へのモデルチェンジでそれなりに安価になっていることに気が付いた。ヨドバシやビックの展示落ちアウトレットで6万円を切っており、出始めの値段からは約半額である。

そして、当初は中途半端に思えたスペックも、よく考えるとそう悪くない。また、通り一遍の新製品レビューではやはり中途半端さを指摘されながらも、購入者のレビューでは不思議と好意的な意見が目に付くのも気になるところだ。しかし、そうであっても6万円は大金である。元々たいした根拠もなく欲しがっているものなのだし、もう少しすれば物欲も自然に収まるだろうと、そう思っていた。

 

……そうしたら突然、展示品落ちながら4万円を切る出物が出てたので、気が付いたら買っていた。

 

  ──うん、「また」なんだ。済まない。
  仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。

  でも、この記事タイトルを見たとき、
  君は、きっと言葉では言い表せない
  「またかよ」みたいなものを感じてくれたと思う。

  殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい
  そう思って、この記事を書いたんだ。

  じゃあ、本文に戻ろうか。

 

閑話休題

 

それこそ何度も書いているが、このサイトでカメラやレンズが増えるのは全て「安かったから」が理由である。それ以上でもそれ以下でもない。そして今回も、である。

冗談はさておき、一度気になりだしてから考えれば考えるほどこれこそが要求スペックに近いカメラなのではないかという思いが高まっていた。

RX100などに比べて大柄だと思っていたボディは撮像素子サイズとズーム比と明るさを考えれば許容範囲だし、もちろんα7にAマウントレンズよりはマシ。それでいて焦点距離設定は絶妙なラインである。α7に24-70を付けた時も感じていたがテレ端70ではちょっと物足りない。RX100系の70ないし100mm相当ではきっと不満を覚えるだろうことを考えれば、200mm相当は魅力的である。一方テレ端がもっと長いカメラもあるが、当然サイズは大きくなるし、旅行だと400や600mm相当が必須というわけでもない。個人的には旅行スナップ程度の用途で望遠レンズ的な画面効果を使うのなら135~150mm相当もあれば十分ではないかと考えている。

そして元値が元値だけに作りのいい金属ボディだし、しっかりしたグリップとキチンと使えるEVF、絞りリングの他はα7とほとんど変わらない操作インターフェース、そしてストロボや電池がα7と共用出来てUSB充電まで可能と、一つのカメラで旅行を完結させるには最適なスペックだと感じるようになった。もちろん、絶対的なボディサイズはそれなりにあるのでポケットに入らないとイヤだとかそういうことは考えられるが、そんなときはGRを使えばいいだけのことである。

というわけで、最近は外出する時少しでも余裕があればカバンに突っ込むことにしているのだが、今のところ使い込んだと言える程触ってはいない。また、残念ながら泊まりの旅行というのにも行けていない。その上での現時点での感想について書いてみたい。

このカメラに購入前に抱いていた「一体誰をターゲットにしたカメラなのか?」というのは実際に自分が買った今でもたまに感じることがある。先述の通り旅カメラとしての意義は感じるが、かといってそこだけを狙ったカメラというわけでもなく、ある意味でRXシリーズの枠の中ですら立ち位置の説明が難しい機種だと感じる。

究極の一台として取捨選択を経て研ぎ澄まされたRX1系、あるいはメモ用途から一眼レフのスーパーサブまでこなす万能カメラとしてのRX100系に比べると、悪く言えば「何でも出来るがどれも中途半端」なスペックなのだ。そしてそれは、ライバルであるLUMIX FZ1000やPowerShot G3Xに対抗してテレ端600mmを誇る望遠番長、RX10mk3が生まれた時点で余計に強調されてしまった。

だがしかし、それでもこのスペックがウェルバランス──つまり均衡が取れている──状態であるというのも感じる。それを感じるシーンの一つが、先に述べた旅カメラなのである。

話は変わるが、今マツダの販売店で1日試乗キャンペーンというのをやっていて、つい最近有給を使ってND型のロードスターを1日乗り回してきた。以前レンタカーでNB型に少し乗ったことはあるが、ND型はもちろん初めてである。

