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無名サイトのつづき

電動キックボードを考える(4) 電動キックボードに乗ってみよう・走行編2とまとめ

これまで三回に渡って連載してきた電動キックボード乗車記であるが、一応今回で完結となる。過去記事については下記の通りである。

seek.hatenadiary.jp

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さて、笹塚のステーションに電動キックボードを返し終えてから、しばらくの間どうしようか考え込んでしまった。本来ならばここからもう一度出発し都市間移動という用途を実証する……つもりだった。

ここで足が止まった理由はいくつかある。

一つは、自転車のように漕がなくてもいいとはいえ、立ちっぱなしでの移動は意外に疲労感があること。そしてもう一つは、思ったよりもお金がかかることである。

今回のルートのうち、渋谷→笹塚は電車こそ直接的なものがないが、実際のところバスは運行しておりそちらを使えば210円・40分弱で移動可能であった。一方で、電動キックボードで移動した際にかかったコストは(初回特別割引500円適用前で)785円・利用時間50分弱というものだった。実際は500円割引きされたので285円で済んだのだが、ここから練馬を目指して他のステーションに返す場合……少なくともこの倍はかかる事が予想された。

結局、せっかくここまで来たしいろいろな準備もしたのだからと思い以降の予定も進めたのだが、当初考えていた途中で中野に立ち寄る行程は省かれることとなった。

また、本来であれば笹塚から練馬は環七を北上するのが最も自然なのだが、先の記事で触れたように交通量の多い一部道路は通行禁止(手押し移動指定)エリアとなっており、環七は通ることが出来ない。このため、一本ズレた細い道を通ったりしている(もちろん車通りの少ない方が乗る側としても気が楽である)。

さて、こうしてまた小一時間乗車してエリアの端である練馬に到着してエリア端でのアプリの挙動を確かめたあと、折り返して最寄りのステーションである高田馬場駅前を目指し始めたのだが、やはり15km/h制限はさまざまなシーンで気になった。

例えば、都内の自転車レーンのある道路などを走った場合の状況と速度は次のようになる。一番左側の青色自転車レーンに電動アシスト自転車ロードバイク(20~30km/h)、そのすぐ横の車道左端に電動キックボード(15km/h)、そして車道に自動車(40~60km/h)である。この左右からのサンドイッチは生きた心地がしない。

……実はLUUPにおいては特例としてこの自転車レーン上を走行してもいいらしいのだが、当初はこちらが原付相当(小型特殊)のナンバー付き自走車両であることから車道側を走行するものと思い込んでおり、自転車レーンを空けて走行していたために発生した悲劇であった。なお現状LUUPではない電動キックボードにおいては原付登録の為、この自転車レーンを走ることは出来ない(ああややこしい……)。

また、LUUPの電動キックボードは現状二段階右折禁止である。このため登録時に案内されるマニュアルでは「小回り右折をしろ」という指示があった。ただ、ネット上では「本当にこの性能で小回り右折など可能なのか」と訝しがる声も多く、同様の懸念は乗車前から持っていた。

なので、今回の乗車時は当初のマニュアルの指示通り可能な限り小回り右折を試してみたが、出来るか出来ないかで言うと出来るし出来た。だが、正直言うとなるべくやりたくない──というか、右折以前に無理がある──と感じた。

何が無理かというと、小回り右折以前に右折レーンのある一番右の車線までたどり着くことがそもそも困難なのである。今回はたまたま休日ということもあって交通の流れはそれほど激しくもなく、後方の安全に気を遣いながらであれば車線を変更することが出来たが、交通量の多い時や夜間にやれる自信は正直ない。

それぞれの車線が40~60kmで流れている中で最高時速15km/hの乗り物で車線を移動しなくてはならないのである。そして小回り右折云々というのはこの無理ゲーをこなした後に初めて出てくる話である。前提からしてもう無理なのだ。

そもそも車側は(電動キックボードよりも遙かに動力性能がマシな)原付一種やロードバイクですら人によっては交通の流れを乱していると感じて苛ついている(実際にネット上にはそれらに対するヘイトを隠さない者も多い)。そこへそれらよりも遙かに性能の低い電動キックボードが現れたのだから……これ以上考えたくはない。

で、LUUPとしては現実的に(?)マニュアルを改訂し、現在FAQでは右折レーンの使用ではなく横断歩道の使用を勧めている。とはいえこれも明確にエンジンを切ることの出来ないこの電動キックボードは果たして手押しであれば横断歩道を走って良いんだろうかという疑問も出てくる(良いらしいが)。この辺りも正直自転車的なものとして扱うのか原付として扱うのかも微妙な現状では何が正しいのか直感的には分かりづらく、利用者としてもおっかないというのが正直なところである。

