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無名サイトのつづき

2017年のTC-1

もうだいぶ前のことになるが、この記事を書いた直後に借り物ではない自分のTC-1を買ったヤフオクでどうにか動作するがジャンク扱いという形で売り出されていたそれは、手元に届いてみると外装にスレの目立つながらもとりあえずは動いているように見えたし、何より当時の中古相場の6掛けくらいの値段で買ったので文句を言う気にもなれない感じの代物であった。

以来数年、時たま不安定な動作を見せることもありつつTC-1は元気に動いていたのだが、あるとき電池ブタのカシメが取れてしまった。この電池ブタ部分、実はとても繊細な構造をしており、電池ブタのロックにクリックを出す為だけに極細のスプリングの先に直径1mmほどの鋼球をセットしてあり、この鋼球が溝にハマることでクリックを出す仕組みとなっている。この手のコンパクトによくあるスナップ式でもよさそうなものなのに、ずいぶんとこだわっているのである。

当初はDIYで直そうと思っていたのだが、この極細のスプリングを縮めながら鋼球をセットし、素早くカシメのフタを被せて固定するという作業は思いの外ストレスの塊であり、しばらく格闘した末飛び跳ねるバネの紛失というプレッシャーに耐えきれず、結局在野の修理業者に頼んだのだがそれなりの費用がかかってしまった。

このカメラにおける拘りのポイントはそれこそ数限りなく挙げることが出来ると思うが、なにもこんなところをこんなに繊細に作らなくてもいいのにと思ったのは確かである。神は細部に宿るというが、こんなところにまで宿っていたら八百万ですら足りなくなるのだはと思うことしきりであった。もちろん、それがこのカメラの最高な点なのではあるが。

そしてまたしばらく使っていたのだが、あるとき北海道旅行に向かう機内の中で「ファンクションレバーが片側で固定されてしまい露出補正が-4.0のまま固まる」という凄まじい故障を発症してそのままウンともスンとも言わなくなってしまった。気付いた瞬間離陸前の機内で三分ほど呆然としていたのだが、ふとISO感度を四段落とせばプラマイゼロなのではということに気が付いて旅行をそのまま乗り切り、以降もそのまま使用していた。装填の度に感度を指折り数えるのがちょっと面倒ではあるが、ネガなら多少露出がブレても問題ないということもあり、結局修理もせずこの状態でまたしばらく使っていたのだ。

しかし、いい加減不便なのでマトモな個体へと買い換えをしようと思っていたら、どうも状況が変わっていることに気が付いた。2014年頃のTC-1の相場は並品ならば4万円くらいといったところだったのだが、2017年現在においては更に値上がりしており6~7万円くらいとなっている。実は動作が不安定だった頃に一度ケンコートキナー(コニカミノルタ製品の修理が移管されている)に修理費用の問い合わせをしていたのだが、当時の回答は状況にもよるが2~3万円かかるということであり、当時の中古価格を考えると外装の程度が悪い手持ちのTC-1を直すのはあまり得策には思えなかったのである。それならば適当な中古を買って入れ替えた方が得策であった。

しかし、いざ今になってみると、もはや4万円ではマトモな中古機は手に入らない。急遽予算を多少拡大してみても後の祭りで、結局マシな中古を手に入れて玉突きで入れ替えるというプランはあっさり頓挫してしまった。

というわけで、今となっては2~3万出してでも修理をした方が得策ではないかと思い中野にあるケンコートキナーショールームまで持ち込んでみることにしたのだ。

主要な病状としては下記の通りである。

・前述のファンクションレバー不良
・もし部品があれば電池ブタ交換希望
・特定の条件下で空にフレアが映り込む
・その他動作が不安定

受付の方の話によれば、TC-1は未だに修理の依頼がある機種であり、部品も一部欠品は出ているものの、可能な限り対応して下さるとのことだった。もし基板等の問題であればその分の部品代は必要になるが、清掃で直ればさほどかからないのではないかという話であり、とりあえず2~3万見ておいて欲しいということであった。もちろん生産終了から10年以上経過した機種なので未だに部品があるだけでもありがたいし、この辺りは以前電話で問い合わせした際の見積もり通りなのでそのまま預けることとした。これが日曜日の夕方の話である。

