表題の通り。
よくある比喩として顧客が本当に求めているものはドリルではなくて穴だとかいう小咄的なアレがあるが、実際のところ個人的にはドリルを撫で回したりドリルの性能について小一時間喋っていられる側の人間だと思っていたのでこの手の話についてはなんでぇ穴なんてそんな当たり前のこと言われても面白くねぇやと思っていた。少なくとも最近までは。
が、そういうスタンスの人間でさえ実際必要なのドリルではなくて穴だったわと感じた出来事があったので、今回はその話をしようと思う。
時に世は空前のAI時代である。LLMが使い物になるようになって数年が経ち――あるいは数年しか経っておらず――未だにIT強者共のチキンレースさながらのAI大盤振る舞いは続いている。この文を何年か後に見てマジかよそんな時代あったのかよとなるのかそれともあんなの可愛いもんだったなと思うのかはわからないが、ともかく現在は損して得取れというか、AI業界のプレーヤーは勝者総取りを狙って札束でぶん殴り合っているので、ユーザーも内心いつまでやるんだよコレとは思いつつさまざまな恩恵は受けて今に至っている。
まぁ実際それらAI利用がクリエイティブだったり倫理的に正しい方向に向けられているかどうかとか、これで消費されるGPUやメモリや電力どうすんだよとか、法律上の位置付けだの本当にあらゆるところにいくらでも問題はあるが、ともかく一時期よりはAIというものは実用的であり、かつ手の届くところにある、というのは間違いないだろう。
そんなわけで、少し前にお試し割のようなものがあったのでこちらでもGoogleのGeminiを年間プランで契約してみた。別にどこでも良かったのだが、たまたまGeminiがセールしていたのでそうなった。ちなみにどのAIモデルを使用しているかというのは、おそらく本記事の本筋にはあまり影響しないと思われる。
さて、少し前にプロ驚き屋(フリガナ:オドロキヤー)の皆様がAI検索はすごい、AIが検索市場を壊滅させるかもしれないみたいなことを言っていた覚えがあるが正直微塵もピンとこなかった。実際Gemini有料プランの契約前には無料で試せる範囲でいくつかのAI検索を試してみたが、少なくともその時点では単にどっかからか引っ張ってきた真偽不明の情報をごちゃ混ぜにして盛り付けてチャット風味で包んで乱雑に出しただけというのがAI検索の実態のように見えた。こんなん使えんわというか、既存の検索に対してのアドバンテージって一体何? というのが正直な感想だったのである。
実際、味噌もクソもAIのチャット文に加工されてしまうので参考にしているのが信頼できるソースなのかも怪しいし、仮に疑わしい内容だったとしてそれを突っ込んでもAIが誤りを認めないことすらある。だいたい、情報の真偽というのは何処のサイトにそれが書かれていたかも重要であったのだが、自分で検索先を見に行くのとは違ってAI検索ではそこを全部塗りつぶしてしまうのだから、むしろ退化であるとすら感じた。それどころか、自分で検索先を見に行った時ですら検索結果の一等地をAI検索とやらが占拠していて、正直邪魔で仕方がなかった。
……というわけでAI検索とかにはあまり期待をしておらず、Geminiを契約したのはどちらかというと趣味の調べ物のデータ整理のためであった。とはいえ、有料プランの契約をしたからには元を取らなければならないという貧乏根性もあり、MOTTAINAI精神でチャット窓をしばらく触っていると、どうもこのAIというやつは有力と無料で見た目が一緒なのに性能が違うというか、無料で試せるようなモデルはだいぶ性能が絞られているのではないか……ということがわかってきた。
無料の範囲で試してるうちはこんなもんかという評価になってしまったのだが、有料モデルであればしばらく質問を投げているうちになかなか使えるじゃんとある程度好意的に感じるようになってきた。あの慣れ慣れしいAI口調というのは相変わらず好きになれないが、それも有料モデルであればある程度ルール化することで抑制出来る。
そして話は再度AI検索の話に戻り、さらに冒頭の結論に至る。必要だったのはドリルではなくて穴だったと。
どういう意味かというと、こうした有料モデルを介したチャット形式によるAI検索というのは究極的には自分専用の穴を掘ってくれる存在だと気付いたのである。いや、使っている心情としては"AI検索ですらない"かもしれない。
たとえばこういう話があったとしよう。とある周辺機器を使っていてトラブルが起きたので解決したい……と。よくあるケースで、これまでであればまずは周辺機器の型番を検索窓に打ち込んで、そこからヘルプページに飛んで公式のFAQを確認するだろうか。それでも解決策が見つからなければ、さらに検索して他の似たトラブルがないか探して、その通りに試してみる。もちろん環境が違う場合もあるのでそれで直るかは分からないが、とにかくいくつか検索で出たものを繰り返して、時にはそれらを組み合わせて試したりなんかして、試行錯誤しているうちにいずれ正解にたどり着くことになる。
