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無名サイトのつづき

電動キックボードを考える(1) 電動キックボードに乗ってみよう・準備編

以前より度々話題にしている通り、最近は原付一種のバイクを直してはたまに動かしている。先日もツーリングに出掛けてきたが、そこで感じることは原付一種の法規制の雁字搦めぶりである。

特に30km/h制限と二段階右折はことあるごとに「これさえなければ」と言われる原付一種の代表的な制限であるといえる。とはいえそんな原付一種も(だからこそ?)市場規模は縮小の一途を辿っている……というのもまたこれまでの記事に書いてきた通りである。

一方で最近は新たに「原付のようなもの」として電動キックボードが世間を賑わせている。当初原付一種の枠組みで取り扱われていた筈のそれらは、気が付いたら「特定小型原付」というよく分からない枠組みが新設されることとなり、いつの間にか市民権を得ようとしている(といっても、これらが市民権を得ているというのは一体何処の世界の話なのか? と感じるのも確かである。今後述べるが、今のところ都心部でしか見かけない)。

そしてまた、この特定小型原付という制度やそもそも電動キックボードという存在に対して懐疑的な意見や不安を訴える声もネット上には多い。個人的には既存の枠組みでさえ歪みがあちこちに見えるのに、その上更によく分からないポジションの乗り物が突然増えたように見えるのだから、それらの不安ももっともな意見だと思う。

……とはいえ、そう思いつつも実のところ電動キックボードには乗ったことがなかった。通販等では法規的に平気なのか怪しい製品も含め多数販売されているのが見つかるが、流石にこれらを購入して検証するほどカネもヒマもない。原付登録が必要ならば尚更である。

ただ幸いにして一部地域ではシェアリング型サービスが行われている。こうしたサービスを利用することで電動キックボードとは実際にどのようなものなのか、世間で言われているメリットやデメリットは果たして正しいのかを知ることは出来るだろう。このため思い立ったが吉日、一日使って乗ってみることにした。すると様々な論点や疑問が見えてきたので、ひとまず体験のまとめとしてシリーズで書いてみようと思った次第である。実際に乗ってみるとこで、良くも悪くも本当に色々な発見があったのだ。

まず初回として、乗車までをまとめていきたい。

さて、電動キックボードに乗ろうとした時、先の通り自分で購入する以外の選択肢(大半の人はこちらであろう)としてはシェアリング型サービスの利用がある。現在全国の各所で試験的にサービスが行われているようだが、関東在住であればLUUPが候補として上がるだろう。

luup.sc

電動キックボードをメインにサービスを展開しており都内(山手線近傍)であればかなりの範囲をカバーしている。本記事作成時点では山手線の下側3/4程度の範囲でかなり密にステーションが設置されている。山手線で言う目白や上野以北には現状ステーションが存在しないが、思った以上に広範囲に展開していると感じられるのではないだろうか。

LUUPの利用にはアプリ上でクレジットカードの登録と免許証の提出が必須となっている。現状のLUUPの電動キックボードは小型特殊自動車としての登録の為何らかの免許が必須であり、原付免許以外を持っていれば運転出来る。

乗車前の時点で不親切だと感じたのは、航続距離に制限がある(最大40km程度とされる)電動キックボードであり、サービスの提供範囲も制限されている(これは前述の特区外ではヘルメット着用義務の免除がない為と思われる)にも関わらず、PC版サイトからはその範囲が確認出来ず、走行可能範囲がアプリでしか確認出来ないことである。

目的地がギリギリ提供範囲外であったり、特定の道路が使用出来ないといった制限にぶち当たる可能性があるにも関わらず、事前にPCからそれらの制限を確認出来ないというのは(アプリ版と同等の表示が出来ない理由もなさそうなので)とても不親切に感じた。実際の利用も含めてアプリベースでの使用になる為仕方ない面はあるが……。

さて、LUUPを始めとした電動キックボードのシェアリング型サービスの特徴としてよくアピールされているのが「ヘルメット不要」という点である。電動キックボードは現状一部の事業者が行政と折衝した結果、現在は小型特殊の枠組みを元にアレンジされた法規の下で(特区内で)運営されている。

この結果として出力制限(速度制限)やヘルメット不要、一部道路の通行可否などが既存の原付一種とは別に定められているのだ(逆に言うと、これらのサービスではない自前の電動キックボードは現状では原付一種として扱われることになり、ヘルメットを始めとした法規は原付一種に準ずる……はずである)。

