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レンズについて[第4回] : MINOLTA AF 50mm F2.8 Macro(D)

前回からはだいぶ期間が空いてしまったが、レンズについてシリーズも第4回を迎えて今回は定番の50mmマクロを取り上げることとした。αレンズといえばマクロにハズレがないことで有名であるが、この50mmも完成度が高いためか外形を変えつつ、現在もソニーのレンズとして生き残っている。今回の記事で取り上げるのは、ミノルタ時代の最終型であるMINOLTA AF 50mm F2.8 Macro(D)である。

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α900 + AF 50mm F2.8 Macro(D)

そもそもミノルタに限らず50mmマクロというのは、画角は自然な標準域でありつつも、マクロなので圧倒的に寄れる大変に便利なレンズである。もしデジタル一眼レフを初めて買って、標準ズームの次にもう1本と言われれば必ず候補に名前が挙がるであろうレンズの一つだ。

特にAF時代以降のマクロレンズであれば、合うかは別として無限から等倍までAFが効くし、事実上最短撮影距離を気にしなくていいというメリットがあり、単焦点なりにそこそこ明るくてコンパクトである。

とはいえ、ちょっとカメラを囓り出すと今度はワーキングディスタンスの問題からより焦点距離の長いマクロが欲しくなる病気の素にもなる、大変厄介なレンズでもあるのだが、そんなことを言い出す人間はたいがいもう手遅れなので放っておくこととしよう。

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この光学系の初出(?)は1985年のαシリーズデビューの時なので、かれこれ30年間近く光学系が変わっていないということで、実は隠れた大ロングセラー商品でもある。ちなみにずっと変わらなかったことが語り草になっている初代タムロン90mmマクロでさえ、同じ光学系で販売された期間は17年であったので、どれだけ変わってないのかがわかりやすいかと思う。細かなスペックはいつもの通りケンコートキナーのスペック表参照のこと。

発売当時は、このサイズでF2.8で中間リング等なしに等倍まで寄れて、しかもAFということでけっこう衝撃を与えたレンズだったそうだが、先の通り、その後光学系自体は30年近く変わっていないことと、その後各社がモデルチェンジを繰り返したこともあって、現在同クラスでは最も古い光学系になっている。当然、最近の流行であるインナーフォーカスではなく、コンベンショナルな繰り出しのマクロである。

現在では当たり前となった上記のスペックも、当時全て揃えたレンズは少なかったことからAF時代のマクロレンズマイルストーンとなったレンズと言ってもいいのではないかと思う。

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このレンズはマクロレンズ特有の、すり鉢状に奥に引っ込んだ前玉を持っているためフードは設定されていない。フィルタ溝は切られているのでねじ込みフードとかなら付くと思うが、おそらく等倍では短いワーキングディスタンスのために被写体とフードが干渉するからという配慮もあるものと思われる。

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F2.8と、ズームであれば大口径と言っても良い開放F値だが、前玉はとても小さい。これがぐんぐん繰り出されていくわけだ。後玉側から見ると、最後部にはフレアカッターが装備されている。

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このレンズは、1985年発売の初代から数えて、ミノルタで三種類、ソニーで一種類発売されている。初代→New→(D)→ソニー版といった流れである。各世代とも光学系は共通で、主に操作性の面でのブラッシュアップが繰り返されている。初代→Newでは全体デザインの変更時にピントリングにゴムが巻かれ、フォーカスホールドボタンとAFリミッターが付いた。あと円形絞り化されている。Dではそれに加えて距離エンコーダーの搭載とピントリングにクラッチが付き、AF時には非回転の上に太くて操作しやすくなった。その代わり、クラッチが介在するので微妙な操作時に遊びが生まれることもあり、これを好まない人もいる。またこの時期から倍率表示がピントリングから鏡筒に印刷されるようになった。ソニー版は例によって全体的なデザインの変更である。

ちなみに、初代とNewは金属鏡筒だが、Dとソニーではプラスチック鏡筒なので先ほどのピントリングのクラッチの件と合わせてNew版がオススメされることが多いようだ。このDタイプはミノルタ末期~コニカミノルタ期までしか生産されていないこともあってどうしてもNewタイプよりは数が少なく、その分相場も高めである。ミノルタに特にこだわりがなければソニー版が新品で買えるので、そちらを新品で買うか、中古のNewを探すといいのではないかと思う。

なお、ミノルタ時代には兄弟レンズとしてスペックを抑えた代わりに安価軽量の、AF MACRO 50mm F3.5というのもあった。こちらは倍率1:2までで、開放が半段暗くなっている。今のソニーで言うとはじめてレンズのような扱いであったらしい。ただし作りには全く手抜きがなく、距離窓付きでマウントも金属である。比較的安価でマクロが味わえるこちらもオススメ。

さて、このレンズの使用感であるがマクロ域はもちろんのことオールマイティな標準代わりのレンズとして活用している。同じマクロの100mmも持っているのだが、使い分けとしてはマクロ域での撮影が多ければワーキングディスタンスの長い100mmマクロを、そうではなくスナップでたまにマクロという程度であれば小型軽量な50mmを選ぶことが多い。

同じ50mmである50mm F1.4との使い分けは単純に最短撮影距離と明るさだと割り切って、寄りの撮影が含まれそうならマクロに、暗くなるまで撮りそうならば1.4といった形で使い分けることが多い。ズームに合わせるプラスワンの選択肢としてはどちらも非常に有用である。

作例もいつものようにFlickrにアップしているが、やはり等倍近辺の高倍率マクロ勝負というよりは、寄れるスナップレンズであるとか、ブツ撮り用という位置付けで使っているのがお分かり頂けるかと思う。写りはガチガチにシャープというわけではなく、どこかウェットな柔らかさがある。おそらくデジタル時代以降のシャープネス重視の数値評価では高評価にならないかもしれないが、個人的には単焦点に期待されるだけのシャープネスは十分に持ち合わせていると思っている。特に逆光に弱いと思ったことはなく、絞り値ごとの画質の変化も1.4よりは穏やかで開放から使いやすいレンズである。

なお、先にも述べた通り標準マクロはワーキングディスタンスが短い為、等倍近辺での撮影は結構な困難が伴う。鏡筒が被写体に激突せんばかりに寄らないとピントが合わないので、被写体に影を作ってしまいやすいのだ。このため、等倍に拘るのであればもっと焦点距離の長いマクロの方が撮影自体はしやすい。

マクロでは重要になるボケ味も概ね素直で、やはり評判の高い100mmマクロと同じ血を感じるところ。とはいえ今回の作例ではほとんど中距離で撮っているのでマクロらしいボケ(たとえば花一輪でバック全部ボケ)というのは他の作例を探してもらった方が早いかもしれない。

気が付けば現役最古参クラスのこのレンズ、しかし使ってみれば老兵は未だ死なず──どころか老いてなお無双といったところである。