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インターネット

無名サイトのつづき

トロイの木馬とα7

最近は他のカメラを使うことに忙しかったり、そもそも修理で手元を離れたりしていて一時期よりも使用頻度が落ちてはいるが、未だにメイン機は何かと問われたらα900で変わっていない。もはやあれだけレンズを揃えると今更Aマウントを捨てて他のマウントに行くわけにも行かないという事情はあるのだが、とりあえず用は足りているので特に買い替えたりもしていない。

そんな中ではあるが、周囲のAマウント使いの知り合いは皆α7系列に買い換えたりしているので、個人的に感じていることなどを書いたりしておきたい。
※以下、シェアやユーザーの意向などについては個人の感覚ベースでの話であることを最初にお断りしておく。

Aマウントユーザーにとって、現時点でAマウントのアップグレードが望めない以上、乗り換えのパスとして最有力なのがフルサイズEマウント(以下便宜上FEマウントと呼ぶ)であることは否定出来ない事実だ。光学ファインダーに拘るのであれば他のマウントに行く他にないが、手持ちのレンズをどうにかしようとした場合は、アダプターの用意されているFEマウントへ向かうのが常識的な判断である。

さて、そもそも「Aマウントのアップグレードが望めない」というのはあくまでも個人的な見方であるが、そう大きく外してもいないだろうというのも感じている。何故なら、ソニーはAマウントでは出来なかったことをFEマウントでトライし、そしてそれはある程度の結果を残しつつあるからである。(個人的にはAマウントユーザーとしてこのような悲観的な予想は外れて欲しいのだが……)

それは一体何かというと「他社ハイエンドユーザーの取り込み」である。

そもそも、Aマウントは銀塩一眼レフの主要マウントとしてはデジタル化が最も遅れたマウントとして知られてる。もちろんデジタルスチル機などの頃から散発的に立ち上げており、そういう意味ではけしてデジタルを無視していたわけではないのだが、デジタル一眼レフカメラが盛り上がった頃──いわゆる10万円戦争とでも言うべき2003年頃のエントリー一眼レフが次々と発売された時期──に対抗する機種を持たず、結局そのラインは2005年のα-sweet digitalまで待たされたあげく、そのまま事業撤退となった。

このような経緯を辿ったが故に、ソニーが継承した時点でのシェアは推して知るべしといったところであった。限られたパイを喰い合うある程度成熟した市場では、新規ユーザーはもちろんのこと、既存の他社ユーザーをいかに乗り換えさせるかというのが重要になる。身近な例で言えば既存ユーザーよりも乗り換えユーザーの方が遙かに優遇される携帯キャリアの競争などはまさにそれである。

ただ、カメラにはレンズマウントに代表されるシステムとしての互換性問題があるので、よほどのことがない限り、他社システムからは乗り換えづらい。また、どちらかといえばボディそのものよりもレンズなどの周辺機器で儲けるビジネスモデルになっているというのも知られているところである。いわゆる「レンズ資産」というやつにはユーザーを縛る効果もあるのだ。

さて、ソニー継承後のAマウントにおいては、まずオーソドックスな三桁機を打ち出し、その後半からライブビュー中の高速AFへの道を模索し始めた。その試みは三桁機後半のクイックAFライブビューを経てEVF&トランスルーセントミラー採用の二桁機へと結実した。この方針にも賛否はあるが、ともかく常時ライブビューの実現とAF面の強化というのが二桁機での方向性だったと言える。

……が、ここまでやっても他社ユーザーを乗り換えさせるほどのインパクトがなかったばかりか、(元々他社に比べても定評のあった)光学ファインダーを捨てたことがネガティブに捉えられたのか、こと上位機においては既存ユーザーの流出すら発生する始末であった。ちなみに、知り合いの間では、α900→α99へとストレートに買い換えたユーザーは非常に少ない。多くはそのままα900を使い続けるか、それを数年続けた末諦めてα7系列を買ったか、そうでもなければ他社に乗り換えている。

