インターネット

無名サイトのつづき

ノウとハウ ~非創作同人誌を作ろう~ その2

前回の記事に引き続いて、非創作の同人誌を作る場合のやり方について。

さて、前回「題材はなんでもいいしニーズなど気にする必要はない」と書いたが、実際のところ、書きたいものがある人はその程度のアドバイスで十分で、後はほっといても題材には困らないものだと思っている。伝わるかはともかく何かを伝えたいというのであればそれで十分であって、あとはその表現の形をSNSに発表するのかブログに書くのかそれとも本という形にするのかというその程度の違いだけである。

では何故本というものがハードルが高く感じられるのかといえば、それは端々にお金が掛かるという点にある。そもそも現物を作る以上は最低でも印刷代やコピー代は必要だし、逆にそれを配る上では買い手には対価として金銭を要求することになるわけである。こういうやりとりに気後れする人は多いと思うし、また売れないことに対するリスクも大いに不安要素として存在すると思われる。

今回は、そういうリスクをゼロにすることは出来ないまでも、なるべく小さいリスクで行う方法も考えつつ実際の制作手順について触れていきたいと思っている。

3.どのようにして書くのか
さて、実際の制作手順として、ともかく内容を書かなくてはならない。ここからは過去の手順について振り返りつつ解説するので、こういう例もあるという程度に参考にして頂けたらと考えている。

さて、コミックマーケットをターゲットイベントにする場合、開催時期は夏(お盆の時期)と冬(年末)である。よって、締め切りというのはここから逆算することになる。後述する入稿方法であれば前日ギリギリまで作業をすることも可能ではあるのだが、ひとまず締め切りとして参加日の1-2週間前には完成原稿を印刷所へ送れるという辺りを目標にすべきであろう。もちろん、早いに越したことはない。

※ちなみに参加申し込みは既に済ませているものとする。直近になってから出られるというものでは決してないのであしからず。この辺りはイベントにもよるので適宜確認して欲しい。一つ言えるのはコミックマーケットの場合当落確認してから内容を考え始めると結構つらいことになる。

ちなみにこれまでの本では、後ろから数えていくとラスト一週間がレイアウトや写真等の作成・撮影、その前の一ヶ月が実際の本文執筆、それ以外の時間は全てテーマに関する資料集めと通読という感じであった。ただしこのスケジュールはカメラについて書くという内容からテスト撮影以外は部屋で完結するが故のスケジュールでもあり、書きたい内容によってスケジュールの構成は様々に変わっていくものだと思う。

実際の本文の執筆にはテキストエディタを当初使用していたが、やはりある程度文章を弄れた方がイメージが掴みやすいことと、バックアップが常時取られているという安心感から、ほとんどの場合GoogleDocumentを使用していた。といっても使っている機能としては先の自動保存以外は文字数カウント機能くらいである。ただ、突然出先で思い付いてスマートフォンから走り書きを追加したり、ちょっとした空き時間に読み返して推敲したり出来るのはやはり便利なものである。

[参考 C91時のスケジュール]
2016年8月(C90終了直後) → 次回テーマ出し
2016年9月~11月 → 参考資料捜索・カメラ収集・テスト撮影(当落通知10月末)
2016年12月 → 執筆開始~入稿・頒布
12月の詳しいスケジュールは当時のメモがあるのでそちらを参照。

なお、書く内容についてはある程度気をつけていることがあるので、それについても簡単に触れておく。この記事では繰り返し「内容は伝えたいことがあるのならばなんでも良い」と書いてきたが、個人的には頒布する以上は他にはないもので楽しんでもらいたいという思いもある。

このため、一応初参加する前の会のコミックマーケット等には一般参加者として見て回ることで、まるっきり被るようなところがないか、他のサークルはどのような部分をウリにしているのかを簡単にリサーチしている。リサーチって言うとなんだか格好が良いが、要するに買い物に行って他の人ってすげーんだなーと打ちのめされに行っただけとも言う。また、現地で直接競合するものではないが潜在的な競合先としては商業出版物も相手である。もちろんこれはこちらが一方的に喧嘩を売る形になる。

こうした中から、制作する本のコアは「プロ・アマ共にあまり手を出していないが、内容としてはフックのあるもの」とし、そういう中で書けそうなものとして「ちょっと古いAFフィルムカメラの本」というテーマが決まったのである。

