インターネット

無名サイトのつづき

ハイパー操作系とペンタックスが目指したもの その2

前回のハイパープログラム解説編に続き、今回はハイパーマニュアルの解説編である。

このハイパーマニュアルという機能、とにかく説明が難しい。マニュアル露出自体がやや上級者向きと思われている節もあるのに、ハイパーマニュアルでは更に話がややこしくなるのだから困ったものである。

しかし、基本はマニュアル露出。そのためまずはマニュアル露出とは何かについて考えると理解がしやすい。そこで、マニュアル露出について簡単に振り返ってみたい。

まず、まったくAEモードを持たず、露出計のみが搭載されているカメラのことを考えてみよう。例えば手持ちだとF2ASや、GS645Sなどが該当する。これらは露出計内蔵だがAEがなく、マニュアル露出しか出来ないカメラである。

この場合、露出計オンの状態では内蔵の露出計に「カメラが適当だと考えた数値」が目安として表示される。ユーザーがやることは、この目安に向かって絞りとシャッタースピードを変えていくことである。アンダーなら絞りを開けるかシャッターを遅く、オーバーであるならばその逆を行う。そうして露出計が示す値と設定した露出が一致すれば、ファインダーには適正露出として表示される。前掲の二機種の場合は、中央の○マークのLEDが点灯すれば適正露出である。

内蔵の露出計……つまりメーターを参考にするわけなので、これがメータードマニュアルである。ただし、メーターというのはあくまでもカメラが考えた露出であり、必ずしも撮影者の意図と合致するとは限らない。また、この時メーターと露出値(絞りとシャッターの組み合わせ)は切り離されているので、仮にカメラを振ってより暗いシーンに向けてもメーターは変化するが(当たり前だが)カメラの露出値は変化しない。被写体がより暗くなった場合は、再度手動で露出値を変えるしかない。

さて、プログラムモードを始めとするAEは、メーターと露出値が関連付いている。すなわち、基本的な振る舞いは「メーターが適正とする値に自動で露出値をセット」となる。このため、先ほどの例のようなカメラを振ってより暗いシーンになった場合は、新たなシーンでの適正な露出値を取ろうとする。当然、それまでの露出値とは異なる値がセットされる。この「メーターの考える適正と現在の露出値が関連付いているか」がマニュアルとAEモードの大きな違いである。

さて、マニュアル露出しか出来ないカメラではメーターを参考に露出値を追い込んでいくのが基本操作であったが、AE機でのマニュアルモードでもやることは同じである。先ほどと同様にメーターが表示されるので、それに合わせれば適正となる。AEのように自動でセットはされないので、メーターの表示を追いかけながらダイヤルをグリグリ回していくことになる。

しかし、この時ダイヤルをグリグリ回すのがまた結構な手間だったりする。フルマニュアルのカメラを使っている時はそうしなければ適正露出の写真が撮れないのでたいした手間とも感じないのであるが、普段半押しすればとりあえず適正な露出値が出てくるカメラでこれをやるのはいかにも面倒くさい。

ここでようやくハイパーマニュアルの話に戻ってくる。ハイパーマニュアルは、こうした場合に特定のボタンを押すと「その時内蔵露出計が適正だと思う値」すなわち、プログラムライン上の一点に一発で露出をセットしてくれるのである。この操作はZ-1系ならIFボタン、MZ以降であればグリーンボタンを押すだけである。

この機能はデジタルカメラになってからのペンタックス機でも共通なのだが、Z-1系では、実は今のKシリーズとは挙動が異なる。(もしかしたらカスタムで変えられるかも……)

Kシリーズはグリーンボタンを押すとその都度測光され、押し続けても露出値は最初の押した瞬間のものがキープされるが、Z-1系では押し続けるとその間ずっと測光を計り続ける。そして、画面内の明るさが変われば露出値もリアルタイムで変わるのだ。つまり「親指AFのAE版」とでもいうような動作が可能になる。

「基本的にはMFだけどAF-Cを使いたい時だけボタンを押せばAF-Cが働き、押し続ければ追随し続ける」のが親指AFが目指すところであるとするならば、Z-1系のハイパーマニュアルはまさに(ちょうど親指で押すこともあり)それのAE版となり得るのだ。

普段はマニュアルで露出が固定されているのに、IFボタンを押しながら撮れば露出が追随し続けるのでいつでも実質的にプログラムモードで撮ったのと同じ結果が得られるのである。ある意味では、マニュアルモードの中にあたかもプログラムモードが内包されているかのようである。

更にここからマニアックさが高まってくるのは、このプログラムライン一発戻しには実はいくつかの選択肢がある。これもペンタックスファンクションと呼ばれるカスタム設定から選択可能なのだが

