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レンズについて[第2回] : MINOLTA AF 50mm F1.4New

 「写真は標準レンズに始まり、標準レンズに終わる」

こんなことを言い出したのが誰だったのか、今となっては知る由もないが、とかく現代まで語り継がれている写真における格言(?)のひとつである。そんなわけで、レンズについて第2回は標準レンズ、MINOLTA AF 50mm F1.4Newを取り上げることにした。

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α900 + AF 50mm F1.4New

標準レンズを評して曰く「ライカを始祖とする由緒ある焦点距離」「フィルムの対角線長に近く最も自然なパースペクティブを持つ」「標準と広角の中間に位置し、撮影距離で自在にコントロール出来る」「人間の肉眼に近い視野角を持つ」……etc.と、とにかくこのクラスのレンズは様々な言葉で語られる。古参のカメラ愛好家にとってはこの焦点域を自在に使いこなす事が一種のステータスでさえある。

もっとも、これらの言葉は50mmが一眼レフとセットで販売されていた80年代頃までのユーザーにとっては懐かしくても、ズームレンズが標準的にキットとして付属するようになって以降や、デジタルカメラで育った人間にとっては今ひとつピンと来ない話であることも確かである。

現に自分はデジタルカメラで育った人間だったので、最初に自分の手で選んだカメラにもズームレンズが付いていたし、上記のような言葉についても古参ユーザーのノスタルジーに過ぎないとやや冷めた見方をしており、それは一眼レフへとステップアップしてからも同様だった。

しかし、ことデジタル一眼レフではこの標準レンズというものがまた別の輝きを放ち始めた。せっかく一眼レフを買ったのだからとにかくボケを生かしたいという要求に対して、最も安価に応えられるレンズだったからである。多くのカメラで採用するAPS-Cのセンサーサイズでは、75mm相当となり、憧れのポートレートレンズである85mm F1.4クラスを少なくとも画角の面では代用することが出来た。それも、数段以上安価に。

かくいう自分も、α100を使い始めてまだ最初の頃にミノルタの初代50mm F1.4を数千円で拾って以来よく使うようになった。α-7000の中古にセットでくっついている事が多く、年代のせいでリサイクルショップなどでは捨て値で売っていることがよくあったのだ。当時の使い方としてはキットのズームに対して明るい抑えのプラスワンとして、レンズとしては切り取るような感覚が多かったように思える。換算75mmはやはり常用するにはほんの少しだけ長く感じた。

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例によって、スペックはケンコートキナーのスペック表を確認のこと。このレンズはミノルタ→ソニーまでで3モデルあるが、レンズ構成はどれも同じである。ミノルタ時代の無印とNewの違いは外見デザインの変更のほか、機能面では「フィルター径変更(49→55mm)」「内蔵フード→バヨネットフード化」「円形絞り化」である。ミノルタNew→ソニーでは機能面ではほぼNewと同様だがソニー用にデザインが変更された。なお、ソニーの初期モデルは日本製だが、現在売っているものは中国製になっているようだ。

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前述の通り、元々は無印タイプを持っていたのだが、Newタイプが比較的安く手に入ったので今ではこちらを使用している。

そして月日は流れて、メイン機がα900に代わってフルサイズ機で使うようになると、ようやく前述の「格言」達に実感が持てるようになった。なるほど確かにこれは写真の基本だ。

単焦点であれば自分が動く事でパースや構図の広がりをコントロールするのは当たり前だが、極端なパースが付きづらいので引いて広角寄って望遠、といった見せ方が出来る。また、もはや数十年前から更新されていない完成された光学系だからか絞り値による描写の変化は現代の最新レンズとは比較にならないほど大きい。開放ではややふんわりとした写りと周辺光量の落ち込みがあるが、絞ればシャープになっていき、周辺光量や描写も画面全域でフラットになっていく。現代のレンズではとかく絞り開放からシャープなことが求められていて、絞り値は単なる被写界深度の調整の為だけにあるようなレンズも少なくないし、どうもそれが良いレンズと信じられているようだが、これはこれで使いこなしている感があって楽しいものである。

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ちなみにこの時代のミノルタのフード取り付けバヨネットは各レンズでほぼ共通なので、NewタイプをAPS-Cで使うなら少しでも長い75-300用のフードを使用するとか、無印に49mmのねじ込みフードを使い回すなどが考えられる。無印は売却してしまったので今は確かめられないが、確かペンタックスのタクマー用メタルフード(100mm用)などがケラレなかったはずである。同様に135mm用だとケラレたように記憶している。

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後玉もご覧の通りの大口径で、キットレンズのズームしか知らなかった頃はこの後玉サイズにびっくりしたものだ。(手元には既に200/2.8もあったが、あちらはテレコン対応の為だいぶ奥に引っ込んでいるので)

F1.4クラスの大口径レンズの中では、前述の通り最もお手頃な価格かつ、サイズ的にも小型軽量で使いやすい。今回もFlickrに作例をアップしておいたので参考にどうぞ。なお今回は記事としてはNewタイプで作っているが、作例の一部は無印タイプのものも含まれているのであらかじめお断りしておく。α100での作例は基本的に無印でのものだ。

現在、このクラスの50mmは最新のモノを除くと各社似たような6群7枚といったところに落ち着いているので、描写の傾向としてもだいたい似てくる。その中でミノルタならではの味の部分がどの程度あるのかというと、他社のものを使い込んだ事もないのでわからないが、コントラストがガチガチにならず、どこか柔らかさを感じさせる描写ではないかなと思っている。

なお、ソニーからは先述の通りこのレンズを引き継いだ50mm F1.4が販売されており、その他に同スペックで最新設計の50mm F1.4 ZAが発売を控えている。とはいえZAについては同じなのは焦点距離と明るさだけで、あとは大きさも価格も何もかも格が違う、というのが展示会で見た時の感想だ。

そんなわけで、かつてAPS-Cのカメラを使っていた頃はスーパーサブ的な扱いが多かったこのレンズだが、現在は単焦点一本勝負でスナップに出る時などに使う事が多い。そうした時にこのレンズの扱いやすい焦点距離、αマウントではこれ以上望めない明るさ、その割に小型軽量という特徴が生きてくる。ある意味では最も汎用性の高いレンズの一つかもしれない。まさしく「標準」レンズなのだ。

50ZAを横目に見つつも、当面の間はこのレンズと付き合っていくつもりだ。