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ハイパー操作系とペンタックスが目指したもの その1

前回記事の通り、ペンタックス Z-1Pを購入してもっとも感銘を受けたのは、やはりハイパーオペレーティングシステム(ハイパー操作系)であった。

ハイパー操作系のうち、ハイパープログラムの考え方は同時期の他のメーカーでも取り入れられている(ミノルタαのPA/PSシフトなど)が、ハイパーマニュアルを含めたハイパーオペレーティングシステムは使えば納得の、まさしくペンタックス独創のと呼ぶに相応しい特異なものであった。しかし、あまりにも独創的であるが故か、インターネット上にもあまり詳しい記事がない。あってもデジタル機時代のそれについて書かれたものがほとんどである。しかし、初号機であるZ-1系統でのそれとデジタル機のそれとでは若干挙動が異なる部分も存在している。

このため、今回はZ-1Pの紹介記事では書き切れなかったハイパー操作系について、解説も交えて綴っていきたい。
まず、ハイパー操作系ではモードとして、ハイパーマニュアルとハイパープログラムの二つに分かれる。この二つは明示的にどちらかに切り替えてから使う必要がある。後継機となるMZ-Sでは本体ダイヤルを使わず、レンズの絞りリングだけを絞り操作に用いる為PASMの各モードを縦横無尽に切り替えることが出来るのだが、Z-1Pに関して言えばボディ側コマンドダイヤルで絞り操作をする為、左肩のモード切替ダイヤルで最初にハイパープログラムとハイパーマニュアルを切り替えなくてはならないのだ。
まずは、比較的理解しやすいハイパープログラムから解説していきたい。ハイパー「プログラム」とあるので、当然このモードの基本はプログラムモードである。
  • プログラムモードなので、シャッター半押し時のAE値はプログラムラインの中から適当と思われる組み合わせが自動で設定される
  • この時、前後のダイヤルがそれぞれ絞りとシャッターに対応しており、それぞれのダイヤルを回すといつでも「絞り/シャッター優先」に切り替わる。
  • さらに、ハイパープログラム時に例えば絞りダイヤルを操作した結果絞り優先になっていた場合でも、シャッターダイヤルを回せばその時点からシャッター優先となる
  • 各優先AEからプログラムモードへの復帰はIFボタン(MZ以降はグリーンボタン)で行う
  • ハイパープログラムから各優先AEを呼び出した場合、測光の終了後も優先AEは保持される(電源を切るとプログラムモードに復帰する)
  • IFボタンで戻せるプログラムラインにも選択肢があり「ノーマル」「高速優先」「深度優先」「MTF優先」から選べる(ペンタックスファンクションにて事前設定が必要)
さて、ハイパープログラムとは何のためにあるのだろうか?
まず、プログラムモードが選ぶ適正な露出というのは、要するにプログラムライン上に無数にある適正な組み合わせのうちただ一点でしかない。フィルムカメラのため感度は基本的に固定だし、そうなると絞りとシャッター速度はシーソーの関係となり、一方を明るくしたらもう一方を暗くすれば露出は適正に保たれる。ボケ効果やシャッター速度による効果は無視した場合、下記の組み合わせは全て同一の露出と見なすことが出来る。
  • F1.4    1/4000
  • F2       1/2000
  • F2.8    1/1000
  • F4       1/500
  • F5.6    1/250 ……
キリがないので以降は省略するが、つまりこの中からカメラによって「F4 1/500」が選ばれたとしても、撮影者はもっと絞りを開けてボカしたいかもしれない。そんな時に絞り優先に切り替えるのではなく、そのままダイヤルを回して絞りを開けてしまえばよいというのがハイパープログラムの概念である。(シャッター速度についても同様)
もちろん、実際は手ブレしない限界速度があるし、レンズも絞った方が性能が向上することからブレない程度のシャッター速度をキープしつつ余裕があれば絞り込むというプログラムラインが採用されていることが多い。
さて、カメラに詳しい人であれば当然浮かぶ疑問は「これって他社にもあるプログラムシフトと何が違うの?」という点ではないだろうか。