すると、翌月曜日の夕方には電話がかかって来て、見積もりが完了したとのこと。預けたの昨日の夕方だよな? と半ば信じがたい気持ちで内容を聞くと、接点不良は基板交換不要であり、電池ブタは在庫があるので交換可能、フレアはカメラ内部の遮光板の交換で直るとのことだった。

※余談だが、TC-1はカメラの裏蓋を開いて後玉側に箱形フードのような植毛付きの遮光板が取り付けられており、電源オンと同時に展開して有害光をカットするように出来ている。この部分の植毛が剥がれるとフレアが出てしまうことがあるとのこと。このフード状のフレアカッターはカラクリ仕掛けのようであると同時に開発者の画質に対する執念というか一種の怨念すら感じる部分である。というか先述のように電池ブタ一つ取っても頭おかしい構造しているので自分では絶対にこのカメラを分解したくない。元に戻せる気がまったくしない。

そしてここまでやって値段は約15k(電池ブタ・遮光板部品代込み)だという。前述通り2~3万くらいは覚悟していただけに、あまりにもあっけない回答に正直ポカンとしてしまったのだが、こんなことであればもっと早く修理に出しておけば良かったと思いつつもちろん修理続行の回答をして電話を切った。

するとまた翌日の夕方電話がかかってきて、何かトラブルでもあったのかと思えば「修理が完了した」とのことであった。預けてから50時間くらいしか経ってないのに、である。

もちろん修理は早いほうがいいが、ここまで早いのは正直経験したことがない。というわけでその週末にまた中野へ行き、引き取ってきた。もちろん各部は完璧に修理されており、修理部分には半年の保証も付くという。

引き取りがてらこの対応速度について聞いてみると、どうも修理部門は中野のケンコートキナーの営業所の別フロアにあるらしく、ショールームに持って行けばほぼ直結なのでこれほどまでに早いのだという。もっとも、あまりに早すぎるせいで自分以外にも不安がるお客さんはいるということだった。もちろん理屈がわかればまったく不安要素はないのだが、ともかくカメラの修理としてはこれまでに体験したことのないスピード感だったので新鮮だったのは確かである。

ちなみに他の機種の修理についても聞いてみると、レンズ類は交換できるエレメントが欠品していることが多くカビ取り等は限定対応(ソニーからの移管直後くらいにいくつか頼んだことがあるが当時の段階でミノルタ初期AFレンズとかだとかなり厳しかった覚えがある)。カメラボディについても部品がないとどうにもならないが、とにかく一旦持ってきてくれれば相談は出来るとのことだった。

[最終的な修理代内訳]
部品代 1,000円(電池ブタ500円・遮光枠500円)
技術料 12,500円
送料  0円(直接持込/引取)
消費税 1,080円
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合計  14,580円

コニカミノルタの撤退からは既に10年以上経つので、本来であれば部品類も全て処分されていてもおかしくないタイミングながら、今回のように可能な限り対応してもらえるということで、TC-1に限らずもしコニカ/ミノルタ製で修理が必要なカメラがあれば検討の価値は大いにあるのではといったところである。何よりも「メーカー純正」の修理であることだし。

ともかく、撤退後10年が経過した現在においても関係者各位のご尽力によってこのような体制を維持されていることについては感謝の念でいっぱいである。これでまたTC-1を使い続けることが出来るのだから。

 

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MINOLTA TC-1 + FUJI VELVIA 50

f:id:seek_3511:20170506225436j:plainMINOLTA TC-1 + KODAK PROFOTO XL 100