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無名サイトのつづき

なにをいまさらDSC-R1

2016年に、当時たまたま縁あって手に入れたDSC-RX10というカメラについてここで記事にした。

seek.hatenadiary.jp

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このカメラ、ひとことで言えば1インチの(コンデジとしては)大きめの撮像素子かつ24-200mmをF2.8通しで実現した、いわゆるネオ一眼レフタイプの高級コンデジである。しかし、文中でも述べた通りこのクラスはデジタル一眼レフを更に小型化したミラーレスの登場によりサイズ的には中途半端なポジションになってしまい、現在このカメラの路線を継ぐ機種は絶滅してしまった。

正確に言うと、ソニーからはRX10シリーズの直接の後継としてRX10IVが生まれているが、これは一回り大きく、より望遠志向となった(24-600mm F2.4-4相当)。一方で、24-200mmをカバーするモデルとしてより小さなRX100のサイズで高倍率化したRX100VIIも生まれている(24-200mm F2.8-4.5相当)。つまり、今となってはRX10のサイズやスペックに出る幕は存在しなくなってしまったのである。

一方で、ソニー以外の他社にしたってこの大きさであればより望遠側を強化するのが通例となっているので、当時「意義ある中途半端」と評したスペックは、結局のところ誰も引き継がなかったということになる。

しかし、そうした世間の評判はともかく、実は現在の手持ちのカメラの中でトップクラスに稼働率が高いのがこのカメラだったりする。それも並み居る(価格的にはプロクラスの)一眼レフやミラーレスを差し置いて、である。画質だけを求めれば当然そちらを持って行くという選択肢もあるのだが、先の記事にもある通り、撮影だけが主目的ではない旅行に持って行くとなるとこのカメラのバランスは今もってなお輝いている。

結局旅先というのは写真だけの為にあるわけでもないのだし、携行性と画質のバランスを詰めていくと、やっぱり旅先で便利なのはこの微妙なスペックだったりするのである。より小さなカメラとしてGRやRX100も持っているが、この感想は一貫して変わってはいない。

……で、先日またマイルガチャを引いて旅行に行くことになったのだが、いつものようにRX10を持って出ようとした時にふと思い出した。そういえば家には似たようなカメラがもう一台あるんだった──このあまりに長い前フリを経て──ここでようやく出てくるのが、RX10の先祖とも言えるカメラ、DSC-R1である。

さて、DSC-R1というカメラがどんなカメラなのかというのはまぁ公式サイトでも見てもらった方が早いのだが、RX10のご先祖という言葉からもわかる通り、ソニーが2005年に発売したレンズ一体型の高級コンデジである。

www.sony.jp

しかし、このカメラが現在のRXシリーズと決定的に異なる点が一つある。それは、ソニーコニカミノルタからαを引き継ぐ以前──つまりレンズ交換式カメラを持たなかった時代──に作られたカメラであるという点である。

ご存じのように、現在のRXシリーズというのは、ソフトウェアや操作系の面で一眼レフやミラーレスのαシリーズとの共通性を強く打ち出している。そしてこうした部分が完成したのは、ソニー自身が一眼レフを保有して以降のことである。

一方で、αシリーズ継承以前においてのソニーはレンズ交換式ではないデジタルカメラの雄であった。いわゆるコンデジのトップメーカーの一つだったのだ。そして、その中には当然フラッグシップと言えるだけの高級機も存在した。DSC-R1はそんな時代の(RX以前の)最後のフラッグシップである。

ぶっちゃけ、ボディはRX10よりも一回りデカい。それは何故かと言えば、このカメラがほぼAPS-C相当の大サイズ撮像素子を採用しているからである。そしてレンズは5倍ズームで、24-120mm F2.8-4.8相当である。もちろんカールツァイス銘であり、いっちょ前にバリオゾナーを名乗っている。

この撮像素子、サイズ的には1.7倍時代のシグマよりも大きく、1.6倍のキヤノンサイズよりは小さいという微妙なところだが、実質的にはほぼAPS-Cを名乗っていいだろう。

APS-Cサイズの撮像素子を持つコンデジといえば、現在はDPシリーズやGRがあり、たいして珍しくもないように感じられる。しかし、一般的にAPS-Cサイズ搭載コンデジの嚆矢とされているシグマDP1の発売は2008年であることを考えれば、このカメラはそれよりも先にAPS-Cサイズの非レンズ交換型を実現していたことになる。

