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無名サイトのつづき

レンズについて[第8回] : MINOLTA AF SOFT FOCUS 100mm F2.8

前回に引き続いて、滅びてしまったレンズのお話。

カメラのレンズは、基本的には「もっとシャープに見える写真を」という方向で発展してきた。その尺度や程度は時代によって様々だが、現在においても「シャープなレンズ」というのは大多数に好まれるところなのは間違いない。

一方で、わざと緩く写るレンズというのもまた一定の支持を集めてきた。現代でもトイカメラやオールドレンズのムーブメントの一部はそうした面を引き継いでいると思うが、その中でも特に軟調の描写を極めたレンズがいわゆるソフトフォーカスレンズである。

古くはベス単フード外し辺りに始まるソフトフォーカスレンズは、かつては各種の専用レンズが発売されるほどの隆盛を誇ったものの、デジタルになって等倍鑑賞が当たり前になり、今まで以上にシャープな描写が好まれる風潮があったり、ソフト効果をソフトウェアで簡単に付加出来ることから現在新品で売られているソフトフォーカスレンズはない。故に「滅びてしまったレンズ」なのである。

もっとも、シャープではない描写自体が否定されたわけではないのは各社ミラーレスカメラなどのフィルタ効果の中に、必ずと言って良いほどにソフト効果が入っていることからも明らかだし、あるいは先に挙げたトイカメラやオールドレンズの流行も証明していることだろう。

さて、日本国内においては先に述べたベス単フード外しというのがソフトフォーカスを語る上で外せないキーワードになっている。このベス単フード外しというのは、簡単に言えば予めフードによって絞られていたレンズのフードを取っ払って本来使用出来ない絞り値で撮影したら収差が増えてソフトな描写になったというものである。言っちゃ何だが結構イレギュラーな使い方なのだが、これがだいぶ流行ったらしい。

で、似たような描写を得る為にソフト専用レンズというのが開発された。例を挙げて(中大判は守備範囲外なので35mm版のレンズに限って)言えば、ベス単の描写を目標に設計されたと公言されているキヨハラソフトや、ケンコー100mmソフトなどが有名である。カメラメーカー純正としてはペンタックスキヤノンミノルタあたりが割と熱心で、特にペンタックスは85mmだけで三種類、更には珍しい28mmのソフトレンズも作っていた。広角のソフトというのはほかにケンコー35mm程度しか例がなく、とても珍しい。

そして、各種のソフトレンズの中でもキヤノンミノルタのソフトレンズには他にない特徴がある。一般的なソフトレンズは絞り開放で最大のソフト効果が得られ、以降絞るにつれてソフト効果が減少するというものだったが、キヤノンミノルタはソフト効果のON/OFFが可能で、その中でもソフト効果が調整出来る。故に、ソフト効果OFFで使えば普通のレンズ、ONで使えばソフトレンズと使い分けが出来るというわけである。こうしたレンズは、具体的にはNew FD85mm F2.8ソフトフォーカス、EF135mm F2.8 ソフトフォーカス、バリソフトロッコール85mm F2.8、そして今回紹介するAF SOFT FOCUS 100mm F2.8が挙げられる。なお裏技的ではあるが、DCニッコールでも似たようなことは出来るとのことだがソフトレンズを謳っているものではないため除外する。

もちろん、どのソフトレンズも基本的には球面収差を利用してソフト効果を得ているので、絞れば球面収差は減少していく(≒ソフト効果が減少する)。調整式の利点は二つあり、一つは開放側であってもソフト効果を切ることが出来ること、もう一つは、絞り込んだ時でもソフト効果を強めることである程度のソフト効果が得られるというものである。

一般的なソフトレンズの話はここまでにしておいて、今回紹介するAF SOFT FOCUS 100mm F2.8の話に移る。このレンズは、ミノルタ時代末期まで販売されていたが例によって生産終了後にプレミアが付いてしまったレンズである(このコーナーで紹介してるのたいていそんなのばっかりな気が……)。一時期の値上がりぶりは凄まじいもので美品には定価以上の値もついていたようだが、現在は少し落ち着いている。それでも定価から考えればアホかという値段ではあるのだが、後継機がないので仕方ないところもある。

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α900 + AF SOFT FOCUS 100mm F2.8

このレンズ、生産終了後にプレミアが付いたのには珍しさもあったのだろうが、実力としても申し分のないもので「ソフト効果0で使うと普通のレンズとしてもシャープ」という点と「周辺までほとんど口径食が発生しない」という点は現在でも通用するものである。