せっかくのレンタルだし何処に行こうか迷った結果、結局埼玉の山奥に行って峠道を何往復かして遊んできたのだが、その時にもRX10を持っていった。そして車に乗ったりカメラを構えたりしている中で再度「ウェルバランス」というものに思いが至った。

ロードスターも結局のところ(屋根が開くという特殊性はあれど)スペックからすれば必ずしも尖ったところのない車である。まぎれもないスポーツカーだが、わかりやすく500馬力あるとか、300km/h出るとか、そういう車ではない。

しかし、作り手側がバランスを追求したであろうことは少し乗っただけでも理解出来る。少なくとも素人が公道を流すくらいからちょっとハイペースで駆けるくらいまでにおいては大変よく出来た車である。実際のところ絶対的に速い車はもっとあると思うが、いろいろな意味で手を伸ばしさえすれば手の届く範囲の車だと思うし、尖ったスペックで勝負しているわけではないが、十分に魅力的である。

とはいえ、例えば歴代最小排気量のエンジンなんかを指してモアパワーを望む声もあるし、この尖ったスペックのないバランスというのは見方を変えれば「中途半端」とも取られてしまう危険がある。しかし、分かっていてもそうはしていない。

つまり、分かりやすく目を引きやすいスペックがいろいろある中で、敢えてそれらを中途半端に留めてその中でバランスを追うというのは、実は難易度の高い行為なのではないかと思うのである。

RX10というカメラが、果たしてロードスターのようなバランスを突き詰めた末の成果物なのかどうか。それは正直なところ判断を下せるほど使い込んでいないのでまだ分からない。そしてもちろん、旅行用カメラという当初の用途に合致するかどうかもまだまだこれからの結果次第である。

しかし、そうしたバランスに挑む心意気みたいなものは確かに感じたし、だからこそ購入した人からはあまり悪い評判が聞こえてこないのだとも思う。

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ルノーで日産を見に行く男達 -実録変なレンタカーを借りに行く2-

昨年、ポルシェを知人と借りてみたはいいがやることがないので千葉までラーメンを喰いに行くという記事を書いた。

実のところ、あの記事以降も相変わらず変なレンタカーを探して乗ることに情熱を燃やしており、特に記事にはしていなかったがコペンであったりゴルフのカブリオレのレンタカーを探しては乗り回したりしていた。

さて、そんな中で前回同行した知人から日産座間の一般公開があるので行きませんかとのお誘いがあった。こういうメーカー工場併設施設の公開というのはたいてい平日しか受け付けていないので、平日有給取るのもかなりハードル高いなーと思っていたら、どうやら季節によっては土日も公開しているらしく、上手く土日の公開の予約を取ることが出来たのだ。

……と、それだけならば普通に電車で行って南林間駅辺りに集合すればよいだけの話なのだが、せっかくなのでということで何か車を借りていくことにした。自家用車使えよと言われればまったくその通りなのだが、実のところこんな時にふさわしい車の心当たりがあったのだ。

以前の記事には書いていないが、実は神奈川県内のオリックスレンタカーはたまにマニアックな車種をキャンペーンカーとして格安で貸してくれることがある。冒頭に書いたコペンなんかもそうであるし、現在はS660なんかも始めたようである。

この中に、現行のルノー ルーテシアを貸してくれるというキャンペーンがあり、発着店が小田原に限られるものの、なんと12時間借りてキャンペーン価格5,832円である。これはフィットとかの国産リッターカークラスを借りるよりも安いのだ。

借りられるグレードは1.2 ZENという普通のグレードで、当然のごとくスポーツグレードのRSやらGTではないのだが、これは欧州コンパクトカーはベーシックグレードで味わうのがよいというどっかのガイシャびいきの雑誌の言を信じることとする。というか、外車自体数える程しか乗ったことがないし、ましてフランス車は初めてである。

というわけで、朝イチ小田原で車を借りて箱根辺りを流したあとに座間までドライブし、また小田原に戻るという行程ができあがった。座間に行く為に箱根を経由するのだから、自分で考えておいて何だがトチ狂った行程である。

