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無名サイトのつづき

謎のカメラ・レンズシリーズ 無銘 70-210mm F4.5 の巻

カメラ趣味をかれこれ10年近く続けているので、日頃は中古カメラ屋に出てくるような国産のレンズであればだいたいのことはわかるし、仮に分からなくても手がかりくらいは調べることが出来るのではないかと思っているのだが、そうして自惚れていると、ある日突然見たことも聞いたこともないレンズやカメラが出てくることがある。

こうした突然の出会いがこの趣味の醍醐味であり、奥の深いところだと思うのだが、今回も突然頭をぶん殴られるような衝撃のレンズに出会った。

ご覧のように、何の変哲もないKマウントの望遠レンズである。……。一見した限りでは。

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この写真から読み取れるスペックとしては、70-210mm F4.5というところであり、K-01に装着されていることからもわかる通り、Kマウントである。ただし、最小絞りにAポジションがないので、これはKAマウントではない。実際にレンズマウントにも電子接点は存在しない。つまり、販売時期としてはペンタックスKシリーズ発売の1975年辺りからペンタックスAシリーズ発売の1983年頃までのレンズなのではないかという推測が成り立つ。

※ちなみに、1983年当時の全ズームレンズをテストしたという触れ込みのアサヒカメラ増刊「レンズその世界」にこのスペックをもつレンズは掲載されていない。

最短撮影距離は1.5m、ピントリングは後のAFレンズのように先端のリング部のみを繰り出す方式で、ダイヤカットの滑り止めゴムが貼られている部分は他の多くのレンズのように可動はしない。またズーム方式は回転式である。小窓が設けられていて70,105,135,210mmでは青文字で現在の焦点距離が顔を覗かせる。ただし85mmと210mm位置では何故か小窓では無くズームリングそのものに文字が書いてある。謎の構造である。銀のボタンを押し込みながら更にワイド側へ捻るとマクロモードが設けられているようだ。

仕様的に70~80年代のズームレンズの割に、当時の多数派であった直進式ズームを用いていないことや、不可解な焦点距離の表記など怪しい点は多々あるのだが、このレンズ実はこれ以上の文字情報が裏側の「MADE IN JAPAN」表記しか存在しない。つまり、無銘なのである。そして、ありとあらゆるレンズにたいていは存在する、シリアルナンバーの表記すらもない。

そして、最大の問題点は鏡筒左側にある……。

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そう、このレンズ、左脇にスイッチと、底面に電池ボックスが存在するのだ。そして、スイッチには「70」「210」の表記がある。……つまり、このレンズは電動ズームレンズなのではないかということである。

……「なのではないか」という歯切れの悪い言い方をしているのには理由があって、電池を入れてみたところ(単三・二本)バッテリーチェックのパイロットランプは点灯して、各ボタンを押すとモーターの音がするのだが、残念ながらモーターが回るだけで、何らフレーミングは変化しない。

なお、本レンズの描写についてはカビ&クモリでとてもではないが掲載できる状況ではない。本来であれば撮影にロクに使えないレンズなど買わない主義なのだが、純粋に見たことのないレンズが転がっていたから手に入れた。純粋に好奇心からの行動である。なんせこのレンズ誰も知らないのだからプレミアなども付くことはないだろう。

そもそも、ズームリングはそれなりの重さを感じるので、仮に正常だったとしてこのか弱いモーター音で本当に動くのかという疑問はある。しかし、測距機構を持たない以上この電力がAFに使われているようには見えないし、その他にこのようなレンズに電気の力が必要な理由も考えられない。とすればボタンの表記からもやはりズームなのではないかと思える。

だとすれば、知る限り最古の電動ズームレンズ(一般的に知られている最古の電動ズームレンズはコシナAF 70-200mm F4.5。1987年頃発売)になるわけだが、仮にそうしたエポックメイキングなレンズだとしたら多少なりとも文献が残されていてもいい筈であり、その割にはこのレンズの素性が全く分からない。そして、「最初の電動ズームレンズ」がなんだったのかも、今やよく分からないのである。

「最初のAFレンズ」というくくりであればインターネットを駆使すれば各社の試作機も入り乱れてある程度の情報が集まるところが、「最初の電動ズームレンズ」は全く分からない。そして仮にこのレンズがそうだとしても、メーカー名も何もないので、この先の素性は全く分からない。悔しいが、完敗である。

……というわけで困り果てたのでこうして記事にして、どなたかお詳しい方に教えて頂けないかと考えている次第である。このレンズを見てピンと来た方は、是非コメントを頂ければと。

手元にはこういう素性のわからないレンズがもう一本あるので、いずれはそちらの話も。

[追記]
このレンズ、Starblitzに供給されていたようで、そちらのバージョンを教えてもらった。結局無銘だったので余計によくわからなかったという感じである。しかし、OEM版に関してはきちんと銘版とシリアルナンバーが入っており、このレンズは本当は何処が作っていて、無銘なのは一体何なんだというのは引き続き謎のままである。

[更に追記]
さらに他の方からの情報で、どうやらこのレンズはハニメックス(フォートエクスポート)製らしいとのこと。しかし国内流通はなかったのでは? という情報もあり相変わらずよくわからない。一体どういう位置づけのレンズだったのかますます謎は深まるばかりである。