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無名サイトのつづき

フィルムカメラはじめました

無駄な買い物をしてしまうのは、心が沈んでいる時に多い。

おそらくストレスに対する防衛機構か何かになっているのだと思うが、凹む出来事があると決まってモノを買い込んで必死で忘れようとしてきた。実際、精神の平穏という意味ではそれはある程度成功しているのだが、問題なのは日々増えていくモノたちである。

なんでまたこんなことを書いているのかと言えば、今週末も手痛い失敗と、その反動としての買い物を繰り返してしまったからだ。失敗の具体的内容についてはここに書いても仕方ないので詳細は控えるが、晴れやかな土曜日の気分を台無しにするには十分過ぎる失敗であった。

……で、その結果として今週末は買い物が大変捗ってしまった。しかし、その中でも元々買うつもりだったものと、買うつもりではなかったものに分けられる。

元々買うつもりで買ったものは、車のシートと取り付け用のシートレール。前回記事にもある通りコルトのシートは比較的マシとはいえ長距離だと辛いところもあるので、隣県のパーツショップにあった中古のレカロを購入した。SR-3の並行物だが、サイドサポートの潰れなしで3万円ならまぁ安い方ではないかと思う。また、これに伴ってシートレールも別の店舗から取り寄せた。これらについては近いうちに取り付ける予定なので改めて書いてみようと思っている。

さて、ここからが問題である。本来であれば買うつもりだったのは上記のシート一式だけであった。しかし、せっかく遠くまで来たのだからと、道中でリサイクルショップに寄ってしまったのが運の尽きであった。

いつものようにジャンクの棚を冷やかすとそこには、泣く子も黙るフラッグシップであるNikon F2が鎮座していた。

昨今のフィルムカメラ受難の時代にあって、たとえ各社最上級機であっても以前からは考えられないほど値下がりしているのは知っていたが、付けられたプライスタグはそうした相場の底辺を流れている物件よりもさらに大幅に割安であり、正直少しでも動くなら多少難があっても買いというレベル。

しかし、しかしである。写真を始めた時からずっとデジタルがメインである人間が、今更フィルムカメラを買っていったいどうなるというのだろうか。まずコスト。フィルム代・現像代・プリント代。それも多くて一度に36枚撮りの世界である。そしてそれをPCで扱うならばスキャンもしなくてはならない。もちろん利便性でいえば今の世の中、圧倒的にデジカメ有利である。ジャンク棚の前で立ち尽くしているうちに、様々な考えがグルグルと頭の中を巡った。

とにかく、ミノルタペンタックスであればいくらか操作やチェックポイントもわかるがニコンはまったくわからないため、いったん車に戻ってiPhoneで簡単に調べることに。そして数十分。結論は決まった。少しでも動くなら買う。

この結論の理由は防湿庫に入っている一本のレンズにあった。Ai Nikkor 135mm F2s。ニコンマウント機を持っていないのに唯一所持してるFマウントレンズである。何でそんなもん持ってるのかというと、一年ほど前に別のリサイクルショップで破格の値段で売りに出されていたからであり、つい購入したもののボディがないので今までずっと死蔵していたからである。オークションにでも出せばいいのだろうが、天性のめんどくさがりから今の今までそのままになっていた。

そうだ。あのレンズを生かすにはこのくらいのカメラが必要なのだ。そう思い立って、ジャンク棚の前に舞い戻った時、すでにジャンク棚にF2の姿はなかった。

あれ? と思いレジの方を振り返ってみたら他数本のレンズとともに、F2を抱えて今これからチェックしようとする人の姿が。遅かったのである。ほんの少しだけ。

念入りにチェックをするその姿からは、この機種がこの値段というのはお買い得ということを分かっている人だな、と思わされた。これは完敗である。しかし、ここまで来て簡単に諦められなかったので、その人が買わないという可能性に賭けることにした。

もちろん、それなりにカメラのことが分かっているであろう他の人間が見送ったカメラを買うということは、相応のリスクを背負った行為である。だが、その人が買って帰るのであればその場で諦めがつくし、もし買わなかったならば、自分でチェックすればいいだけのことだ。その時に誰にでもわかるような致命的な問題があれば、自分も買うのをやめればいい。それだけのことである。

そこからは一日千秋の思いであった。他に数本のレンズも同時にチェックしていたせいか、だいぶ待たされた。途中で何度かさっさと帰ってこのことは忘れた方がよいのではと思ったくらいである。そして数十分……はかからなかっただろうか、長い長いチェックが終わり、結局その人は別のレンズを購入し、カメラは買わなかった。すかさず、再び棚に戻そうとする店員に声をかけてチェックさせてもらう。

といってもフィルムカメラはズブの素人である。見て分かる不具合があるかどうかを調べていく。プライスタグには「シャッターは切れた」とある。実際に巻き上げてシャッターを切ってみると確かに動く。裏蓋を開けるとシャッター幕は綺麗である。シャッタースピードを変えてみる。正常に幕速が出ているかはわからないが、音は設定に従って変わっているのは確かである。ファインダーはゴミだらけで、ちょっとカビも出ているように見える。しかし驚いたのがメーターの表示が出ることである。F2といえば30年以上前のカメラだ。ファインダーが動くとは思っていなかった。一応露出計の数字も変わっているようだ。ただし、モルトは見る限りすべてボロボロだった。まぁこの時代のカメラであるから、ここは織り込み済である。

結局、簡易的なチェックでは特に問題が見出せなかった。ひょっとしたらマニアだけが知っている秘密のウィークポイントがあって、そこがダメだった故に前の人は見送ったのかもしれないが、もはやここまで来たら答えは一つしかなかった。

「すいません、コレ、買います」

……かくして、既に満杯になった防湿庫にNikon F2が追加されたのであった。

ちなみに不安だったので購入後、α900とメーターを比べてみるとプラマイ半段くらいの誤差に収まっていた。これはもしやと思い、翌日に梅田のニコンSSに持ち込んでチェックしてもらったところ、なんとシャッタースピード・メーターともに今のところは正常に動作しているとのこと。これにはビックリしてしまった。 ちなみにモルトはダメになっているが限定修理は今も受け付けているという。分解しなくても張り替えられるのでお値段も思ったよりはリーズナブルだった。

腐っても鯛というか、ジャンクでもフラッグシップはフラッグシップということなのだろうか。

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・SONY α900 + MINOLTA AF
macro 50mm F2.8 (D)