そして当日朝、時間通りに店舗に向かい真っ赤なルーテシアを受け取ると同時にアレコレ説明を受ける。ハンドルは右だがウィンカーは左、これはやっぱり仕方ない。んで、書き忘れていたが今回の車はDCT車で、実のところDCT車ってどうなのという興味がこれに目を付けた理由である。室内全体の雰囲気としては思ったほど国産コンパクトと変わるところがない。違和感があるのはスロットに差し込んで使用するカード型のキーレスくらいのものである。そんなわけで知人を駅で拾って、取り急ぎは箱根の山を登ってみることにする。

さて、コンパクトカーというととりあえず自分の中のベンチマークは以前乗ってたコルトラリーアートであるが、アレに比べるとだいぶワイド&ローだがボディがデカいというほどではない。

また、どちらもターボ車であるが、コルトは1.5Lのどちらかというとハイパワー指向のターボ、そしてルーテシアは今をときめくダウンサイジングターボという性格である。それでも118psあるのでそこらの国産コンパクトカーよりはパワフルというのは今さっき諸元を調べていて初めて知った。正直乗ってる時はコルトほどのパワー感はなかったのだ。

それでも、箱根新道の追い越し車線でアクセルを踏んでいくと必要十分程度のパワーは出る。このパワーはこれ以下だとかったるく、これ以上はいらないかもしれないという絶妙なところである。というわけで大観山ドライブインまで行ってみたのだが、残念ながら現地は視界十数メートルの霧模様。いつもであれば居るはずのスポーツカーの姿も心なしか少ない。というか駐車場の車の中からその先にある筈のドライブインの建物が見えない。

こんな視界では当然ドライブどころではないので、軽く流したら早々に退散。当初の予定では椿ラインに抜けたり芦ノ湖スカイラインに行ったりする予定だったのだが、ターンパイクの上側がこれではどちらに向かってもダメそうだということで、長尾峠から御殿場方面に抜けてR246で座間を目指すことにする。

途中、長尾峠近辺では多少霧もマシになったので少し早めのペースで流してみたが、正直このくらいの出力の車を少し高めの回転数を保って流すのは非常に面白いと感じた。ハンドリングは素直だし、スポーツカー的ではないがかといって退屈でもない。やっぱりこの辺りは多少なりとも国産コンパクトカーとの違いを感じるところであった。

ただし、DCTは思ったほどのダイレクト感ではなく、あくまでもジェントルめのセッティングのようだった。また、室内で手に触れるインターフェースはあくまでもATのそれなので、DCTという言葉から想像されるようなクラッチなしのMTを操っている「スポーティーな」感覚はない。感触としてはマニュアルモード付きのATやCVTとほとんど同じである。

ただ、R246をDモードで流している時にはその特徴はいい方に作用しているなと感じた。正直なところMTベースATということもあってシフトショックに身構えていたのだが、普通に市街地を流す分にはとってもフツーのAT車である。これにはちょっと拍子抜けしてしまった。ただし、国産オートマ車と感覚が異なる点というのはやはりある。

一つはクリープで、あるにはあるのだが、非常に動き出しが遅い。このため、渋滞追随などには非常に使いづらい。もう一つはこれもごく低速での動き出し~低速キープ時の挙動で、渋滞時のノロノロ運転などではギアを決めかねたり、苦しそうな素振りを見せる。流石にこれは、日本にはDCTって向いてないのかもねと思わせる挙動であった。

そうこうしているうちに日産座間工場へと到着。無料で構内の駐車場に止めさせてもらえるので、誘導に従って中へ入るとすでに駐車場は数台分埋まっていた。わざわざこのためにルノー車で来るような連中のことはさておき、駐車場を見る限りでは必ずしも現行の日産車ユーザーばかりが来ているというわけでもないようだった。