さて、内容についてはもしイラストや漫画が描けるとかなり取っつきやすくなるのだろうが、それが出来ないので逆にハードにすることにした。パロディ同人誌の有名なフォーマットの一つとして「非常にくだらないことを論文形式で書く」というものがあるが、あれに習ったものである。よって、文体もやや堅めにしてレイアウトなどもとある技術寄りの雑誌のフォーマットに寄せている。

こういう小細工というかパロディが許される雰囲気があるのも、同人誌という形式のよいところなのではないかなと思う。

4.本の形にしよう レイアウト編
というわけで、文章は書き上げたものとする。ここからはいよいよ本の形にする為に、いくつかのステップを踏んでいく。まずはDTP(デスクトップパブリッシング)である。

かみ砕いて言うと、どのような体裁の本を作るかのレイアウト作業である。それこそ写植やアナログの時代であれば切った貼ったの作業だったらしいが、現在ではPCがあればデスクトップ上で完結する。まことに良い時代になったものである。

さて、本の形にするわけなので、レイアウトは多種考えられるが、過去制作した本の場合は元ネタの雑誌のフォーマットに従って、横書き二列でB5サイズというレイアウトを採用している。この辺りはセンスが問われるので、パロディ元があるのであれば徹底して研究してみるというのも一案である。

ここで使用するソフトだが、有料DTPソフトでは「Adobe InDesign」が有名だが、フリーソフトとして「Scribus」があり、また本来は別目的のソフトだが「Adobe Illustrator」や「Microsoft Word」及び「Excel」で組版しているという話も聞いたことがある。現在はほとんどの印刷所でPDF入稿を受け付けている為、最終的にPDF形式での出力さえ出来ればいいので、各種試して使いやすいソフトを選べばいいのではないかと思う。

ちなみに、過去の発行物ではScribusを使用しているが、これはただ単にフリーでDTPソフトがこれしかなかったからである。元は海外ソフトだがインターフェースは日本語化されており、解説サイトも多いので数日も触っていれば簡単なレイアウトは組めるようになるだろう。日本語縦書きが扱えないなどの問題点もあるとのことだが、いまのところ簡単なレイアウトであればこれで不自由はしていない。

使用する写真や図版等は撮影したりスキャンしたりする必要があるので、適宜事前に行っておく。もしカラー等でブツ撮り写真を入れるのであれば、簡易的な撮影ブースくらいは用意しても損はないだろう。

あとは本文を流し込みつつ、各部のバランスを見ながらレイアウトを行っていく。文章に図が付きページ番号が付き書式で飾り付けられていくと、不思議と「本を作っているんだ!」という高揚感が沸いてくるのだから不思議なものである。

電子データが完成したら、ひとまずここでpdf等にしておいて、一通りチェックしておくのをオススメする。PDFに書き出して提出してしまうともう修正は効かないが、この段階でチェックをしておけばまだ間に合う。誤字脱字、レイアウトの崩れ、どれだけ気を付けていても案外出てくるものである。印刷後に地団駄を踏むよりはこの段階でチェックしておくべきだろう。

5.本の形にしよう 印刷orコピー本を作る
電子データが完成したら、いよいよ「リアルな本」としての印刷工程に移る。

さて、ざっくりと言って同人誌にも形態の違いがあり、ここでどちらかを選ぶ必要がある。一つは「コピー本」と「印刷本(かつてはイコールオフセ本だったが今は他もあるのでこう呼ぶことにする)」である。

コピー本はその名の通り「コピー機で印刷した本」である。メリットはその手軽さとコストにある。大量のコピーを作る場合はキンコーズなどに代表される出力サービスを使うことが多いようだが、最悪コンビニのコピー機や自宅のプリンターでも出力出来て、また一冊ずつ作ることから極小ロットの発行部数に対応させることも出来る。

装丁に関しても凝ったモノからスピード勝負のホチキス止めまで自由自在で、この部分で手作り感を生かすことも出来る。そして何よりのメリットが「自分で印刷して製本するのでギリギリまで作業が出来る」ことである。

