インターネット

無名サイトのつづき

名も無きアレ

20xx年、全世界はコンピューターで繋がれ、情報が全てを支配する世界になっていた──って、妙にSF風な書き出しをしてみたが、実際我々はそういう世界に生きている。どんな知識もその質はともかくインターネットに集約され、適切な検索さえ出来ればありとあらゆる知識に触れることが出来る。そんな世界が現実のものになっているのだ。そう、車は空を飛んでいなくても我々はSFの世界に生きている。

実際のところ、インターネットがもたらした実用的な恩恵といえば18歳にならなくてもいくらでも無料でエロ画像が見られるくらいのものなので、常時接続時代の黎明期に思春期を過ごした人間としてはもっと早くこの時代が到達して欲しかったと考えることしきりなのだがそうした冗談は置いといても、現代を生きる必須スキルとして「インターネットにおける検索能力」が挙げられるのは間違いの無いところであろう。

一時期ほどは見なくなったが、あらゆるメディアが「続きはネットで」を推し進めた結果、検索能力の無い人間はそうした情報にたどり着く術を失ってしまった。個人的には、何らかの理由によってこうした検索すらすることが出来ない人間が(煽りとかの意味ではなくて)真の「情報弱者」なのではないかと思っているが、その話は長くなりそうなのでここでは触れないことにする。

こうしたインターネット上における検索は、基本的にテキストベースである。ありとあらゆるデータは、まず一旦テキストを解釈した上で分類分けされ、またテキストによって検索される。たとえばインターネット上に上げられた動画や写真も、それそのものを解析するには至っていないのでたとえばそれが引用された近辺のテキストであるとか、もっと直接的にはタグとかを使って検索することになる。

たとえば「花火大会に行ってきました」というblogの記事に使われていれば、必然的に花火関係の写真になっているだろう、という理屈である。実際に写真そのものを解析してその中に花火が写っているかどうかとか、時刻データとGPSデータを参照して撮影された日に花火大会がありその近くで撮られたものかどうかなんて解析は(おそらく)行われていない。

ということは、インターネットにある情報のほぼ全てにはテキストとしての名前が必要ということである。名前がなかったら、それが何であるのか検索できないのだ。

正式名称が分からないからなんと呼べばいいか分からないもの、というのはインターネット普及以前から確実に存在していて、最も有名なものの一つは「トイレの詰まりを直す半球状のゴムに棒が付いてるアレ」だが、こういったものに対してはインターネットはしっかり対応していて、たとえば上記のような完全な口語表現でもそのままGoogleに打ち込むとちゃんとラバーカップが検索に出てくる。また、俗称の「トイレのスッポン」とかでも同様である。

ただし、これは「正式名称が存在しているのにそれがわからない」からおそらくこうだろうという検索の末にたどり着けるのであって、仮に求めているものに正式名称が存在しないとしたら、いよいよ検索は無力になっていく。

この記事で何を言いたいかというと、適切な正式名称が存在しないモノや概念は、果たしてどうやって調べたらいいのかと、そういうことである。

そんなわけで、最近気になっている正式名称が存在するのかよく知らないが、検索しても上手く説明している情報に行き当たらないモノや概念としては下記のようなものがある。

・「○○書店」(ないしは書房など)という名前であるが、一般書を扱わずにいわゆるエロ本やエロDVDしか扱わない店舗がよく見られるが、そうした「エロ本屋」の書店業界における位置付け、またそうした店舗を表す名称(便宜上アダルト書店という名称で合ってるとは思うのだが……)

これは気になっているのだが、未だに答えにたどり着けたことがない。もちろん検索するにしても方法はあると思うし、情報が全くないようなものでもないのだが、片手間に検索した程度ではちっとも納得のいく説明にたどり着けないのである。

また、最近までずっと引っかかっていて解決したものとしては「『こなさん、みんばんは』などの文節の頭文字を前後で入れ替える言葉遊びは何と言うのか」というものがある。これは何と呼んでいいのかがわからないのでスネークマンショー絡みで調べていたら「語音転換」という言葉に行き着きどうやらこれが求めていたモノらしいと判明した。

……というように、正式名称がよくわからない(もしかしたら存在しない)ものの検索というのはどうにも困難がつきまとう。

もちろん、これらの対策として人力検索というものがあるのは確かだが、これも回答者頼みな面が大きい。とはいえ口語で質問できるので曖昧な語句でも補足情報を含めつつ伝えられるのは大きい。現時点で機械検索にわからないことがあれば、人力検索が最も正解にたどり着きやすいかもしれない。個人的には一度も使った事は無いが。

あと、逆に言えば正式名称のないものや新しい概念を、影響力のある人物なり機関がこうと決めてしまえば、それが一定以上のユーザーに使用されれば(少なくとも検索サイト上では)新名称として定着するということでもある。ネットスラングのほとんどはこうした成り立ちであるし、たとえばサジェスト汚染と言われるようなものもその変形パターンでないかと思われる。海外ではこうした事例もあるようだし、国内だとこういうのが該当するだろうか。

長々と述べてきたが、適切な名前がないというのはつまりインターネット上では検索に引っかからないということと同義であり、検索サイトに引っかからない情報というのは、現在のインターネット上では存在を抹殺されているに等しい状況である。とはいえ、一利用者としては先に挙げたように新しい名前を作るわけにもいかず、どうにもならないでいる。

ある意味で、テキストが最大最強の力を持つようになったこの世の中ってのは案外SF的なんじゃないかななんて思ったりするわけだ。車は未だに地面を走っているけれど。