実のところ、動作としてはプログラムシフトと何ら変わらない。(測光が終了した後に優先した方の露出パラメーターを保持し続けるか否かという点は異なる)
プログラムシフトも、プログラムモード時に絞りとシャッター速度のシーソーをずらして(シフトさせて)希望のパラメーターを得る方法である。なお、この時ダイヤルは必ずしも二つある必要はない。何故なら絞りを開けることはすなわちシャッターを早めることであり、両者が連動している以上はどちらを優先するかに関わらず、ダイヤルを回せば希望の値になるからである。
では、何故ハイパープログラムでは前後のダイヤルを使用するのか? これは撮影者の露出意図を可能な限り操作系に反映させるためであると考えられる。つまり、前ダイヤルはシャッター速度のため、後ろダイヤルは絞りのためのダイヤルであるから、仮にどちらを操作しても同じ結果になるとしても優先したい方を操作するのが直感的というわけである。
これは同様の機能を持たせたミノルタαシリーズのPA/PSシフトでも同様で、Pをベースにどちらを優先した結果この露出値になったのかをPA/PSの表示で知らせてくれる。Aは絞り、Sはシャッター速度である。
しかし、この前後ダイヤルを両方使う方式には一つ欠点がある。それは通常の絞り/シャッター優先であれば余った方のダイヤルに割り付けることが出来る露出補正がダイヤルに割り付けられないことである。この問題の解決策は露出補正キーを別に用意してそれを押しながら一時的に露出補正モードに入るようにするか、もしくは露出補正専用のダイヤルを設けてしまうしかない。前者はZ-1Pやα-9xiが採用し、後者はMZ-Sやα-9が採用した方法である。
さて、これらによって何が得られただろうか。一つはプログラムモードとその他のAEモードとのシームレスな融合である。各優先モードは撮影者の意図を優先させやすいが、それまでのカメラではプログラム・絞り優先・シャッター優先という各露出モードは、明確にモードダイヤルなどで区切られていた。しかし、独立したモードダイヤルを持つカメラでは例えば絞り優先から突然シャッター優先に切り替えて一定以上のシャッター速度を確保したくなった時に、咄嗟の切り替えは難しい。
実際のところ、シャッター速度優先に切り替えてからダイヤルをグリグリ回さなくても、先に述べたプログラムシフトと同じ理屈で絞り優先モードのままで絞りをどんどん開いていって希望のシャッター速度が確保出来たところで止めれば、結果の上ではシャッター速度優先と同じことになるのだが、シャッター速度を調整する為に絞りのダイヤルを操作するというのは直感的でないし、分かっていたとしても咄嗟にこのような操作を行うのは難しい。
そう考えれば、現在絞りダイヤルを操作していて絞り優先だったとしても、シャッター速度ダイヤルを動かせばシャッター速度優先になるという動作は直感的である。
しかし、ハイパープログラムもPA/PSシフトも重要な欠点がある。それは電源を入れた時のスタート地点が必ずプログラムモードから始まってしまうという点である。もちろん、ひとたび各ダイヤルを操作すれば即座にそのモードへ移行するのだが、使っているとその一手間を惜しんでプログラムのまま使ってしまうようになってしまった。
これはあくまでも個人的な感想なのだが、他のカメラで絞り優先やシャッター優先を選択している時には「露出パラメーターを自分で弄って画作りする」という感覚があるのに対し、こうしたカメラでプログラムモードになっていると、カメラが適切と判断している露出が出ているのだからそれ以上弄る必要がないような感覚に陥って、そのままシャッターを切ってしまうのだ。(ただし、露出補正は画面のトーンを整える為なのでプログラムであっても変更する意識がある)
ハイパープログラム自体、こうして改めて振り返ってみると、机上の検討では実に理想的かつ理にかなった操作系であるのだが、結局それを阻害しているのは旧来の操作性に慣れてしまったユーザー側だったのではないかというのが結論である。逆に言えば、この操作系を最初に覚えてしまったら一々モードダイヤルを切り替えてのモード移行などまだるっこしくて出来ないとも思う。
 
次回、ハイパーマニュアル解説編につづく。