口径食が少ないαレンズはこれとSTFが挙げられるのだが、STFが135mm F2クラスの光学系(ちなみにSTFのサイズは例えばニコンのAi135mm F2Sとほとんど変わらない)を使って、それをF2.8に絞って最終的にアポタイゼーションフィルターでT4.5になって実現しているのに、こっちは100mmマクロとほとんど変わらないサイズである。なおフィルター径は55mmで100マクロや100mm F2と同じである。

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基本スペックについてはいつものケンコートキナーのサイト参照。

このレンズ、ソフト効果0だと鏡筒が最も繰り出された位置に来る。ソフト効果を上げるほど鏡筒が縮んでいくことになる。0-1-2-3の目盛り位置にクリックがあるが、中間でも使える。 なお、ソフト目盛りの1目盛りは0.5段絞りに対応している。 EXIFなんて規格が成立する前のレンズなので、ソフト値はメカ的に制御されているだけで記録はされない。もしリニューアルが実現するならば記録されると非常に助かる。(あとから目視でソフト量がいくつだったのかを正確に判定するのはほぼ不可能……)

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フードは丸形スナップ式で、100-300mmなどに付属していた物のシルク印刷が変わっているだけである。元々この個体はフードなしのレンズ単体で手に入れて、それから2-3年くらい探し回ってようやくフードとケースを手に入れた。ちなみにケースもレンズ銘が刻印された専用のものである。とはいえ、貴重なフードなので普段は手に入りやすい100-300用を使っている。

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見ての通りフィルター径は55mmで、前玉側は特に大口径というわけでもない。おなじみの円形絞り搭載でやはり後ボケには気を遣っていると思われる。構成としてはクセノター型を基本にしているとのこと。(MINOLTA LENS SPIRITより)なお余談だがこの本ではレンズ紹介の項でSTFを「口径食が発生しない」と言い切っているのに対し100ソフトは「きわめて少ない口径食」と書き分けている。なので厳密に言えば口径食は出るということのようだ。

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後玉側はけっこう大きな玉が鎮座しており、フレアカッターも設けられている。更にフレアカッターの内側には植毛が施されており、丁寧な作りになっている。

いつものように作例はFlickrに置いてある。本来であれば女性ポートレートにでも使うべきなのだろうが、その方面にはちっともアテがないので風景とかばかりである。ソフト効果が綺麗なのはこのレンズのキモであるのでそこは当たり前として、この銀杏の葉を撮った時は本当にビックリした。ソフト効果を切って普通のレンズとして使っても巷のうわさ通り一級品である。

例によってこのあたりはよいレンズが多いのでどれを持って行くか迷う焦点域なのだが、この可変ソフト効果のおかげで気軽に持ち出しやすいレンズになっている。STFや85/1.4辺りと比べれば小型軽量なのでプラスもう一本何か面白い物をという時に持ち出すことが多い。

光点は画面周辺部までほぼ揃っていて、やはり口径食の少なさがわかる。やはり皆無とはいかないようであるが、このサイズでこれなのだから優秀と言って差し支えないだろう。

なお、ソフト効果を効かせるとファインダー上のピント位置とAFのピント位置が異なるように感じることもあるのだが、これはソフトレンズの宿命らしい。実際はAFを信用すればよいが、MF時代のソフトレンズは合わせてから心持ちズラして撮影するなど色々苦労したらしい。

ソフト時の描写はは芯がありながらもフレアがかった写りになるので、目一杯効かせれば夢の中みたいな雰囲気になるし、逆光とかで軽く効かせると非常に印象的な写りになる。ただ、どの段階がベストかはかなり好みが分かれるところなので、可能であれば手動ブラケットをしておいた方が安心であろう。ファインダー内でもソフト効果は出るのだが、その差はあまり分かりやすい物ではないのでこれもやはりデジタルでこそ使い易いレンズかと思う。

結局、AFに対応したソフトフォーカスを謳うレンズはこれとキヤノンのEF135ソフトだけとなり、このレンズが消えた後最近まで残っていたEF135も最近になって生産終了となった。これにより、新品で買えるソフトフォーカスレンズはなくなってしまった。

確かに常時使う物でもないし画像処理やソフトフィルターで十分という意見はわかる。しかし、それでもこのレンズは使ってみたいと思わせるだけの魅力に溢れていると個人的には思う。滅びてしまった種類のレンズとはいえ、それは決してこのレンズや、ソフト描写という物自体がダメだったからというわけではないのだ。

……毎回同じように感傷的なこと書いてる気もしないでもないが、そもそもメーカー自体も撤退してしまったのでそこは大目に見て欲しい、と思う。