まぁ、百歩譲って横断歩道を利用することで右折レーンを使わなくて済むなら車線変更もせずに済むのだし、もうそれで良いではないかという声もあるかもしれない。

しかし実のところこれは何の解決にもなっていない。

なぜなら、都内の道路を走る限り、左車線の駐車車両を避けたりするシーンは多々あるし、例えば三車線で左から「左折・直進・右折」となっているレーンで直進したい場合は、否応なしに中央車線を走らざるを得ないのである。車道に居る限り、車線変更は好むと好まざるとに関わらず要求されることになるのだ──先の通り、15km/hで。

そう、右折レーンに対する問題というのは実のところ分かりやすい。実際に原付一種であれば二段階右折が、今回のような電動キックボードであれば手押しでの横断歩道の利用を推奨することが出来るからである。しかし「(速度差がありすぎて車線変更もままならず)直進が出来ない」というところまで行くと、そもそもこれは移動手段としてどうなんだという話になるのである。左端車線が直進不可の左折レーン続きだったらそこから出れなくなり、永遠に左折をし続ける事になるのだろうか? そのうちぐるぐる回ってバターにでもなるのだろうか?

とはいえ、幸いにして今回数時間走った中では車線を変更する際にヒヤリとするようなシーンはなかった。電動キックボードの物珍しさもあってかどのドライバーも十分な安全マージンを取り配慮してくれたと感じている。しかしこれらの問題から、やはり無理があるというのが結論である。

また、15km/hという速度は移動手段としての魅力も貶めている。というのも、15km/hというのは一時間ひたすら走り続けても最大で15kmしか移動出来ないということになる。実際、笹塚→練馬→高田馬場と移動した際には、トータル17kmの移動に(途中多少カメラ屋を見るなどしたものの)1時間45分ほどかかっている。

この間ほぼ乗りっぱなしでこれである。道中で電動アシスト自転車に抜かされる度に「実はあっちのが速くて安いのでは?」という疑念が消えることはなかった。

そして速度が出なくて時間が掛かるということは(時間貸しの為)当然コストもかかる。上記1時間45分のライドによってかかった費用は1,640円と、都バスの運賃(210円)やシェアサイクル(渋谷区シェアサイクルの場合、1650円で24時間借りられるそうだ)と比較しても安いとは言い難い。もちろん電動キックボードには移動の自由度があるが、この価格に見合うかというとまったくそうは思わない。となると都市間移動の手段としても微妙なところだ。

なお、電動キックボードにも乗り物としての楽しさはきちんと存在する。幹線道路を離れ、裏路地をゆっくりと流していると気持ちが良いのは確かである。しかしこの気持ち良さは例えば原付一種や自転車においても同様に感じたことのあるものであり、電動キックボードでなくては味わえなかったというものではない。

もし電動キックボードに活用の道があるとすれば、例えば比較的閉じられた、交通量は少ないものの坂の多い観光地での貸し出しを行うとか、或いは制限速度を更に下げて歩道を漕がずに走れる乗り物として打ち出すといった方向性はアリなのではないかとは感じた(実際、新規格である特定小型原付においては6km/h制限で歩道走行可能とする枠組みが想定されている)。少なくとも交通量と巡航速度の高い車道を走るには向いていない。それだけは断言出来る。

結局、走っていて思ったのは電動キックボードの車道との食い合わせの悪さと、そう感じる度に目に付く自転車とかいう既得権益の塊の無法さである。この15km/hの乗り物からふと歩道に目を向けると、電動アシスト自転車がノーヘルでこちらをブチ抜いていくのだから悪いジョークにしか思えない。あっちは何キロ出てんだよ。あっちがよくてこっちが15km/hってなんなんだよと、そう感じてしまうのである。

しまいにはむしろ電動キックボードは制限速度をもう少し下げて歩道走行可能な乗り物とし、電動アシスト自転車ロードバイクの制限をもっと締め付けた方がいいのでは……というような考えさえ浮かぶようになった。

……当初予想していた感想とはまったく違う結論になったが、ともかくそれが電動キックボード体験において最終的に感じたことである。

で、それなのに無理のある活用方法ばかりが欺瞞だらけの中でゴリ押しされているのが現状なわけで、こうした状況には乗車後も、いや乗車後だからこそ改めて強く違和感を覚えた。

とはいえ、一日乗ってて思ったのは別に欺瞞だらけなのは電動キックボードだけでもないな……という結論なのだから、ある意味では最高に救いのないオチだったかもしれない。