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無名サイトのつづき

ノウとハウ ~非創作同人誌を作ろう~ その3

前々回と前回の続きである。

前回までに一応本は出来たということにしておいて、当日イベントに参加したりする場合の話。例によって話半分に読んで参考にして頂ければと。

6.宣伝と金額設定
と、その前にイベント当日前までにしておくべきことがある。宣伝である。この辺りというのは正直答えがわからない。一応過去やってみたこととしてTwitterでの定期宣伝程度のことはしているが、それ以上の何かというのはしていない。

ただぶっちゃけた話Twitter等で話題になるかどうかというのはそのクラスタの中で発言権のある方にリツイートされるかどうかで決まってくるという身もフタもない話があるのであんまり深くは触れない。結局どういう方法でターゲットユーザーにリーチさせるかというのはいつも難問である。

と、そんな中でTwitterでの宣伝時に心掛けていることを一つ。

まず、時期的にはある程度早め(他のフォロワーがちらほら宣伝し出したら)にやっといた方が良いのではないかと思う。もちろんこの時点で本が完成してないというのはあり得る話だが、とりあえずやるかやらないかくらいは伝えといた方がいい。

名前の後にサークルスペース入れるやつもやっておけば場所はともかくこの人出るんだなくらいの認識は与えられる。なお、終了後通販等を使う人もいるので少しの間残しておくと便利だとされているので余裕があれば終了後も残しておいた方がいい。

そして、具体的に情報が出せるレベルまで完成したらいよいよ本格的な告知になるが、この告知では1ツイートに可能な限りの情報を詰め込むようにしている。というのは現在のTwitterの仕様上、同じ内容のツイートをバラバラに定期ポストするよりは一つのツイートに情報をまとめてそれをマイページにピン止めしておいた方が効率が良く、RT/fav数もバラけないからである。最近は自己RTが出来るようになったのでこれで定期ポストの代わりになる。

内容としては140文字で「スペース番号・日付」「タイトル」「内容」「価格」「あらすじや要約」が入ってればいいと思う。そして四枚まで画像が添付出来るので、表紙とサンプルページくらいは上げておくといいだろう。

あとはサークルページやwebカタログを充実させたりするのも良い手だと思うが、正直これらの宣伝の販売部数への寄与度がどのくらいなのかはサッパリわからない。ただまぁ、初めて参加する上では宣伝しておくに越したことはないだろう。良いモノだから通りすがりでも現地で見る人が見れば分かってくれるなどというのは幻想のような気がする。

7.頒布価格を決めよう
次、前回サラッと流して終わりにするつもりだったけどやっぱり詳しく書いとくことにした頒布価格である。これも相当に難しい。一応ここで推奨するのは「ある程度売れば赤字にならない程度の金額」である。初めての出展を最小限のリスクで、というテーマからすればこの部分がまさしくリスクの勘所である。販売価格を決める上での論点はいくつかある。

・相場を気にするべきか
・(相場を鑑みて乖離がある場合)赤字頒布に踏み切るべきか
・原価回収を目標にするとして何処を原価とすべきか

この辺りはややこしい議論があり結局は個人の自由ということになっているのだが、個人的な結論は「タダで配られたって要らんモンは要らんのだから多少高くなろうと赤字頒布すべきではない。そもそもあの場での500円や1000円の価値は案外低い、コピーだろうとオフセットだろうと500円取れるのだから、自分の本(の仕様と内容と値段)に引け目を感じるべきではない。あんまりに内容と価格が乖離してるならともかく」である。

大事なのは「興味がなければタダでも要らない」というのは「興味があればいくらだろうと買う」と対になっていることである。まぁもちろん限度はあって明らかに見劣りするものに二千円も三千円も払ってもらえはしないと思うが、しかしあの場所で他より100円200円安いから買う(あるいは100円200円高いから買わない)、という考えはあまり成立しないように思える。なので原価割れで配るような真似は必要ないと思っている。

というか、印刷の仕組み上ロットがまとまれば単価は下がるのでたくさん売れる大手ほど安く作れるのである。つまり回収を第一にするなら弱小のところほどより高く売る必要があるわけだ。これを「自分のところは弱小だから……」と大手より更に安くしたりしたらますます投資の回収は難しくなってしまう。なもんで、相場を完全に無視しろとは言わないが「大手より高い」ことを心配する必要はないと思っている。

で、なんでここまで回収にこだわるのかというと、少なくとも一冊売るだけで赤字が増えていくようなのは、趣味として長く続けづらいからである。せめてトントンに持って行けば「儲かってはいないけど楽しかったからいいや」という話になるし、その辺りが健康的な姿ではなかと思っている。

この辺りの売り手側の都合なんて買い手からしたらまったく関係ないというのはそれこそ百も承知だが、少部数でやるというのもそれはそれでリスク抱えているので、その辺りをほんの少しだけでいいので心の隅にでも置いといて頂けると幸いである。

