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レンズについて[第7回] : MINOLTA AF REFLEX 500mm F8

現在では忘れられてしまったレンズ構成の一つに、反射望遠レンズ(レフレックスレンズ・ミラーレンズとも)というものがある。詳しい構成や特徴はググれば他のサイトに説明があるので省くが、望遠鏡のようにミラーを使い光路を折り返すことで、焦点距離の割にコンパクトな望遠レンズを作る事が出来る構成である。

利点としては軽量・コンパクトで、また原理的に色収差が出にくい。逆に弱点としてはその構成上大口径化するとどんどん太くなっていくことと、絞りが入れられないこと、レンズの真ん中に反射鏡がある為ボケの形状が独特になること、そして最後にAF化が著しく困難であるということである。

しかし、ミノルタだけはボディ側のAFセンサーとセットで改良することでこの反射望遠レンズのAF化に成功した。実際は後に続くメーカーがなかっただけという気もするが、ともかくもこのAFミラーレンズはミノルタだけの特権ということで、Aマウント用の500mmと、Vマウント用の400mmが作られ、このうちAマウント用はソニーにも継承され最近まで販売されていた。

……が生産中止になり、現在新品でAF可能な反射望遠レンズは存在しない。

と、いうわけで今回は、Aマウントならではのレンズの一つとしてこのAF REFLEX 500mm F8を取り上げてみたい。

このレンズはずいぶん前にとあるハードオフで、ジャンクとして転がっていたものである。多少外装にスレはあったものの見た限りでは光学系にはなんら問題が無かった。一体何故? と思い適当なボディに付けてみると異様にファインダーが暗い。イメージとしては絞り故障で常に絞られた状態のレンズのようである。しかしこのレンズには絞りは存在しない。ピンときて後部フィルターを外すと、付属のNDフィルターが挿入されていた。フロントキャップの裏側に隠されたノーマルフィルターを取り付けると全く問題なし。興奮を押し殺しながらレジに向かった時のことを今でも鮮明に覚えている。当時の中古相場の1/10~20くらいの値段だったのだ。

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α900 + AF REFLEX 500mm F8

外観は先端に申し訳程度のフードが付いている。フィルター径82mmのねじ込み式である。スペック表ではフィルターは後部差し込みとしか書いていないが、フードを外した上であれば、先頭にも装着可能である。使った事は無いが……。スペックについてはいつものスペック表のページを参照してもらいたい。

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ピントリングは非常に軽くスムーズである。MFの反射望遠レンズは逆にグリスを効かせた重めのヘリコイドのものが多い印象があるのでAFレンズならではといったところか。ただし、後述するが非常に繊細なピント操作を要求されるレンズでもある。最短撮影距離が4mなのは、流石に超望遠を感じさせる。

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特徴的な副鏡。これがあるせいで光束が蹴られてしまいAF化が著しく困難だという。ものの本(MINOLTA LENS SPRIT)によると副鏡を可能な限り小型化することでAFに対応しているとのこと。

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後玉側にはフレアカッターが設けられている。なお、反射望遠レンズとはいえ純粋にミラーだけで構成されているわけではなく、後群には通常のガラスレンズが使用されている。故に原理的には色収差が発生しないと言われつつも、厳密に全くゼロというわけではないようだ。とはいえ、小口径かつシンプルな光学系なので影響は大口径超望遠レンズに比べれば少ないと思われる。

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さて、このような経緯でかなりお買い得と言えるお値段で購入してみたものの、このレンズはそうそうに防湿庫へと押し込まれることになる。その理由はいくつかあるのだが、一言で言えば「難し過ぎる」のだ。

絞りはF8で固定で暗いし、AFが使えるとはいえ中央一点固定である。その上で、いくら小型軽量といっても紛れもない500mmの超望遠レンズである。ネット上に飛び交う「デジタルでなら手ぶれ補正もあるしISOも変えられるから簡単に使える」との評を鵜呑みにして撮影に出かけたが、待っていたのは落胆であった。

最初から晴天でしか使えないと思っていたので、よく晴れた日を選び1/500秒以上のシャッタースピードを確保しながら撮影したのに、出てきた画像は何処にピンが来ているのかも不明瞭な眠さで、思わず手振れかAFの不調を疑ったほどである。結局何度か月を撮って遊んだりはしてみたものの、このレンズは防湿庫の中でひとまず眠りにつくことになった。再度取り出されたのは購入から数年たってのことだった。

果たしてあの程度がこのレンズの本当の実力なのか、本当はもっと使えるレンズではないのかと、諦めきれなかったのである。そして試行錯誤をしつつ自分なりに使ってみた結果「とてつもなく難しいレンズだけど、使える」ことを確信した次第である。作例はFlickrにいくつか上げてある。

このレンズが難しい理由を、改めて下記に挙げる。

1.恐ろしくピーキーなレンズで、ハマらないと満足行く結果にならない
2.超望遠かつF8なので、光線状況なども含めて使える条件が限られる
3.リングボケが独特なためどう処理するか問われる

さて「ピーキーなレンズ」という印象であるが。具体的なポイントとしては、ピントが合ったと感じられるポイントが非常に狭いことにある。普通のレンズであれば前後にある程度の幅を持った被写体にAFで合わせれば、ジャスピンは外したとしてもその前後幅の何処かにピントが合っている筈なのだが、このレンズでそれをやるとなんともぼんやりした、何処にピントが来ているのかわからない画像になる。(何故そうなるのかは……正直よくわかっていない)こうした画像だけを見てこのレンズを評すれば「ぼんやりしたたいしたことの無いレンズ」であろう。

しかし、実際完璧にピントが合いさえすればピントが来た箇所のコントラストは十分満足のいくものである。ただ、感覚的にはほんの数センチしかないこのスイートスポットを、500mmという揺れるファインダーの中で正確に合わせられるかというとかなり難しい。あと、このレンズも等倍で見ると解像力自体はたいしたことはないのだが縮小してみると不思議と見られるタイプのレンズである。

このようなレンズなので、カメラボディ側でコントラストとシャープネスを高めておくとよい結果が得やすい。標準状態ではよく言えばフラット、悪く言えば眠たい感じである。また、500mmかつF8固定というレンズなので絞り込めず被写界深度が変わらないのもつらい。

もう一つの描写面の特徴として、反射望遠レンズといえばリングボケとセットで語られることが多い。だが、実のところリングボケというのは毎回目立つわけではない。特に目立つシーンは点光源であり、例えばイルミネーションだとか、晴天の海で波間がキラキラ輝いているようなシーンでは光点の一つ一つがリングボケになる。逆に言うと、これ以外のシーンでバックに普通に光が回っているだけであれば、単なるざわついたボケにしかならないのである。

もちろん、真ん中が欠けたボケ像なのでよく言われるような綺麗なボケとはほど遠いのであるが、常に作画意図をぶち壊しにしてしまうほどでもない。出てしまうシーンでは必ず出現するが、さりとて常に怯える必要はないということである。

偉そうな事を書いてきたが、実際このレンズの打率は非常に低い。他のレンズよりも格段に歩留まりが落ちるのは自分でも感じているところである。ハマった時はちゃんとした画像が出てくるとは言え、外すと本当にどうしようもない結果にしかならず愕然とする。正直言って、所有レンズの中で最も難しいレンズなのではないかとさえ思っている。

とはいえ、だからこそ使いこなし甲斐のあるレンズだとも言えるわけで、ある意味では挑戦状なのではないかとも思っている。なによりこんなレンズ、デジタルでなかったら恐ろしくて使えない。そういう意味ではまだ恵まれた環境に居るのかもしれない。