 この四種類の動作から選ぶことが出来るのだ。なおデフォルトではプログラムライン上に戻すことになっている。

これが何を意味するかというと、先ほどはマニュアルモードの中にプログラムモードを内包していると述べたが、例えば絞りを固定するモードに変えればプログラムの代わりに絞り優先を内包することも出来るようになるのである。

例えばこの「絞り優先マニュアル(?)」での具体的な操作は下記のようになる。

  1. まずマニュアルモードのままカメラを被写体に向ける
  2. メーターは無視して絞りを操作する(本来なら同時にシャッタースピードを逆に操作しなければ適正露出にはならないが、構わずに絞り値だけを目的の値にセットする)
  3. IFボタンを押すと、現在の絞り値に対応するシャッタースピードが自動でセットされる
  4. この時、あくまでもマニュアルモードであり絞り優先AEにはなっていないので、絞りをさらにずらせばメーター上の適正から外れていく(絞り優先AEの時に同じ事をすると、メーター上の適正を保ちつつシフトしていく)
  5. もちろん、この状態から自動セットされたシャッタースピード側を動かすことも出来る
  6. なお、IFボタンを押し続ければ常にAEが追随して明るさによってシャッタースピードが変化し続ける(実質的な絞り優先AE状態)

そして、この状態でMLボタンを押せば、その時点での絞りとシャッターとの組み合わせが固定され、そこからダイヤルを回せばその組み合わせがシフトされる。プログラムシフトならぬ、マニュアルシフトである。ちなみにこの機能はミノルタαシリーズにも搭載されており、マニュアルシフトとはミノルタでの呼称である。ペンタックスはZ-1Pの説明書を読んでも、どうやらこれに名前は付けていないらしい。

ただ、このマニュアルシフト時の振る舞いはペンタックスミノルタで異なっている。手元にあるZ-1Pと、α-9xiや9、それにミノルタ機の末裔であるソニーα900での動作はそれぞれ下記の通りである。

Z-1Pはマニュアルシフトで露出を固定すると、その瞬間に露出バーグラフは固定される。例えば内蔵露出計に対して半段オーバーで固定したらこのあとカメラを振ってより明るかったり暗かったりする方に向けても、露出バーグラフの値は半段オーバーのままである。

一方でαの場合は、AELボタンで露出値を固定すると、バーグラフにはその時点での露出値とは別に、もう一つ表示がプロットされる。これが一体何かというと、α-9xiやα-9では現在の測光モードで内蔵露出計が計った値とのリアルタイムの差異を表示する。これは内蔵露出計が測った値からのズレなので、例えば意図的にアンダーに露出したい場合にどの程度アンダーなのかの目安に出来るということである。

そしてα900など、α-7以降の機種では、露出をロックした後は、スポット測光サークル内の現在の露出に対する差を示してくれる。つまり、露出を固定したら念の為各部をスポットで計ってラティチュードの範囲内かどうかスポットメーターで見ればいいじゃない、という機能なのだ。

これを見ると、プログラムモード時でもシャッター半押しAELが効かず、常時メーターを動かし続けているZ-1Pなのでマニュアルシフトの時だけメーターが眠りについてしまうのはなんとも不思議なのだが、そういう仕様なんだから仕方が無い。

[勘違いしてたので取り急ぎ訂正。そのうち書き直します]

ハイパーマニュアルに話を戻そう。結局、ハイパーマニュアルを含めたハイパー操作系が目指したものは何だったのか? 個人的な解釈としては「露出モードの概念の破壊と再生」だったのではないかと思う。

AEとマニュアルの間には深い溝がある。それは本質的にはメーターと露出値が紐付いているかどうかという一点に集約されるのだが、この結び付きが時には煩わしいシーンがあるのも確かである。

その結び付きをシーンによって即座に繋いだり解いたりすることが出来るとすれば、新たな操作性が提供出来ると考えたのであろう。そしてそれはある程度の複雑化を伴ったが、概ね成功したように思える。

まことに複雑怪奇な話ではあるのだが、IFボタンとMLボタンをフル活用することで、マニュアル露出であるにも関わらず、必要な時にはまるでAEで撮っているかのような振る舞いをさせることが出来る。それが、ハイパーマニュアルの本質なのである。

ところが、Kシリーズ以降のハイパーマニュアルの紹介のされ方は「マニュアル露出時に適正露出を一発でセット出来て便利」という程度の話でしかない。本当はその部分というのはほんの入り口であり、このモードはもっとディープなものだと思うのだが、もはやそれを鑑みる者は誰も居ない。

誰も居ないならせめてここに書き残して置こうと思ったのが、本稿執筆の動機である。

しかし、であるならば何故この高尚な思想は受け入れられなかったのだろうか、そして、それでも尚現代に生き残るハイパー操作系の末裔達……次回はその辺りを若干補足してみようと思う。