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無名サイトのつづき

事後報告 -コミケで本を出しましたの経緯と顛末- [宣伝・当日編]

というわけで、経緯については前回を参照して頂きたいのだが無事原稿は本という形になった。多分語り尽くされていることだとは思うが、自分の書いたものというのが形になって手元に届くというのは、やはり大きな感慨があった。

とはいえ、これまではブログという形式で書き散らかして来た人間が、他人に対して頒布するということはやったことに対する対価を要求することになるわけで、形の上ではプロと同じである。お金を出して買って頂く以上は、やはりそれだけの価値はあると納得してもらいたい。しかし、思いの外印刷費がかさんでしまったのもまた事実である。

なので、価格の決定についてはだいぶ悩んだが、最終的に「印刷原価割れの赤字頒布はしない」という方針に決めた。これは自分が今後も続けていくために必要だと思ったとともに、仮にタダで配ったとしてもタダなら誰もが欲しいというものでもないという理由からである。

さて、今回の本だが基本的に告知はTwitterのみで行った。このサイトを更新してるヒマは正直言ってなかったし、その他の宣伝手段というものも思いつかなかった。何せ内容があまりにも人を選ぶし、そもそもこちらには過去なんの実績もない新参である。であれば、ある程度知り合いを中心に話題になってくれる方がありがたい。今回の目標は「とりあえず知り合いを含めて刷った冊数(ロットの関係で50部)の半分は夏で売り切る(残りは冬で売る)」である。ちなみにこの時点で「この人なら絶対買ってくれる」と思い浮かんでいたのは4-5人といったところである。

宣伝方法についてはいろいろ考えた末で、下記の点について配慮した。

1.「頒布場所の明確化」
2.「内容の明確化」

具体的に気をつけた点としては8月以降はTwitter上のスクリーンネームに「○日目○○」といったサークルスペースの案内を付加した。まあこれは実際に頒布されている方であれば誰でもやっているわけだが、実際に自分でやってみるといよいよこちら側に立てたのかという謎の感慨があった。とりあえずこれで「何処で売るか」伝えるという問題はある程度解決できると言えよう。

次に、「どのような内容か」を伝えることである。これはTwitterに最近になって追加された要素を活用させてもらった。具体的には、RTしてもらうための元ツイートはごく少数に留めるために、まとまった告知を一度作ってある程度RTが収まったら適当なタイミングで自己RT→時間をおいて取り消し→再RTで告知ツイートがバラけるのを防いだ。以前はこの機能(自己RT)がなかったので、一度告知ツイートが流れてしまうと再度同内容でツイートしなおさなければならなかったのである。もちろん画像ツイートを使用し、「表紙」「目次」「サンプルページ」の三枚をpdfが出来た時点で貼りこんでおいた(ただし、本文モノクロなのにこの時点ではカラーで貼ってしまったのでそれは誤解を招いた可能性があり、反省点の一つ)。サンプルページはスケベブックであれば引きの強いページが自ずと決まってくるだろうが、うちの本はそういうもんでもないので、とりあえず主題のページを見開き公開としておいた。また、ツイートの固定機能を使用することで、フォロー関係にない人でもログを掘り返さずに詳細を確認できるよう務めた。

これは買う側の立場での話なのだが、スクリーンネームに頒布場所が入っていてかつRTで「○○出します」というツイートが回ってきたユーザーでも、告知ツイートが固定されていないので後で気になって探してみると該当の告知ツイートが見つけられないということがよくあったのである。見た側がTwitterのお気に入り機能を使えばいいのだろうが、人によってはそれこそ日に数十~数百件fav押しているような人もいるし、お気に入りは検索性も悪いので、告知ツイートへのアクセス性は良いに越したことはないと思われる。

あんまり毎日宣伝ばかりというのも嫌らしいのだが、一方で誰もがタイムラインに張り付いてるわけでもないので可能な限り告知は増やしたい。この辺りのバランスは気を使ったが、開き直って複数回RTすることにした。正直言ってここは答えが出ていない。自分が逆の立場だったらウザいんだろうなーと思いつつもRTボタンを押させてもらった。

なお、幸いなことに頒布前日までの間に、当日買えないということで通販希望を8部頂いた。とはいえ、この8部というのはほぼ前述の「心当たりのある4-5人+α」の方からの依頼であり、逆に言うとここに当日売れないということは他の人にはちっとも売れないんじゃないだろうかという新たな恐怖を感じたというのも正直なところである。結局在庫分10部(8部+本人1部、Azmin氏1部)と当日頒布40部という構成になった。

というわけで、前日までにある程度周知は出来た。あとはいよいよ会場で売るのみである。正直、前日の夜は眠れなかった。遠足前の小学生かよと自分でも可笑しかったのだが、どうにもどのくらい売れるか全く検討も付かないし、また受け入れてもらえるかどうかも分からない。一つ幸いなことがあるとすれば、思ったよりは体積が小さくて部屋に在庫しておいても罪悪感が少なくて済みそうという点くらいである。