つまり、現時点において電動キックボードという枠組みの中でも「特定の運営者により認可を受け、原付一種とは異なる法規が適用されるもの」と「原付一種(出力によっては二種以上も可能性としては存在する)に準ずるもの」があるのだ。いずれこれらは新たに生まれる特定小型原付という枠組みに入ると思われるが、もうこの時点でよくわからなくなってくる。

取り急ぎ、今回はLUUPの利用を前提とするので前者の枠組みとなり、ヘルメットは不要ということになる。さて、今回利用してみてこのヘルメット不要という点がサービスにおいてもキモとなる部分であるように感じられた。

それは何故か。

まず、ヘルメット不要というのはあくまでも「ヘルメットを着用しなくても法に触れるわけではない」ということであり、万一の事を考えれば当然ヘルメットはあった方が良いということになる。こうしたことからLUUPもヘルプページでは一応着用を推奨している。

しかし、この「推奨」は正直言って欺瞞ではないかと感じる。

なぜなら、こうしたサービスは「町中のそこら中に利用可能な電動キックボードがあり、利用者は思い立った時に手ぶらでそれらを借りて返せる」ということを実現しようとしており、現状もほぼそのようになっている。また、ヘルメットを希望する顧客に対して貸し出すようなこともしていない。つまり、「推奨」にも関わらず事実上ヘルメットはないものとして扱われているのだ。

考えてみよう。もしヘルメットが必須であれば利用者は最初から『今日は電動キックボードに乗るからちゃんとヘルメットを用意しなくちゃ』と思い、自前のヘルメットをカバンに詰めて、それを着用して電動キックボードを利用する……ということになる。

さて、原付等を含めたバイクの保有者であれば必ず二輪用ヘルメットを保有しているだろう。また自転車の場合だとロードバイク等のユーザーなら自転車用ヘルメットは必須装備だろう。だが、ママチャリ等まで裾野を広げると自転車を持っている全員が必ず持っているというほどでもない。ましてそれらの車体を持たない者にはヘルメットは縁遠い存在である。

つまり、もしヘルメットの持ち込みが必須だった場合それ自体がネックとなる。電動キックボードの為だけにユーザーにヘルメットの購入を強いるのは無理筋だろう。

また、仮にヘルメットは既に持っているとしても、ヘルメットを持ち込むということ自体難易度の高い行為である。ヘルメットというのは被っていない時は単純にあまりにも邪魔なのだ。これらを手荷物に移動するのはあまり現実的ではない。

とはいえ、今回の場合は初めて乗る乗り物なので流石にヘルメット未着用は危ないかと思ったのも確かである。ただ、保有している原付用のヘルメットは(他に車でサーキットに行ったりする都合上)アライのフルフェイス型で、これを持って行くのは正直無理があると思った。そこで妥協点として今回は自転車用のヘルメットを家から持ち込むことにした。これにしたってリュック型のカメラバッグの大半を埋めてしまう大荷物なのだが、リュックに入れて背負えるだけフルフェイスのヘルメットよりはマシである。

なお、LUUPとしては一応PCSマークとSGマークの付いたヘルメットを「推奨」としているようである。ただ実際問題、推奨されていたとしておそらく(今回のようなことをしなければ)誰もヘルメットなんて持ち込まないだろうが。

先の通り町中のそこら中にある電動キックボードを勝手に借りられて勝手に返せるというのがこうしたサービスの根幹だからである。ここにヘルメットの要素が絡むと途端に面倒になってくるのだから、本音を言えばヘルメットなんて無き者として扱いたいくらいだろう。しかし真っ先に安全性について突っ込まれる乗り物でもあり、触れないわけにはいけないというジレンマも感じる。

これは次回以降詳述するつもりだが、実際のところ電動キックボードはスピードが出ないからヘルメットを着用しなくても安全……とは一切思えなかった。車道を走る以上、車に突っ込まれる可能性もあるわけで、それはこちらがスピードが出なければ防げるというものではないからである。

ただ、いったん安全の話を横に置いておくと、手ぶらの状態で好きな時に借りて好きなときに返す、これが成立しないのであればこうしたシェアリング型サービスは即座に輝きを失ってしまう……というのもまた確かだ。こうした電動キックボードが行政への働きかけによる実証実験や、特定小型原付という枠組みを生み出してでもヘルメット着用義務を外した(ように見える)のは、こうしたシェアリング型サービスという前提があってのことではないかと思える。

というわけで、安全面については多いに欺瞞を感じるところだが、法的にはこれで問題なく、また心配であれば(おそらくそんなことをする人はほぼ存在しないだろうが)ヘルメットを持ち込むことも出来る。これらはいわゆる本音と建前であり、それはそういうものなので仕方ないと思うことにしよう。

まだ乗ってもないのにこの文字数。次回乗車編に続く……はず。