結局、Aマウントでは他社ユーザーを乗り換えさせて、二強に割って入り、ひっくり返すということはかなり困難だったと言えるだろう。もちろん、コニカミノルタ末期からすればシェアはマシになっているのだろうが、かつてのαショック並のブレイクスルーでもない限りは、今後Aマウントで二強を蹴落とすという展望が描けないのも確かである。

と、こうした流れの中でソニーは並行して(APS-Cの)Eマウントを立ち上げてかなりの成功を収める。先行していたマイクロフォーサーズに対してセンサーサイズのメリットをアピールすることで存在感を示し、その副産物としてマイクロフォーサーズよりもクロップ倍率がかからないことから、結果的にマウントアダプターを多用するマニアックなユーザーのサブ機としても一定の地位を得た。つまり、本来であれば他のメーカーのユーザーだった人間を取り込めたというわけである。

Aマウントでは他社ユーザーは取り込めなかったが、たとえサブであってもEマウントではそれが出来る。……ということであれば、限られたリソースとパイの中では、Eマウントに注力するのが正しい戦略であると思われる。

この戦略を突き詰めたと思われるのが、α7系列なのである。

実質的には他にライカしか存在しないフルサイズミラーレス機であり、値段はα7ならミラーレスの上位機としても格安と言えるプライス。既にAPS-CのEマウントで多彩なアダプターが展開されており、それらを使っていたユーザーが自然に「35mm判レンズ本来の画角で使う」ことが出来る。マウントアダプター勢待望のスペックであった。

もちろん、表向きはマウントアダプターなど無関係に、あくまでもEマウントのシステムを発展させる為という大義名分はある。そういう観点から見ても魅力的な機種だし、同時にAマウントからの乗り換えを強く意識した機種でもある。

ただ、α7系列の隠された使命としては「他社メインで一眼レフを使っていて、レンズも幅広く持っているハイエンドユーザーにサブ機として潜り込み、将来的にはソニーでシステムを揃えてもらう」ことにあると思っている。

これは、周囲の他社メインで使用している中でα7を購入したユーザーの
・アダプター前提で FEマウントのレンズは別に要らないと言いつつボディを買う
 ↓
・一通りアダプターで遊ぶと小型軽量で意外にこれで十分なことに気付く
 ↓
・一本くらいAFの効くレンズを買ってもいいのではとか言い出す

……という流れをいくつか見かけているので、今のところ概ね上手くいっているように思える。

これはまさに、α7系列は他社ユーザーへ向けられたトロイの木馬なのである。そして、この戦略は既存一眼レフがあまりにも強く、ミラーレス機を今すぐそれらと同等に置くことが出来ない二強には取れない戦略でもある。また、おそらくは大部分を占めるであろう撮像素子のコストを考えると、それ以外のメーカーでもなかなか追随は難しいようだ。

もっともこの戦略は、ある意味Aマウントのユーザーが少ないから取れたようなもんでもあるので、そういう意味では内心複雑ではある。だが、少なくともソニーはオーソドックスな三桁機を作り、ミノルタ時代からのユーザーにもきちんと答えを提示した上でこうした動きを取っている。

継承した時点でさえDSC-R1のようなカメラを作っていたメーカーである。おそらく作ろうと思えば、当時でさえもっとぶっ飛んだカメラは作れた筈である。しかし、そうはせずにあまりにも実直な三桁機を世に出した。既存ユーザーの夢への一つの回答として(ある意味では非常にミノルタの色の強い)Aマウントのフルサイズ機も作り上げた。またなんだかんだ言われつつも一度は死にかけたマウントをそこから更に10年持ちこたえさせた。これが誠実な態度でなくてなんだと言うのだろうか。

だからこそ、AマウントからEマウントに進む流れを、Aマウントユーザーとしては見守ることしか出来ない。何故なら「既存ユーザーが望むものも作ったし、弱点も改良しようとした。でも他社をひっくり返すほどは売れなかった、だから仕方ないよね?」って言われたら(決してそうは言わないだろうけど)黙るしかないのだ。

かくなる上は、放たれた木馬達が戦果を挙げることで、いつか納得の上で乗り換えられるようなボディが出て来ることを祈るばかりである。

いやもちろんAマウントボディ作ってくれるんなら買いますけど……。