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無名サイトのつづき

CP+に行ってきた(のと消えていったものたちへの鎮魂歌)

会場が近いということもあり、一応カメラ趣味者の端くれとしてCP+はほぼ毎年行っている。なので今年も行ってきた。ただ、最近は行き始めた当初の新製品を触るという目的からは若干シフトし始めていて「どうせあと数ヶ月も待てば触れる新製品並んで試す必要とかないじゃん」という気持ちが優勢になっている。なので発表済新製品の列に熱心に並んで、メーカーの人の説明を食い入るように聞いて話し込むみたいなのは最近はあんまりしていない。

ではなんでそんな状態なのに、そして今まではここでCP+のことなど記事化していなかったのに急にここで突然CP+のことを書くつもりになったのかというと、一番の理由は「発表はされたが出てこない機種が確かに存在する」からである。かつてはペンタックス 645Dなどがその筆頭であったがあれは開発凍結からかなりのブランクを経て無事復活し、現在でもシリーズが続いている。

本当に出てこなくなってしまったものはと言えば、一番最近の例はニコン DLである。CP+2016の時にタッチトライが出来る(≒動作機が既に仕上がっている)状態で、各販売店にはカタログまで配布されたにも関わらず発売延期が続き、最終的には2017年2月……つまり翌年のCP+の直前に正式に発売断念が発表された。こうした経緯から、発売中止になったカメラとしてはおそらく一番有名な機種の一つである。

また、発表されたDL3機種の中で、特に一部に熱望されていたDL18-50は2019年現在でも相当品が存在していないため、余計に伝説の存在になっている。コンバーターなしに24mm以下の広角が使える高級コンパクトは後にも先にもアレしか存在しないし、発売された機種はないのである。

ちなみにこの時(CP+2016)は実際に展示品を触っており、(当初は2016年6月発売予定だったということもあり)すぐ発売されてもおかしくない程度には仕上がっていた。またこの時多少説明員の方ともお話をしたのだが、言葉の端々に「高級コンパクトでの失敗を取り返す」という意識が感じられ、これは気合い入っているなと思いじきに出たら選択肢の内に入れよう、と思ったのを今でも鮮明に覚えている。

なおここで言う「高級コンパクトでの失敗」とは直前にニコンの高級コンパクトとして君臨したはいいものの同時期に出てほぼ同等スペックだったリコーGRに完敗してしまい、今では覚えている人も少ないcoolpix Aのことでありこっちもこっちでツッコミどころはたくさんあるのだが、ひとまず本筋とは関係ないので置いておく。

流石にこのレベルでの発売中止はなかなかないが、乏しい記憶を辿ればいくつかはそういった参考出品だけに終わった存在や、無事発売にこぎ着けたものの最終的には仕様(塗色など)が変わったものの例がある。

例えば2017年のCP+に出展されたカシオ EXILIM EX-FRシリーズの「赤外線カメラユニット」仕様である。

ご存じのようにコンパクトカメラの雄であったカシオはこのあと2018年にデジタルカメラからの撤退を行うため、これが国内展示会での最後の出品となったのだが、こうした製品化に至らなかったモデルの提案も行われていたのである。

そもそもこのFRシリーズのユニットも、分離型であることを活かして当初のスポーツ・アクションカム的な立ち位置の他に、監視カメラ用の超高感度CMOSを使用したユニットや、ゴルファー向けユニットであったり、高所点検用のユニットであったりとかなりニッチなところを攻めていたのだった。

おそらくこのカメラも、高所点検用ユニット同様、台数は少ないが確実に価格が維持できる(+この内容ならガジェットオタクにもウケる)という辺りを狙っていたのだろう。赤外線センサー部分自体は実績のあるFLIR社とのコラボであり、同社のコンシューマー向け製品としてはスマートフォンに内蔵したり、あるいはスマートフォン向けの外付けユニットが存在していて、このカメラもある意味でその延長線上に存在していた。

当時仕事でこうした赤外線カメラを使っていたことがあったのだが、そのカメラはNEC三栄(現日本アビオニクス)の数百万もする業務用機で、壊したらどうなるかわかってるだろうな、と脅されながらの使用であったので、もしこの赤外線EXILIMがそれよりも安価なラインに降りてくるのであれば(おそらくはそうなるはずだった)、業務用として是非欲しいなと感じたのである。しかし、結局これも世の中に出ることはなかった。

また、このカメラはブースのメインとしてではなくあくまでも開発中の参考展示としてひっそりと公開されていた。当時のカシオはCP+に来るようなカメラに熱心な層──要するにカメラオタク──向けの製品を持たなかった為、ブースの雰囲気も女性層へのアピールがメインとなっていた。これがカメラオタクにとっては興味の範疇外と思われてしまったのか、デジカメWatchをはじめとした国内ニュースサイトにもカシオブースの詳細なレポートは少なく、結果このカメラは全くと言って良いほど取り上げられていない。唯一日経エレクトロニクスが記事化したくらいである。本当に誰も知らないカメラなのだ(おそらく一般ユーザーが触れたのはこの時のみ)。

大々的にアピールをブチ上げた末に思いっきりコケてしまったが故に「カメラオタクなら誰でも知ってる」象徴的な存在になったニコンDL。

それとは対照的に「ニュースサイトを読みあさったり実際に会場に足を運んだカメラオタクですら誰も知らない」カシオ赤外線EXILIM

 この他にも、ケンコー初のレンズ交換式デジタルカメラになる予定だった……のに開発してる最中にペンタックスからQが発売されてしまい、用途が被る(Qはアダプター経由でCマウントレンズが使用可能)ことからフェイドアウトしていったケンコーCマウントカメラ(2011年3月展示・ペンタックスQは2011年8月発売)や何本かのレンズなど、こうした「展示会にしか出なかった」例は確かに存在している。

しかしここまで書いてきたように、消えていったカメラやレンズにもそれぞれのエピソードや狙いが存在する。しかしそれらはいつしか皆の記憶に溶けて、消えてなくなってしまうのだ。なので、展示会へ毎年行くようなカメラオタクの一人として、せめてそれを見たり触ったりした者の一人として、それらが確かに存在したことを何処かに書き記しておきたいと思った次第である。

どんなものでも、展示されているものが無事製品化されるまでには様々な苦闘が存在する。その上で、たまには「消えていったものたち」へ思いを馳せるのも悪くはないのではないかと思うのである。そして出来れば、そうした展示段階のものが少しでも報われるようにと、強く願うのである。

今年の話まったくしてねぇ。