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電動キックボードを考える(3) 電動キックボードに乗ってみよう・走行編1

連載となっている電動キックボード試乗記だが、第三回の今回にしてようやく実際に走行し始めることになる。ここまでずいぶん長かったが、実際のところ走り出してからも言いたいことは山のように出てくる。というわけで今回は走行編その1である。

seek.hatenadiary.jp

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さて、前回記事の通り、渋谷駅前のステーションからまずは笹塚のカメラ屋を目指して走行してみることにした。走行開始の手順は明快で、スマートフォンからアプリを通して電動キックボードのハンドル部分にあるQRコードを読み取ると、返却場所のステーションを指定するよう指示される(これは出発以降も変更出来るので、適当なところを選んでも構わない)。アプリ上でこれらを指定すれば、電動キックボードのロックが解除され電源が入り乗れるようになるという寸法である。

なお、この電動キックボードには物理鍵が存在しないので、以降は買い物等の一時駐車であっても基本的にはスマートフォンからロックを掛けることになる(また、ロック中も走行時間としてカウントされる)。

電源が入るようになったらもう動かせるので、ハンドル左手側にあるスマートフォンホルダーにスマートフォンをクランプする。基本的にはスマートフォンでナビ等を使いながら走るというのがメインの使い方になるだろう。あとは蹴り出してからスロットルを開けるとモーターが回り、漕がずとも走行することが出来る。

こうして乗車し、最終的に返却予定のステーションに到着したら到着時の手続きを済ませて返却完了ということになる。これがLUUP利用時の一連のサイクルである。

ただ、この一連の流れの中で微妙に洗練されていない部分も目に付く。例えば都内では特に交通の激しい幹線道路などで走行を禁止するエリアが指定されている(環七等)。また、今回のヘルメット免除が特定区域での社会実験の為か、走行可能/不可エリアも設定されている。これらのエリアは基本的にはLUUPのアプリを立ち上げていれば現在地と同時にマップにオーバーレイ表示され、制限区域内では警告が表示される。

ただ、これとは別に、目的地となるステーションへLUUPのアプリ内で道案内する機能がないため、ステーションへの案内を希望する場合はGoogleマップアプリへ転送されることになる。こうすると、アクティブウィンドウはLUUPアプリからGoogleマップアプリへ遷移する。すると、Googleマップアプリ側ではLUUP側の走行可能エリア等のデータを持っていないため、これらのエリアに入っても当然ながら案内中に警告は表示されないのである。

現に今回も、Googleの案内に従ったらずいぶん広い道路に出て危険を感じたので脇道に逃げてアプリを切り替えたところ、実はその道路はLUUP側で走行を禁止している道路だったというシーンがあった。

つまり、これを防ぐためには適宜ユーザーがLUUPアプリとナビアプリを切り替える必要がある。とはいえ、当たり前だが走行中の携帯の操作は違反である。これはもう少しなんとかならんもんだろうかと思った。

なお、これらの禁止/サービス外エリアを走行したからといって、電動キックボードが動作しなくなるというわけではない。あくまでもアプリ側に警告が表示されるだけである。交差点を一つ越したら途端に停止した……なんて挙動になったら危ないので当然だろう。

さて、ここからは走行時の感想である。

ところで、電動キックボードが新たに移動手段として車道にデビューすることについて心配する声は非常に多い。実際、各種ネットニュース等で電動キックボードが話題になる度にコメント欄やSNSには否定的な見解が集まっている。それはひとえに、電動キックボードという存在が「交通に参加するに足らなそう」であることと、それにも関わらずゴリ押しとも言える内容で受け入れ(?)が進んでいることが原因としてあるだろう。

中でもよく指摘されているのが安定性に関する不安である。電動キックボードはタイヤが小径な上に常に立って乗るという仕組み上、非常に不安定に見えやすい。いわゆる非電動のキックボードについては車体もオモチャの域を出ないものが多いことから、これらと同一視され、不安定で危険な乗り物ではないかと見なす意見が多い。

これに関しては実際に乗ってみたところ、乗り始めこそ、その速度や安定性に若干の不安を感じたのは確かだが、数百メートルも走れば意外に安定していると感じた。前回記事にもある通り、車体の剛性はしっかりしておりブレーキやサスペンションも完備している。少なくとも舗装路を規定の速度で走る限りにおいては転倒の危険は一度も感じなかった。自転車やバイクで言う足付き性の概念もないため不安感もない。もちろん小径ゆえ段差や凹凸に対してやや敏感ではあるが、総じて走行中に危険な挙動は感じなかった。