ただし、印刷品質や見栄えという点ではやはり印刷した本にはかなわない。カラーコピーだとやはりコピー特有の凹凸感のある仕上がりになるし、モノクロコピーでは階調感に制限がある。

ただし、初期投資が安くロットに自由が効くという点では少部数での発行がしやすいため、第一歩としてこちらを選ぶというのはもちろんアリだろう。

印刷本には更に二種類ある。

一つは版を起こすオフセット印刷、もう一つは製版せずにデータから直接印刷するオンデマンド印刷である。いわゆる印刷というのは前者であり、後者は「とても品質の高いコピー本」みたいなものでもあるのだが、その品質はコピー本を遙かに超えオフセットに迫るものも存在する。また、どちらも印刷所での対応になるので製本までがセットである。

この二つの違いだが、ぶっちゃけると印刷品質と小ロット対応の違いで使い分けになる。印刷品質からいうと漫画であればトーンの再現性等に割とはっきりした違いが出るようだが、文字ばっかりの本であればその辺りではあまり差が出ない。製品写真で「コピー本では出ない階調がオンデマンド以上では出る」という感じである。写真集など、印刷品質を重視するというのであればオフセット印刷を検討するというのも一つの手だろう。

次にロットの問題である。オフセット印刷は製版する以上、ある程度の量を生産することに長けている。オンデマンド印刷は逆にオフセットでは高価になりすぎる小ロット印刷での強みがある。ざっくり各所で見積もりを試してみた結果、100~300部以上ならオフセットの価格が安くなるが、逆に言うと100部を切るようだとオンデマンドの方が安くなるようである。頒布するジャンルや本の内容にもよるだろうが、数百部といった売れ行きが期待できず、それでもきちんと印刷され製本された本という形態にこだわるのであればオンデマンド一択であるように思える。

ただ、先に述べたとおりいくらオンデマンドでも10部や20部といったロットではかなり一冊当たりの価格は高くなる。そういう意味では、オンデマンドの適するロット帯というのは案外狭くて原価と頒布価格がそこそこバランスするのは50-100部くらいというのがこれまでの経験則である(もちろん仕様で多少前後する)。

ちなみに、C91での実績は既刊再販、新刊合わせてトータル80部弱といったところである。自分用見本誌と準備会提出分を除いて売り切ることには成功したが、オフセットだと元が取れないというまことに微妙なラインの実売なのである。

先に述べた通り極小ロットは印刷原価が非常に高く付くので下手をすれば売る毎に赤字になってしまうからあまりオススメは出来ない。そういう意味では、50部売り切るつもりか、そして100部以上売り切る事が出来るかどうかで印刷形態はある程度決まってくると言えるだろう。

この辺りをうまく見極めれば、比較的少ない投資額で楽しむことが出来る。原価が安ければ損益分岐点も下がるので、在庫を抱えて純損失みたいな話にもなりづらい。もちろん、売り切るかはともかく損益分岐点は越せる程度に売れるのが前提の話ではあるが。

というわけで、毎回需要が見えない中で何部刷るか決めるというのは非常に難しい問題なのだが、迷ったら複数回で売り切るつもりで多少多めに刷る方が良いかもしれない。というのは、再販希望者が居たとしてもあとから小ロット追加印刷でそれに対応することは非常に難しいのである。下手をすれば既刊なのに新刊より高い値段を付ける羽目になる。

なお、同人誌の値段付けについては、色々議論が分かれるところなのでここではあまり深くは追わないこととする。ただ、基本的には一冊売る度に赤字になるのはあまり健全な姿ではないと考えている。個人的な目安は完売せずともある程度売れれば印刷原価が無理なく回収できる程度の値付けである。

入稿方法は印刷所にもよるが、先に述べた通りだいたいのところでオンデマンドでのpdf入稿を受け付けている。納期はオンデマンドであれば入稿した週には発送してくれるというのが一般的だが、早期割引があったり、入稿翌日には出荷してくれる印刷所があったりとサービス面の違いもある為その辺りはじっくり選んで欲しい。どちらにせよ締め切りは確かに存在するので、その締め切りに十分な余裕を持って間に合わせることを心掛けたい。

……入稿が済んでしまえば、あとは泣いても笑っても手元に本が届き、それをイベントで頒布するのみである。次回は最終回としてイベント参加についての簡単な解説を行うこととする。