……とまぁ、こういうのがこれまでの典型的なトラブルシュートの方法であった。ドリルと穴のたとえで言えば、売り場に案内してもらって、そこに色々なドリルはあるのであとは自分で試してねという感じだろうか。もちろんドリルによって性能も異なるし、使い手の腕も試される。なんなら一旦穴については置いといてドリルについて小一時間語ることだって出来るだろう。
で、同じことをチャットAIにやらせるとどうなるか。まずある程度公式サイトに書いてあるような事象と共に解決策が列挙される。そしてそれでも直らなければ、例えば詰まっている時点でのスクリーンショットやエラーメッセージを貼り付ければ、 AIはそれを解釈して何処かの設定が間違っていないか、あるいは参考になる他の何かと環境が違うかどうかなどを汲み取って、こちらの環境に合わせてカスタマイズして回答してくれる(機能次第ではそのままAI側で設定までしてくれる。こうなると穴まで開けてくれると言える)。
つまり検索は目的ではなく手段だったのだ。
これに気付いた途端、今までのように売り場を案内してもらって、一つ一つドリルを手に取っていたのが途端に馬鹿らしくなってきた。つまり本当に解決したいのはトラブルであり穴を開けることであって、そのためにドリルの扱いを練習したり、あるいはドリルの種類に詳しくなったりするというのは全てストレスの要因だったのではないかというわけである。検索をし、検索先を読み、それを自分の環境と見比べ、対比した上で解決のための策を練る――そういう部分というのはやっぱり負荷だったし、言ってみれば下拵えでしかない。
そしてここでもう一つ大事な命題に至る。さっきまでソースの正確性がどうだという話をしていたのだが、ふと気付いてみると、求めていた穴が綺麗に開くのであればそれがどのようなドリルによるものであっても実際のところそれは大きな問題ではないということである。
つまり、世の中にはソースを気にすべきところとそうでないところがあって、気にすべきところはトコトン追求すべきなのかもしれないが、そうでないものに対してはソースはともかくだいたい80点以上の回答が返ってきさえすればよい。先の言い方をすれば満足出来る穴が開けばそれでいい。そういう意味では現在のAIの性能であればかなりの確率で80点以上の回答を返してくるのだから、つまるところそれでいいじゃない、一体何が不満なの? という話になるわけである。
さらに言えば、ユーザー側がよく知っていることに関しては仮にAIが間違いを言っていても指摘出来るし、それを指摘することによってユーザーも「AIもまだまだだな」と思うことになる。しかしよく知らないことについては、そもそも審美眼やセンサーのようなものが何処まで機能するかも怪しい。結局のところ検索であっても上位に表示されたそれらしいページのいくつかをつまみ食いしてそれでわかった気になっておしまいになるのが関の山だし、仮にそうした検索結果の何処かが間違っていたとしても知らないものの間違いなどそもそも指摘のしようがない。それであればむしろ問い詰めたり質問したり出来るAIに聞いた方がナンボかマシという可能性も大いにある。
こういう結論に至った結果、内心検索という概念は半分くらいは溶けてなくなってしまった。かつては問題解決のために検索しなければならなかったが、検索以外で問題解決が出来るのであればわざわざ検索でやる必要もないとそう感じるまでになってしまった。こうなると知りたいことがチャット窓ひとつで完結してしまうことも増えてきたのだが、とはいえAIがインターネットの膨大な知見を食べて育ったことを考えると、その源泉であるインターネットに人が目を向けなくなり、チャット窓に閉じ込めるようになってしまうというやり方もまたいかがなものかとは思う。
とはいえ、こうした問いもこの時代ならではのものになる可能性はある。そういう意味では今回の記事というのは2026年3月現在の感想を封止するためのものである。そしてそれこそがインターネットという場所に何かを書き残す意義ではないかと思っている。まぁ石碑みたいなもんだと思えばいい。
かつて確かに存在した、広大な世界を縦横無尽に結び付けていたハイパーリンクを使いこなすネットサーフィンの時代はどうやら終わってしまったみたいだし、気が付けば世界はチャット窓ひとつで済むほどに縮んでしまったようだ。そこにはやはり寂しさがあるし憂いもある。
だけど手元には立派な穴が開いているのだから、きっとそれで十分なのだ。