趣味車を買う[保有編]
前回記事の通り、バイクを買うつもりで間違って車を買った。
オープンカーとかMTに乗ってみたいとかミッドシップ体験したいとか乗ったことのないメーカーに乗ってみたいとか色々理由はあったものの、実際のところ条件に丁度良く合う車がビートだったからというわけで、別に昔からずっと憧れていたからとかそういうわけではなかった。つまり、積極的にこれに乗りたかったからという理由による車種選定ではない。
が、乗ってみるとなんというか色々と丁度いいのである。
そういうわけで、今回はビートというのがどういう車で何が丁度良かったのかとかそのあたりの話をしてみることにする。

まず最初に身も蓋もない話だが、乗っていく上で維持費がそれほどかからないということがセカンドカー保有の大前提になっている。一応今のところ職には就いているので買うだけであればおそらくポルシェでもBMWでもやろうと思えば買える(※もちろん中古を鬼ローン前提)だろうけど、買って維持して乗ってこその車であり、基本的に元の値段が高い車というのは部品も税金も高いので維持費も高い。これまで年式の新しい国産車を乗り継いできたのはそういうところにカネがかからないからという理由が大きかった。
そこんとこビートはどうなのかというと、まず手元の個体は1991年式であり既に30年以上前の軽自動車なのでさすがにそれなりのヤレはある。とはいえ、走る曲がる止まる以外のヤレについては無視しても構わないというのであれば割となんとかなってしまう。
固定的にかかる費用として税金と保険があるが、税金は重課税といっても12,900円だし、任意保険は車両保険なしで2万円を少し飛び出す程度である。この時点で普通車よりもだいぶ懐に優しい。駐車場代は面積に応じて安くなるというわけでもないのでちょっと損した気分であるが、そもそも駐車場を借りなくてならないような場所でセカンドカーとか買う方が馬鹿なのでこれは無視することとする(毎月の固定費なのでこれが一番高いのだが……)。
ここで改めて言っておくと、駐車場代がかからない場所に住んでいるのであればセカンドカーは人生を豊かにすると思うが、そうではない場合に駐車場代として高い金払ってまで保有するのはあまりお勧めはしない。覚悟がある人だけにしておこう。それでも実行しているのは馬鹿だからである。
さて、古い車では当然気になる修理費用だが幸いなことに今のところ大きな故障はない。前回も言ったが前のオーナーによってだいぶ手がかけられた車だったし、こまごましたことは気にしないことにしているので、タコメーターの動きがおかしいとか幌のジッパーがもげたとかエアコンのノブが割れたとかエアコンの照明が付かなくなったとかセルの戻りが悪くなったとかAピラーのパッキンが痩せてて雨漏りするとか書き出してみれば色々あるのだが、購入以来自走不能になるような故障は一切なく、現在まで普通に走って曲がって止まっている。心配でJAF入ったのに。
そしてこれは保有してからわかったことなのだが、新車時にある程度人気があって売れた+古くなっても根強い人気があり残存数が多い車種ということは「この車を残そうとして奮闘した先人の知識はもちろん、パーツやショップ自体も多い」ということに他ならない。そうした知識を元にDIYするもよし、専門ショップの門を叩くもよしで選択肢は幅広く残されてる。本来マイナー車好きの身ではあるのだが、こうした理由からそこそこ古い車を保有するのであれば人気車種一択であると感じた次第である。実際出回っている中古車も前オーナーの愛を受けた車両が多い。
今後もどこかしらは壊れるだろうし、既にそういう年式であるが、多少の故障なら頑張ろうと思える程度には気に入ってはいるのでもしそうなったとしてもそのときの懐具合とテンションで決まっていくことだろう。
ちなみに、燃費は思った以上に良い。NAの軽自動車ということもあり普通に走ってても15~20km/Lくらいは行く。十分にエコカーである。ただしタンクが小さくて20Lくらいしか入らないので、実質的な航続距離は300~400kmといったところであり遠乗りには不便だ。ぶん回すことが多いのでお守り程度にハイオクを入れているが、基本的にはレギュラーの車なのでそういう意味でのコストも安いと言える。
実用性の面で言うと荷物を載せるスペースはそれほどないが、一人で乗るなら助手席側にカバンが置ければそれで良いので特に問題ない。しいて言えばカップホルダーがないのが時代を感じるところだろうか。エアコンの効きはさすがに外気温が40度に届くかという2020年代には完全に力不足を感じる。元々エアコンが死んでる個体も多いので、よほどのことが無い限り真夏の昼間には乗らない方がいいと思う。旧規格の軽だがそもそも2人分の席しかないので意外に広く感じて快適である。
