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無名サイトのつづき

新フィルムカメラはじめました8 [最後のフラッグシップ PENTAX Z-1P]

前回α-9xiを拾った時に、同時期の似たようなカメラの例としてPENTAX Z-1系を挙げた。どちらもそれまでの上位機種よりも更に一段格上のフラッグシップ機として生まれたカメラであり、独自の操作性と電動ズームを持ち、最終的にあまり受け入れられなかった辺りも似ている……というわけである。

あのようなことを書いたら、当然Z-1も気になってくるのは仕方のないこと(?)なので、気が付いたらZ-1の改良版であるZ-1Pを購入していた。この時代のフィルム機なので非常に安いが、ありものを購入したためα-9xiの三倍くらいはかかってしまった。普段はこの値段ならスルーするところだが、グリップストラップとゲタ付きだったのでまぁ許容範囲だろう。
なにしろこのカメラは中古が安い。ハードオフなんかを回っていても初代Z-1のジャンクであれば1000円代でゴロゴロ転がっている。正直そこにはフラッグシップとしての威厳はない。
とはいえ、カメラとしてダメなわけではないというのが面白いところで、むしろ機能面ではその後のMZシリーズを上回る点も多数存在する。
最速1/8000&同調1/250のシャッター、秒4コマの連写などは同社のフィルム機としてトップであり、結局最後までトップだったことになる。また、このZシリーズと同時に登場したFA☆レンズシリーズは、ペンタックスが高級レンズのラインナップでも他社と互角に殴り合おうとした、今のところ最後のシリーズになっている。(DA☆シリーズはAPS-Cということもあり微妙に他社と被らないスペックを採用しているのはご存知の通り)
もっとも、この時期でさえ中央一点のAFはAFフラッグシップ機としてはヒキが弱かったというのは否めないし、同時期の他メーカーも似たようなものではあるが、テカテカのプラスチック筐体が嫌われたのも中古が安い一因であろう。
ボディデザインは初代AFシリーズであるSF系の角を落としたようなゴロっとしたデザインであり、グリップも大きめに取ってある。このため一時期のペンタックスの代名詞だった小型軽量路線からは距離を置いている。なお、手に入れた個体にはゲタが付いていたが、これはシャッターボタンがないため縦位置グリップにもならず、電池が入るわけでもないのでバッテリーグリップにもならない。これにはグリップストラップを取り付けるための用途しかない。グリップが若干延長されるのでホールド性は向上するが、ただでさえデカいボディが更に大きくなるアイテムである。
もっとも、これは同時期にMFフラッグシップとして(他社に比べれば)小型軽量なLXがあったからこうなったのではという推察も出来る。いずれにせよ、堂々たる体躯は今のペンタックスにはないものである。
さて、例によってジャンクで拾ってきたので動作には若干の不安もあったが、既に電気カメラとして成熟したこの時代のAF機なので、電源入ってシャッター動けば特になんの問題もないことが多く、実際この個体もそうであった。市場価値のあるボディであれば念入りに検品して保証付きの棚に並べる手間も割に合うが、この辺りはもはやその手間ももったいないということなのだろう。ちなみにバッテリー室そばに小さなヒビがあることに買ってから気が付いたが、ここはZ-1シリーズ共通のアキレス腱らしい。
ちなみに、前回のα-9xiもそうだが、今まで安価に手に入る割にはこの辺りのボディを拾わなかった理由は、電池が入手性の悪い2CR5を使用するからであった。
当初は高価なリチウム電池自体を嫌って単三が使えるカメラしか拾わなかったのだが、α-9やTC-1のCR123AGR1のCR2などは未だにハイパワーLEDライトでの需要があるため秋葉原に行けば300円以下で転がっているし、二次電池すら存在するのでその辺りまでは許容することにしていた。
しかし、2CR5などは完全にカメラ専用の形状のことからそうした需要もなく、また現在それを使用するカメラも新品で手に入るものはないことから比較的入手性が悪い。一部の自動水栓で2CR5を使用しているものもあるとのことだが、どちらにせよCR123などに比べればマイナーな電池なのは間違いない。
実際内部的にはCR123Aを二個並べているだけなので工夫でなんとかなる余地は残されているし、海外ではこの形状の充電池も制作されているようだ。