館内へと案内されると簡単な案内ビデオのあと、いよいよ保管庫内へ。最初のうちはお姉さんが各車について解説してくれるが、収蔵台数およそ300台ということもあって、全台数を解説していては日が暮れてしまうため要所を押さえながらテンポよく進行していく。特にメーカーでないと残せないであろうイベント関係の車両などが充実しているのは素晴らしいところだ。また、解説を飛ばされた車両についてもほぼすべて解説プレートが付いているので非常に親切である。

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どのくらいの台数あるかというと、このパノラマ写真だけで一列分である。これが複数列ある。大まかに言って市販車ゾーンとレースカーゾーンに分かれており、市販車ゾーンはこの通りダットサンの時代から揃っている。このクラスになるとそれこそ博物館級であり、街で自走している姿は全く期待できないレベルの車両たちだ。

なお、これだけ貴重な車の数々なのでよく見るとところどころ車列から抜けており、これは世界各地のイベントやディーラーなどに貸出されているとのことである。訪問日はハコスカGT-Rなどが不在であった。故にもし全台数を見たければ複数回訪問しないとコンプリート出来ないわけであるが、そもそもこの台数だと一日だけではとてもではないがじっくり見ることは出来ない。

お姉さんの解説もそこそこにあとはフリー見学タイムとなったのだが、ここで素晴らしいのは手を触れなければ見学時の立ち位置は自由で、それこそ顔が映るほど近寄ってじっくりと観察したり、自分なりのアングルで写真を撮影することが出来る。華々しいレースカーもあれば渋いチョイスもあり、お姉さんの話では、一台を見るだけで自由時間を使い切ってしまった人もいるくらいだそうだ。きっとその人にとって思い入れのある一台だったのだろう。

というわけで、全部写真を撮るというのはとてもじゃないが無理であった。その台数に圧倒されて「へー」とか「ほえー」とか言いながら眺めてくるのがやっとである。

そんな中でも、何枚か写真を撮ってきたのでそれを掲載しておく。

ちなみに、観覧後のアンケートの自由記入欄でリクエストがあれば導入車両については随時検討してくれるそうである。最近ではそうしたリクエストからレストアされたばかりのダットサンベビーが導入されたそうである。

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クリスプカットの初代シルビア。ちなみに白色の個体とこのグリーンの個体と二台置いてあったが、やはり初代シルビアというと個人的にはこのグリーンの印象が強い。

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もちろんR380も置いてある。流麗なボディラインはこの時代のクローズドのレースカーならではのものである。時代はこのあとクサビ形のスタイルと巨大なウィングの二座席オープンへと繋がっていく。

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今はなき横河ヒューレット・パッカードのロゴも懐かしいCカー軍団。ルマンカーということで、この並びには公認のためだけに作られたGT-R LMロードカーや R390ロードカーも並べられている。すぐ近くにZ32も置いてあるので「本当にR390のヘッドライトはZからの流用なのか」を確かめるといったマニアックな楽しみ方も可能である(確かめた)。

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そして各世代のGT-R。この辺りはよく銀座ギャラリーや本社ギャラリーに貸し出されていることも多いが、世代ごとに見られるというのはやはりこの施設の素晴らしい点である。しまいには多すぎて有り難みがないとか罰当たりなことを言っていた覚えがある。

かように、写真を撮っているだけでもあっという間で、後ろ髪を引かれつつも時間切れであえなく終了となった。

言ってしまえば倉庫内に車が並べてあるだけなのだが、ある程度車に興味がある人間であれば、それこそが素晴らしいというのは共感してもらえると思う。土日公開の月は少ないとはいえ、平日も含めればかなりの頻度で公開されているので車好きであれば行って損はないだろう。運が良ければ搬出に立ち会えたり、一部の日程ではドアを開けてくれる日も用意されているらしい。

これが博物館であると入場料を取られるのはいいとしても、絶対に触れない展示台や柵などに囲われてしまうことになるし、この展示密度はそんじょそこらの博物館では勝てないレベルである。不満があるとすればただ一点、見学の時間が足りなすぎる、これだけである。願わくば、ずっとこの自由度の高い公開方法を続けて欲しいところだ。

というわけで、一切ルノー車で行く意味は無かったが大満足の座間記念庫見学であった。車好きにはホントにオススメ。