そしてやや寝不足のまま、8/14・コミケ三日目当日が来た。Azmin氏は当日朝2時過ぎになっても全く関係ないツイートをしているこちらを見て本当に遅刻せず来るのか不安になったそうだが、そこはなんとか気合で乗り切って無事予定の時刻に新橋駅に集合した。挨拶もそこそこにゆりかもめに乗り込み、向かうは東京国際展示場である。

今回の我々は、基本的に本の判型が小さめということもあり、カメラバッグにまるごと入ることから前日搬入はせず当日朝搬入ということになった。また、それに加えてカメラ関係の本ということもあってカメラを持ち込むことにした。

こちらの本ではZ-1とMZ-Sをフィーチャーしたこともあって、Z-1[限定]にFA☆28-70/2.8という当時のトップモデルの組み合わせ、それとAzmin氏から借りっぱなしになっていたMZ-SとDA40/2.8XSを持ち込んだ。DA40にはフルサイズ(フィルム)でも使えるという意図も込められてはいたが、大部分はカメラバッグの空きスペースの問題からのセレクトである。同様にAzmin氏からも*istとK-30を持ち込んでもらった。あとは個人的にコス撮影やるかもと思って私物のカメラも持ち込んだのだが、結局そのヒマはなく使うことはなかった。すべて電池の入っている状態で展示し、ある程度自由に触ってもらえるようにしておいた。これは本の内容からしても、どうしてもやりたかった展示コンセプトである。

あと、今回Twitterでの宣伝がメインだったということもあって、一応名札を下げておいた。今回は委託ということで間借りする形での出展になっているので、ブースには二人いて、当然面識のない人から見るとこれ書いた奴はどっちだ(誰だ)ということになりそうだからである。というか自分が買いに行くときとかにも売り子さんも含めて複数いるブースだとそう感じていた。ほら全然別の人に内容褒めちぎったりしてなんかこう微妙な空気になるのとかも避けたいじゃない、と。

そんなこんなで。簡単に飾り付けを済ませているとシャッターが開き、いよいよコミケ三日目の開幕である。といっても、三日目というのはいわゆるスケベブックの祭典なわけで、そういうの「ではない」こちらのホールというのは至って平和なものだ。この時間のここだけ見れば、いわゆるコミケのあの人の波というイメージからは少し期待はずれかもしれない。もちろん人通りは絶えないのだが、あのスケベブック島の長蛇の列やコス広場のストロボがもげそうになる人の密度とは全く異なっている。

というわけで、まぁそのうち誰か買いに来てくれるだろうと思っていたら、開場からわずか15分ほどで見に来てくれた人がいた。TLで宣伝RTを見かけて探してきてくれたとのことだった。実際にフィルム時代からのペンタックスユーザーの方で、なんだか泣きそうになりながら最初の一部を手渡したのを今でも覚えている。なんというか、色々報われたような気がしたのである。正直この瞬間に、この後仮に一部も売れなくて○万円の損失が出たとしても、もうそれは些細なことなんじゃないかというのも感じた。冒頭の発言と矛盾しているようだが、どちらも偽らざる本音である。

その後も、考えていたよりもずっとハイペースで、そしてずっとコアな方がブースに来ていただき、一冊、また一冊と買っていただいた。中にはこの本のために来ていただいたと断言して下さる方や、評判を聞いて見に来たと言って下さる方などもいた。正直価格が高めなこともあって、見本紙を見て納得してから買って下さいと繰り返し案内していたにも関わらず、この表紙だけでもう買いますと断言してくれた方もいらっしゃった。半分売れた辺りでもしかしたらの気持ちが芽生えたのだが、その後も気が付くと減っていき、ラスト数部はあれよあれよという間に売れてしまった。結局見本紙として置いといたものさえワケあり扱いでお譲りする事態になってしまった(手書きで「みほん」と書いてしまっていた)。もうまったくもって狐につままれたような気分だが、午後1時30分、見本や隣の方にサンプルとしてお譲りした数部を除いた40部弱が完売してしまったのである。

40部弱の完売というのが誇れる実績なのかどうかというのは、正直に言って分からない。もっと売っているところは、もっと良い物を作っているところはいくらでもある。ただ、何か一つこうやり遂げたという気持ちになったのは確かである。

こうして初めての「作り手側」に回ったコミケは終わった。終わってみればまったくもってあの怒涛の数日間というのはなんだったのだろうかと思う。当初は盆休みがぶった切られて旅行に行けないと嘆いていたことも、今では遠い昔のようである(もっとも、PCトラブルによって貴重な休みが丸々潰れた上に新刊落としかけた件については未だに根に持っている)。

そして現在、次のコミケまで4ヶ月しかないという事実に震えつつ、うっかり巻末に次回予告を書いてしまったことについて頭を抱えているのである。願わくば、またあの場所でお会いしましょう。