また、電動(≒動力が人力とは別に存在する)が故に、体勢が崩れた状態で不意にスロットルを開けてしまいコケるのではないかという点も指摘されているが、LUUPの個体に関して言えば静止状態からスロットルを開けてもモーターは起動せず、最初に足で地面を蹴って回転を与えてからでないと動かない仕組みになっており、ある程度配慮されている。スロットルを開けた場合の速度上昇も穏やかなので、一般的には問題ないレベルだろう。

というわけで、ステーションからこぎ出してすぐのファーストインプレッションは思ってたよりも好感触であった。使い方はこれでわかったので、取り急ぎGoogleマップのナビに任せて笹塚の中古カメラ店へと向かうことにする。

さて、加速性能は穏やかだと書いたが、そうは言ってもこの電動キックボードの最高速度は15km/hに制限されているのであっと言うに最高速度に到達しそこで頭打ちとなる。

この最高速度は車体側で制御されており、基本的に平地でこれ以上はビタ1km/hたりとも出ない。ただ、上り坂でもこの速度をキープ出来た為出力自体はある程度余裕を見ているものと思われる。また、下り坂では瞬間的に20km/hを超えることがあり、この時に特に回生ブレーキ等は作動していないと感じられる挙動だった。無論平地に戻れば再度15km/hがリミットとなる。

さて、ではこの15km/hという速度は適当だろうか。

歩行者以外の低速の乗り物の速度について考えてみると、シニアカー(電動車椅子)は6km/hが上限で、これは歩行者扱いとなり歩道走行可能となっている。電動自転車は一つの目安として24km/h以上でアシスト力が切れるようになっていて、免許証不要である。この他ロードバイクは30km/h程度で巡航可能とされており、原付一種は免許が必要かつ法定速度は30km/hで、ただ実力値としては45~60km/h程度出る……といった感じだろうか。LUUPの電動キックボードは現状ではヘルメット免除ということを考えると、最高速度が制限されるのは(それが15km/hが最適かは別として)納得のいくところだろう。

で、これらの色々な乗り物が混在する中での15km/hがどのくらいの速度かというと「アシストなしのママチャリの巡航速度くらい」である。つまり、アシストの付いた電動自転車には追いつけないと思ってよい。

事実上道路の左端しか走れない乗り物であると言って良いだろう。それも、ロードバイクや原付のように「いざとなったら加速する」も不可能な乗り物である。

例えば自分が自転車・バイク・自動車等を運転していたとして、左車線に路上駐車の車が止まっている時など、なるべく後ろの車や対向車に迷惑が掛からないようそこで一段スピードを上げて早急に追い抜くというシーンは日常茶飯事かと思うが、15km/hに制限された電動キックボードはそれすらも叶わないのである。

というわけで、場面によっては車道を走っていて周囲の乗り物に対してひたすら申し訳ないという気分になることもあったが、一方で裏路地的な道を走り抜けるには小回りが効いて良い。ただ、例えば商店街的な「車はほとんど入っていかないが自転車は走っている」みたいな場所でそのまま乗車して通行していいものなのか一瞬悩むシーンもあった。

自転車でも車でもないものに乗っていて、他に電動キックボードに乗っている人も居ないという場合、常にここは走行を許されるのか確認しながらの走行を強いられるわけで、これは自転車に乗っていれば(無意識に周囲の自転車に倣うので)ほぼ意識しない要素だなとふと思った。

そんなわけで一件目の目標であるカメラ屋に到着した。自転車等でもそうするように店の前に寄せて止めてアプリから施錠する。サッと店内を見渡したところお買い得なレンズがあったので購入することにしたが、全体的には急ぎ足で店を後にした。もちろんこの間も時間料金がカウントされているためである。今回は自転車やバイクで来た時にそうするように店の前に駐車し、すぐ目の届く範囲に居たので駐禁を切られるようなこともなかったが、自転車やバイク同様、場所や場合によっては放置と見なされて駐禁を取られることもあるだろう。

さて、そのときにこの車両が停めるべき場所、あるいは停められる場所というのは一体何処になるのだろうか。LUUPのFAQでは「駐輪場や買い物目的でのコンビニエンスストアでの駐輪スペースなど一時停車可能なエリア」以外への駐車は違反になるとされているが、現状電動キックボード専用の駐車スペースは存在しない為、駐輪場に駐輪するとしたらこれがバイク相当なのか自転車相当なのかもイマイチ分からないのである。

これらは結局のところ鳥でも獣でもない、いわば蝙蝠的な乗り物だから生じる問題である。結局これがなんなのか、みんなよく分からないのだ。