そして、いくら「APS-Cサイズの大サイズ撮像素子を採用した非レンズ交換式カメラ」が今や珍しくないといってもその中で「ズームレンズ搭載の」となると実は途端に少なくなる。DSC-R1以降の機種をすべてカウント(レンズ非交換式としてはボーダーラインのGXRを含め)しても、過去存在したのはたったの数機種であり、いずれもショートズームのカメラである。ズーム搭載であれば、大サイズ撮像素子といっても主戦場は未だに1インチや4/3相当なのである。

APS-Cかつズーム搭載コンデジの例
リコーGXR A16(2012/24-85mm相当)
イカXバリオ(2013/28-70mm相当)
キヤノンPS G1X mk3(2017/24-72mm相当)

つまり、このカメラもまた、自社はもちろん他社まで含めても性格を継ぐ者のいない、後継者のないカメラであると言えるだろう。

そう考えると、2005年に24-120mmとAPS-C相当を達成していたこのカメラは相当に異常というか、妙なところを突っ走っていたものだと感心する。実際問題、同時期のこのクラスのカメラというのは(1インチブームが来る前だったので)2/3インチや1/1.7インチがメジャーなサイズであった。現にこのカメラの前モデルにあたるDSC-F828は2/3インチCCD採用で、そこに28-200mm F2.0-2.8相当というスペックだったので、ガラッと変わったわけである。

さて、2005年頃というのはデジタル一眼レフカメラの低価格化も進んでいた頃であり、DSC-R1の実勢価格は10万円オーバーと、モロに初級デジタル一眼レフと被る価格帯であった。当時すでにカメラに興味はあったが、こうした価格帯のカメラは高嶺の花だし、高値の花でもあったため、何度か店頭で触った程度で購入を検討することは一切なかった。

現在の目で見れば、24-120をカバーするそれなりのレンズが付属してデジタル一眼レフ初級機と同じ価格帯であればそれなりに意義は感じるのだが、そうはあってもレンズ交換式の魅力は大きい。多くの人にとってもそれは同じだったのか、結局このカメラはヒットすることもなく一部に支持者を残して消えていった。

当時書かれたレビューとして印象に残っているのは写真家の内原恭彦氏がデジカメwatchの連載で触れたこの記事である。

dc.watch.impress.co.jp

今になって読み返してみると、評価点もそうでない点もだいたい同意見で、もうこの記事はこれ貼って以降はこれ参照でどうぞで終わっても良いのではないかと思ってしまったくらいなのだが、とはいえ2020年のシロウトなりの感想もあるだろうてということで以下旅行に持ち出して使ってみた感想といくらかの写真を上げておく。

まずサイズはRX10よりは大きい。そして(内原氏の記事が書かれた当時とは異なり)現在はAPS-Cサイズのミラーレス機であればこれよりサイズが小さいものも多々あるので、そういう意味では問答無用でデカいという評になるだろう。とはいえ変に金属部材を奢っていないカメラでもあるので、24-120/2.8-4.5相当というスペックを考えれば決して重すぎるわけではないという辺りが現在の感覚だろうか。

で、このカメラ、まさしく「デジタル一眼レフの仕様をコンデジの書式で作った」感じである。一眼レフらしい部分は外装サイズと撮像素子サイズとレンズの仕様とRAWが撮れること。ただしそれを実現する手法やハードウェアはコンデジのそれである。

よって、メニュー等は当時のコンデジに近いもので、あまりカスタマイズは出来ない。幸いなことに多用する機能はボディ側にハードキーが設けられているのであまり不自由することはない。操作系面で特筆すべきはワンプッシュAFボタンの実装やEVFのハードウェア切り替えが実装されていること、そしてウエストレベルを基本として液晶モニターだろうか。コンデジにはチルト液晶が標準的になって久しいが、ウエストレベルのやりやすさで言えばこのカメラが一番だろう。なんせそれが基本形なのだ。なおこの形状故にアイレベルかつライブビューでの撮影はしづらい。この位置に液晶を配置するカメラがこれ以降主流になっていないことからもわかる通り、このボディ形状は既存のカメラに対して圧倒的に使いやすいというわけでもない。とはいえこの特異さに萌えるというのも確かだろう。