8.販売までの準備
そして、販売までの準備である。基本的には即売会というのはスペース(机と椅子)だけが提供されて、あとのことは自分でやるというのが基本である。よって、同人誌を書いて売るというのは書く人としてだけでなく、宣伝する人や売る人やそれらを管理する人にもならなくてはならない。一人何役もこなすわけで、それが故に楽しいというのもある。

今回の話では小ロットを売り切るという点にフォーカスしているので、本は手元にあるものとする。本は重たいので多部数を捌く場合は宅配搬入とか前日搬入色々あるのだが、今回は手で持ち込めるくらいの部数を当日朝搬入というパターンを想定している。ちなみにB5だと、紙質にもよるのだが40Pで100冊くらいが手持ちの限界のような気がする。とにかく紙は案外重い。

前日までにやっておくべきことは、最低限準備会提出用見本誌の作成(申込書に付属)とかサークルチケットへの記入・押印とか釣り銭の用意とかブースの飾り付けを考える辺りだろう。ともかく売り子のアテがなければ一人で回さなければいけないので、ヒマそうな人材が確保出来ると非常に役に立つが、一方で金勘定を任せることにもなるのでセンシティブな部分ではある。まぁ手伝ってくれる人はいるに越したことはない。

9.販売当日
当日はサークルチケットを使用して一般よりも一足先に入場し、ブースを設営することになる。限られたスペースをどのように使うかはある程度任されているが、まずは本が見やすく、手に取りやすく、価格がわかりやすいということが大事ではないかと思っている。表紙だけで掲載内容が全てわかるのであれば別だが、たいていそうはなっていないのだから。

もちろん実績があり前評判も高ければジャケ買いというか、もうサークル名だけで中身見なくても買うわみたいな状態になるし、それが更に高まれば行列が出来るのだが、幸か不幸かカメラジャンルに関してはそこまで(列が出来るまでの集客)はほとんど見たことがない。故にじっくり手に取って判断してもらうことが大事かと思っている。

 ただ、基本的にブース(机の上)はある程度狭く、平面的に本を並べると数種類もあればもう置き場がなくなってしまう。もし複数種類の本を並べるのであれば、平面的ではなく、棚やポップを活用して三次元的に配置した方がいいだろう。というのも、一人立ち読みしてると肩越しにチラ見するしかないのだが、買う方の目線からするとこの時に平置きだと非常に視認性が悪いのである。この辺りは一般参加者の立場でも色々観察できる部分なので、その辺り明らかに場慣れしてるサークルのワザを目で盗むのも手ではないかと思う。

あとはまぁ、これまでの努力を信じて売るしかない。きっと一冊目が売れたとき、大なり小なり報われた感じがすると思うし、損益分岐点さえ超せばもう何も怖いものはない。……そしてもし、完売するようであればそれは次も期待してるぜという大いなる肯定である。

……というわけで、駆け足ではあるが、 情報系同人誌を作って売るまでに考えることについて思い付くままに書き綴ってきた。これはあくまでも一例なので、ここに書いてあることが全てではない。だが、何処かしらは参考になるのではないかと思っている。

繰り返しになるが、これを書いたのはただ一つ「面白いから(創作は無理だと思っている)お前らもやれよ」という気持ちからである。もし興味があるのであれば、乗り越えるべきハードルはそう高くない。そして一度でも作り手側に回れば、続けていくかどうかはともかくとしても、何かしら見えてくるものはある。例えば一冊の本にかかっている労力を肌身で感じることが出来るようにもなるし、そうするとますます他の人の作品やそれを作り上げる努力に対して経緯を払えるようになるのだ。

そしてまた、作り手側に立てばそうした偉大な先人達とも「いち書き手」という立場の上では対等である。いつか並び、越えることが出来るように夢を見るのもそう悪いことではない。そういうのも含めて楽しいからいっぺんやってみて欲しいと、そしてその結果生まれるであろうものすごい情熱の塊を目にしてみたい、それだけのことなのだ。

そして最後に一つ言っておこう。「同人誌で大儲け」は正直なところここに書いてあるようなレベルでは幻想の世界である。プロ並のモノが書ければ別だが、そういう人はつまりプロとしてもやっていけるレベルであるわけで、つまりはかなり高いレベルの上の方であれば儲かるのかも、というくらいの話である。まぁ異世界転生くらいの難易度と思ってもらえばいい。まして需要が限られたジャンルであれば、そもそも大儲けするほどの母数が居るか自体が怪しい。

とはいえ、ここまででなるべく損しない程度のやり方は書いてきたつもりである。オンデマンド印刷・数十Pをモノクロで50部以下であれば、まぁ仕様にもよるがトータルで高くても3-4万くらいには収まる。一部も売れなくっても3-4万の損失である。この3-4万、そんなに悪いカネの使い方でもないと思うのだが、果たしてどうだろうか。

もし悪くないな、と思うのであればその時は……

会場の何処かで、共に戦えればいいなと思っている次第である。