こういう見た目の車なので気にする人も多いであろう走りの話だが、正直絶対的な速さを求めるような車ではないと思う。軽の屋根開きで安くて速いのに乗りたければ今なら初代コペンを買うのが正解だろう。額面上は64psで同じでも、年数分の軽自動車全体の進化とターボの余裕というのはやはり否定しようがない差である。そんでお金があるならS660買った方が速いけどこのくらいの金額出すとなるとロードスターとかも見えてくるのが難しいところ。ともかくビートは速さを求める車ではない。
では速くないなら楽しくないのかというと、そういうわけでもない。むしろ遅いからこそ楽しいとすら感られる。
どういうことかというと、つまるところこの車は車輪が四つあって、いざとなれば雨風が凌げる原付なのだ。風を全身に浴びながらバイパスでアクセルを全開にしてようやく流れに乗れるあの感じを味わえる、現代においては希有な乗り物なのである。
実際、町中でも流れに乗るにはそれなりのダッシュを要求される。飛ばしシフトくらいは許容してくれるが、逆に2~3速でレッドゾーン手前まで回すことも出来る。何故ならそれなりに回しても法定速度+αくらいしか出ないからである。
これが普通車だとそういうわけにはいかない。たとえば町中でVTECの高速側カムが作動するような走り方をしていたらそれは即ち珍走そのものである。速度計もおそらくは免許が危なくなる領域に入っていることだろう。今の普通車というのは3,000rpmも回せば十分走るように出来ていて、高速の合流や追い越しですらレッドゾーンまで回すようなことはほとんどない。
実際メインの車であるスイスポであっても峠道でレッド付近まで回せばちょっとした速度になる。そういう速度というのは自分の身とか免許とか、そういったものがちょっとしたミスで壊れかねない速度域になるのでそうそう試せるものではない。ミニサーキットみたいなところで走ると楽しいけど。
そんなわけで普通車の性能は公道では下手をすれば過剰なものであり、腕もない身としてはやはり相対的に低速で、それでいて走ってる最中は楽しいというのが大事なのだがそういう車は意外に少ない。ガチガチの競技をするつもりではないが、そのエッセンスには触れたいというわがままな要望である。
この「別に速くなくてもいいが、スポーツっぽさには触れたい」というところを考えるとビートはとても良い車と言える。後輪駆動特有の鼻先の軽さは十分に感じられるし、それでいて少し速いペースで流す分にはナーバスさとか扱いづらさは感じない。概ね軽トラの音ではあるが、それでも後ろからエンジン音が聞こえてくるので気分はスーパーカーである。敢えてのNAはアクセルに対するレスポンスが良いし、高回転まで回そうという気持ちになってくる。それでいて屋根が開くのだから、低速で流していてもそれはそれで気持ちがいい。つまり「丁度いい」のである。

上の写真はヤビツ峠に行った時のものだが、峠道をギアチェンジを繰り返しながら曲がっていくのはやはりシンプルに楽しいと感じる。イベントにも一度参加したことがあるが、やはり弄ってる人も多くそういう面での発展性もあるし、前オーナーがある程度手を加えている以上フルノーマル維持という感じでもないのでまぁ追々考えていこうかな……という辺りだ。そういう意味では盆栽としての楽しみもある。
屋根開きの良さというのはハマる人とハマらない人がいるのだけど、一生分の車歴のうちのどこかで一度は体験しておくべきものだとは思う。そういう意味では二台持ちではなく屋根の開く実用車に乗り換えて一台に統一するというのもアリなのだが、残念ながらこちらの選択肢はほとんど絶滅寸前である。
おそらくコンマ1秒を争うような人にとってはクローズドボディの方が絶対にいいのだけど、先に述べたとおりこの車はそういう性格ではない。そして遊びの為の車として保有しているので、そういう意味ではニーズにピッタリなわけである。実際長距離乗って車中泊して雪道でも氷上でも走り回るし燃費も諦めたくないという意味ではスイスポがあるし、こっちはそこでカバー出来ないところを埋めている。
そういう意味ではスイスポにない要素の車を買うという戦略自体は大正解だったが、現在の悩みはこの組み合わせをいつまで維持するべきかという点にある。冷静に考えれば現状はベストだが、一方で仮に1台の車を10年維持する場合、免許返納までに乗れる車の数は限られている。一度増車で広がった世界を体験するともっと他の世界も見てみたくなるのだが、しかし今の車を手放したいわけでもないのだ。もしかしたらこれが、増車によって発生した最大の問題なのかもしれない。
……パンドラの箱を開けてしまった。