また、ソフトウェアが悪さをしているからかはわからないが、基本的にレスポンスはよくない。特に今回の旅行中は64GBのSanDisk Extreme proを使用していたのだが、起動すると数回に一度の割合で30秒近い読み込み待ちが発生してしまった。下手をすればAptusより撮影までの時間がかかるカメラかもしれない(なお、発生しない時もあり条件は謎。その場合も数秒はかかる)。そしてバッファや処理能力もギリギリなのか、RAWで撮影すると連写は出来ず、数秒おきに撮影した時ですら「アクセス中」の文字が出て操作不能になってしまう。旅先でのスナップ用途としてはレスポンスはギリギリ落第と言って良いだろう。

DSC00502

しかし、それを補える程度の写りはある。というか、2005年のコンデジとしてみれば破格だろう(あるいはデジタル一眼レフ並とすべきかもしれないが)。24-120mmは旅行においてはちょうど良いカバーレンジで、撮影結果自体にはわりと満足がいく。

とはいえ、撮影してる時は言うことを聞いてくれない機械という印象もあった。特に酷いのがEVFで、このEVFはアイセンサーでの自動切り替えが可能だが、IRセンサーが外に露出していないタイプであり何処を塞げば反応してくれるのかがいまいち分かりづらい。試した限りでは反応エリアが左右に不均等であり、接眼してもEVFに切り替わらず真っ暗なまま仕方ないのでそのままシャッターを切ったことが何度となくあった。液晶やEVFは当然2005年なりの解像度のため、今回は露出やピントの基準としてはアテにしない方向で使っていたが、最低限の構図確認すらやりづらいのには閉口である。

しかし、しっかりと握り込めるグリップやウエストレベルのやりやすさなど、なんとなくいろいろな使い方をしてやろうみたいな気分を呼び覚ます部分も多かった。電池は3日間で4本使い切ってしまったが、うち2本が互換電池だったこととトータルでの使用時間(1,000枚近く撮影)を加味すると、純正なら十分持つ方だと思う。

DSC00109

ただ、やっぱり基本的な部分はコンデジの文法から作られているのか、使い込んでみるとハテナマークの飛び交う挙動や写りもあった。

画質については上記の船の作例の通りシャープネスをかけすぎ(標準設定・Lightroomストレート現像)なきらいがあるし、そのせいで線が太く見えてしまってるのも感じる。色もコンデジ寄りというか、デジタル一眼レフの素材感のある発色ではなく無加工でも派手目である。

最大の謎の部分は露出制御である。このカメラのプログラムラインは、いろいろ試す限りではどんな被写体でも1/250までは絞り開放を保ち、それを超えると仕方なくという感じで絞り込まれていく。コンデジであれば納得のいくプログラムだが、このカメラはAPS-Cサイズの撮像素子を搭載しているのに、である。遠景を撮るのに開放もちょっとおかしいし、近接気味の時に手ぶれ限界に達していないなら(ボケ量も大きいのだから)絞り込んで欲しいのが人情である。しかしいずれのシーンでも、絞りは開放に張り付いたままでシャッター速度だけで調整しようとする傾向が見られた。

同様に(こちらはAPS-Cサイズの恩恵があるはずの)感度もかなり控えめな上げ方になっており、プログラムモードの実装までコンデジからそのまま移植してしまったのではないかという疑いが消えなかった。まぁこの辺りは途中で気付いたので適宜Aモード等に切り替えて使用することとなった。

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総じて、文句を言いつつも3日間楽しく使っていられた。そしてこれ一台で不足するシーンが少なかったのもまた印象的である。

ここで最初に戻ってRX10と比べたら、やはり時代なりのEVFの進化や、わずかに小さいサイズを評価してRX10を手に取ってしまうかもしれないが、しかしそうは言ってもこれは2005年のデジカメである。そういう意味では、やはり当時のフラッグシップはすごいという話になるだろう。

ただ、RX10とR1を比べてみると、R1ではチラチラ見え隠れしていた「コンデジらしさ」が少ないということにもまた気付かされる。そういった意味では、ソニーがαシリーズを統合した結果として、一眼レフの文法がRXシリーズにもきちんと注入されていると言うことも出来るだろう(とはいえ現在のα/RXシリーズのUIはコニミノ時代のαの良い面は全部捨てられてしまっておりかけ離れているがこの話は細かく説明すると非常に長いので省略する)。とはいえ、この記事は2020年にもなって2005年のデジカメの話をしてああだこうだ言っているわけで、これぞまさしく「なにをいまさら」という話である。