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無名サイトのつづき

価値のバスタブ曲線

一般的には、世の中新しいものの方が価値があるということになっている。

例えば生鮮食品は古くなれば風味が悪くなったり、食べられなくなってしまうので新しいものほど価値があるというのは当然のことだろう。また、そうではない耐久消費財であったとしても経年劣化は発生するし、性能に関しても基本的には技術の進歩によって向上していくものなので、古いものは相対的に価値を減じていくことになる。

価値判断の基準としてはいろいろあると思うが、とりあえずここでは価格を想定している。これもたいていの場合、新製品は高価で、型落ち品はそれに比べて安価である。また基本的には発売日から終売までの間、概ね売価は下がっていく。中古品に関しても概ね同様である。もちろん下がり方の傾きは一定ではないが、これがほとんどの製品が辿る道である。

ということは、何かモノを買ったとしてそれが最も価値を持つのは買った瞬間であって、あとはそこから劣化していき段々下がっていくということになる。少なくとも売却価格については概ねそのようになっているし、減価償却制度なんかもそうした価値の劣化を前提としている。

つまり、仮に価値のグラフを書くとすれば年数が経過すると価値は共に右肩下がりで下がっていきゼロに近づいていくということになる。

なので、たいていの人はゼロになる前に適当なところで(買値よりは安い価格で)手放して買い直すか、あるいは売値としてはゼロでも用は足りるとしてそのまま使い続けるかを選択しているわけだ。

ところで、減価償却においては「時間が経っても劣化しない骨董品」は対象外とされている。骨董品はもはや古くなることによる価値の劣化とは別の次元にあり、それどころか古ければ古いほど価値が上がる可能性すらあるということで、そういう意味では対象外になるのも頷ける。

さて、事業者であれば減価償却対象になるような耐久消費財であっても、ある程度年数を経過すると今度は骨董品的な価値を持つことがある。また減価償却対象ではないにしても、ある製品が年月を経過した結果かえって手に入らなくなってしまい価格が上がることはよくある。

つまり、新品をスタートとして下がり続けた価値は、しばらくの間底を這い続けるのだが、どこかで反転して再度上を向くわけである。

例えば自動車であれば、ある年数までは単なる中古車扱いだが、残存数が少なくなってくるとネオクラシックと呼ばれ始め、最終的にはクラシックカー的価値を持つ車となる。2020年現在においては80~90年代の人気のある車が高騰しつつあり、逆に言えば70年代以前の車は車種としての人気云々を抜きにしてもすでに現存しているだけで立派なクラシックカー扱いとなっている。

また、新品時に安価かつ非常にたくさん製造されたものが、新品時に少数かつ高価だったものより残りづらく、かえって高くなったりすることもある。例えばある種の雑誌などは発行部数から言えば単行本よりも遙かに多いはずなのだが、残すようなものではないと思われていた結果現存数が非常に少なかったりする。一方で少数かつ高価なものは案外「これは高価なものだから残さなければいけない」という気持ちが働くのか、後世に残る割合は多めである。

例えばカメラで言うとライカなんかは後者の代表であろう。非常に高価で価値のあるものだから、仮に壊れれば(多少の負担を受け入れてでも)直すし、仮に手放す際もキチンと値段が付き、次のオーナーに受け継がれていく。一方でそうでない無名メーカーのそれは、壊れても直すほどの価値を感じなかったり、あるいは完動品であっても次のオーナーも見つからず、ゴミとして処分されたりする。

とはいえ、不運にもゴミとして処分されるライカもあれば、偶然眠り続ける無名メーカーのそれもきっとある。全体としてはどちらも年数を経るごとに現存数は段々ゼロに近づいていき、珍しいものになっていく。そうなれば「レアモノ」としての価値はますます増加することになる。

ところで、製品の故障率を示すグラフとしてバスタブ曲線というものがある。これは初期不良といった使用初期の故障率が高く、ある程度それが収まると低い故障率で安定し、やがてそれ自体の損耗によって再び故障率は増加に転じるというものである。いったん下がってそこで安定し、しばらくしてまた上がるというところからバスタブのような形状をしているということで、バスタブ曲線と言われている。

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出典:JEITA webサイトhttps://home.jeita.or.jp/cgi-bin/page/detail.cgi?n=117&ca=1

で、先のような話を考えると、実はモノの価値というのもバスタブ曲線なのではないかと思うのである。上記の図で言えば「初期故障期間」にあたるのはその製品が市場に並んでいたり、中古市場でそれなりの値段が付く間。「偶発故障期間」にあたるのは中古でもほとんど値段が付かない状態、そして「摩耗故障期間」がレアモノとしての価値を持ち始めた状態である。

もちろん、新品価格を超えるほど値上がりするかといったらそうとも限らないのだが、一定の期間を経過し、現存数が減った結果としてレアでありさえすればどのようなものであっても一定の価値が生じるのはわりとあり得ることのように思える。

とはいえ、この図の底の部分は想像以上に長い。先に挙げた例だと、車で言えば30~40年維持してようやくである。ここを最初から狙っていくのは相当の愛もしくは忍耐が必要になるであろうことも間違いないだろう。

一方で、今は世の中に溢れていてゴミ同然に扱われているものでも、それらの現存数が少なくなってくると新たな価値が生まれるかもしれないというのは一種の福音かもしれない。もっとも、それがいつ始まり、どのくらいまで上がるのかというのは先の通り神のみぞ知ることなので、やはりこれも狙っていけるようなものではない。

とはいえ、今価値がないと思われているものこそ、実はそれらを底値で楽しめるチャンスだ……と考えるのは、一種のポジティブシンキングとして悪くないのではないかと思っている。