というわけで、金がかかるのでこの辺りは見かけても購入するまいと思っていたのだが、前回のα-9xiは電池入りだったし、今回については購入の少し前に、ハードオフで未使用電池をいくつか安く拾ってきたので当面はそれを使うことにした。
さて、使ってみての感想であるが、α-9xiで感じた「これが好きな人には唯一無二になり得る機械」という感覚を、ずっと先鋭化させたようなカメラであると感じた。一番の理由は、このカメラで導入され、半ば代名詞でもあるハイパーマニュアル&ハイパープログラムのハイパー操作系である。
これはあまりにもマニアックすぎて、一記事ではその凄さが伝わらないので別個に記事を設けるつもりであるが、とにかく理解した時には衝撃を受けた。露出モードの概念を破壊する問題作と言っても良いだろう。
今のペンタックスのデジタル機に付いているハイパー操作系はたいてい「モードダイヤルを動かさずに露出モードが変えられる」程度の機能として紹介されているが、今改めてハイパー操作系の祖であるこのカメラを使い込んでみれば、本当のハイパー操作系というのはそんな程度の物ではないと思い知らされるだろう。
このカメラも当時の流行らしく、ダイヤルを埋め込んだスタイルをしている。またボタン名が他のカメラと違うのでイマイチわかりにくい節がある。IFボタンがいわゆるその後のペンタックス機でいうグリーンボタンの機能に相当し、MLキーは他社で言うところのAELである。埋め込まれたダイヤルはカーソルに合わせて真ん中のボタンをプッシュで設定変更に移れるようになっている。α-9xiと比べて偉いのは独立した露出補正呼び出しキーがあることで、このおかげでハイパープログラム中の露出補正が格段にやりやすくなっている。
そして象徴的なのがペンタプリズム上に取り付けられた大型液晶である。このカメラのコックピットとでも言える部分であり、これは初代AF機であったSFシリーズの配置を受け継ぐものだ。ハイパー操作系のキモとしても欠かせない表示部材である。
シャッター感触はフラッグシップ機らしくパワーを感じさせながらもショックは比較的少ない物であり、巻き上げの素早さも相まってテンポ良く撮ることが出来る。ただ一つ残念なことがあるとすれば、シャッターボタンがエントリー機と同じ、突き当てのある二段スイッチタイプであることだろうか。他社フラッグシップによくある深めで奥まで押し切らなくても切れるタイプの方がブレなさそうで個人的には好みである。
ファインダー内表示は右側に小さくまとまっているタイプで、やや見づらい。特にZ-1からZ-1Pで露出表示スケールがバーグラフ化されたそうだが、比較的狭いスペースにバーグラフが押し込められているので結局ファインダーから目を外して頭の液晶を覗き込むことも多かった。
このカメラを使うからには、やはりハイパー操作系を使いこなしてナンボのものでしょうというわけで、説明書で動作のイロハを叩き込んでから早速試し撮りに出かけた。前半はハイパーマニュアル中心、後半は主にハイパープログラムで撮っていたが、とにかくこれらの操作性は革新的である。ハイパーマニュアルではIFキーがプログラムライン復帰ボタンなので、マニュアルモードにしつつ一発でプログラムラインに戻すことが出来る。そして、押してる最中は常に測光が効く為、押しながら撮り続けていれば実質的にプログラムである。普通であればモードダイヤルを回すところを、このカメラはボタン一つでシームレスに切り替えが出来る。
これはあたかも、親指AF使いの言う「基本MFだけどいつでもボタン一つでAFを呼び出せる」
を露出モードで行っているかのようである。フィルムカメラでこのような操作系を実現したカメラというのを他に知らない。(ちなみにグリーンボタン搭載以降のハイパーマニュアルは、グリーンボタンを押した瞬間に測光が固定されて押し続けても露出は追随しない。K-3などで確認)
この辺りの操作系の凄さというのは別項でたっぷりと述べるつもりであるが、何本かフィルムを通していると、実際のところこれ全部覚えるよりは別にモードダイヤルでもいいよなという気持ちが芽生えたのもまた偽りようのない事実である。
このカメラの価値は、良くも悪くもハイパー操作系というその一点に集約されていると思う。しかし同時に、取り憑かれた者にとってはまた替えの効かない唯一無二の名機であり続けるのではないかとも思うのだ。

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PENTAX Z-1P + PENTAX FA 43mm F1.9 Limited (Fuji Velvia 50)