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無名サイトのつづき

固体型色素増感太陽電池搭載 SMART R MOUSEを使ってみる

いつものようにネットをぶらついていると、このようなものを見つけた。

jp.ricoh.com

なんでも、リコーの開発した低照度(室内光でOK)で発電する太陽電池の製品化事例として、試験販売的にマウスを作ったとのこと。

で、こういう「新しいデバイスが出来たので応用ガジェット作ってみました」みたいなのはたまにあるのだが、日本企業がこうした新デバイスを採用したガジェットを作るとコストダウンの進んでないデバイスの値段が丸々載ってくるせいかだいたい高価になってしまい、一般人には手が届かないうちになんとなく入手不可能になってしまうというパターンが多い。そうした先進のガジェットの中にはそもそも一般人の購入は想定しておらず、業務用の試験導入前提みたいな値付けをしていたり、ひどい時には要問い合わせとなっており価格を知る術すらないというものすらある。

もちろんそうした製品は技術のショーケース的存在として「実用化出来たことを証明する」ということが第一義にあり、それを広く販売することをあまり想定していない節があったり、搭載するデバイス自体パイロット生産的で量産効果が出るはずもなかったりする。そういう意味で高価になるのは仕方ないのだが、このマウスに関してもそういう売る気のないガジェットかと思えば、実はそうではなかった。

その価格は直販サイトにもあるとおり税込みで1,628円と、正直仕様から想像していた価格の数分の一であった。

マウスとしての仕様は折り畳み式の無線モバイルマウスで(先の通り太陽電池なので)電池交換不要となっており、普通にノーブランドの折り畳み式のマウスが1,000~2,000円程度することを考えれば、これらの目新しい機能を搭載した上で1,628円というのは破格と言ってよかった。送料まで含めても2,000円を少し超える程度である。

会社の自席にはトラックボールを据え付けて久しいのだが、折しもテレワーク推奨の世の中である。使用頻度自体は低いがいざというときのためにマウスは必要という状況にあり、モバイル用にとずいぶん前に購入したロジクールのMX anywareはゴムは溶けホイールは錆びクリックは死んでもはや満身創痍であり、そういう意味でこの製品はピッタリであった。

というわけで12月の半ばに注文したのだが、ちょうど在庫が欠品したタイミングだったらしく手元に届いたのは1月の半ばとなってしまった。そこから数日仕事用PCで使用してみたので感想をここに書いてみたい。

初めに言っておくと、満足度はそれなりに高いが一方で弱点もハッキリしており、ある程度使う人を選ぶ製品であった。

さて、この製品はリコーの開発した固体型色素増感太陽電池を使用しており、販売もリコーの直販サイト上で行われているが、実際にデバイスを手がけているのはビフレステックという会社であり、この会社は太陽誘電の系列でもある。沿革を見る限りでは、かつてCD-Rを扱った人なら懐かしく感じるであろうあのスタート・ラボの開発部門が分離して設立されたそうである。

で、このマウスの特徴としては太陽電池はもちろんなのだが、太陽電池で発電した電力を貯めておくデバイスとしてリチウムイオンキャパシタを使っているという特徴がある。このリチウムイオンキャパシタを製造しているのが太陽誘電なのである。つまり、リチウムイオンキャパシタ太陽電池、両方の応用商品として生まれたのがこのマウスということになるのだ。

さて、実際のマウスとしての使い心地であるが、これはまぁ普通に使っている限りは一般的な折り畳み式のマウスとそれほど変わらない。おそらくこの価格なのでマウスとしての基本形はどこかのOEMメーカーにすでに存在しており、それの電源周りが(太陽電池+リチウムイオンキャパシタ仕様に)カスタマイズされた製品なのではないかと思われる。

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表面はヘアライン風の仕上げとなっており質感は頑張っている。手首側の凹みには太陽電池が収められている。

というわけで、無線の感度や解像度(1200dpi)などに特別の不満はない。スクロールホイールが押し込み可能なタッチパッドになっているのはあまり好みではないが、突出部をなくしコンパクトさを優先した結果であろう。無線ドングルも現代的な小型サイズだし、使用しない時は本体に磁石で貼り付けておけるようになっているのもこなれた作りである。

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購入当初は平置きした時にわずかに左右にガタつきがあり、ちょっと安っぽく、また扱いづらさを感じたものだが、これも後述の分解の際にソールを剥がして貼り直したところ改善してしまった。

また、このマウスは先の通り電源部分に乾電池やリチウムイオン電池を使用しておらず、一般的な電解コンデンサ程度のサイズのリチウムイオンキャパシタを使用しているため、非常に軽量に出来ている。ワイヤレスマウスの電源として一般的な単三電池であれば約20g/本程度の質量であることを考えれば、本機の公称60gという軽さは非常にありがたい。下記写真のうち、太陽電池パネルの下にある「TAIYO YUDEN」と表記のある部分が太陽誘電製のリチウムイオンキャパシタである。

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ソールを剥がすと後ろ半分を殻割り出来る

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配線が細いので分解はあまりやらない方がいいだろう

ちなみに基板のシルクにはLithosion Mouseの表記があるが、Lithosionというのは太陽誘電リチウムイオンキャパシタのブランド名である。

あと、このマウスの仕様上スリープモードからの復帰はマウスボタン一度押しであり、他社(例えばロジクール)のマウスのようにカーソル移動だけで復帰は出来ない。これに慣れずにマウスを振っては仕様を思い出してボタンを押すというのがよくあった。電力消費に厳しいからかスリープモードに頻繁に入るため、人によっては非常に気になる点かもしれない。

ただ、そうした細かな難点はあれど、使用頻度自体はさほど多くないがいざというときの為にマウスはあった方が良いというニーズに対しては非常にピッタリとハマる製品なのではないかと感じた。テスト販売的な先進ガジェットにしてはコストパフォーマンスもよく、驚いたことに十分実用的な製品であった。

……で、ここからはちょっと注意すべき点も書いておく。この辺りが納得出来るのであればおそらく買って損はしないだろう。

まず、本製品の電池持ちについては販売ページでは「1日1時間程度のパソコン操作でマウスを利用する際は充電不要で利用できます。(1日12時間600lxの照明が照射されていることが条件)」とある。

この表記を読むと、まるで充電せずにずっと使い続けられるかのように感じるのだが、注釈では「パソコンを使用中に、マウス操作を5%程度行う場合」とある。この5%というのは実は他社測定条件と比べても結構甘い見積もりである。例えばマウスをはじめとした周辺機器メーカーであるエレコムの場合、自社製品の電池寿命測定時には一日8時間利用、マウス操作の割合は20~25%として算出しているとある。

qa.elecom.co.jp

こうした例からすると1日1時間(のうちマウス稼働時間5%)、かつ12時間照明が当たり続けている環境というのは逆にレアなのではないかと思われる。もちろんリチウムイオン電池や乾電池を使用する機種と比較した場合に単純な容量では見劣りしてしまうが故多少割り引いて考える必要はあるのだが。

……で、実際どのくらい使えたかだが、こちらの環境下ではフル充電から4~5時間といったところであった。たまの作業であればこのくらい持てば許容範囲ではないかと判断したが、一方で丸一日すら使えないのかという感想を抱く人もいるだろう。こればっかりは使い方しだいである。

そしてここから注意点その2なのだが、電池が切れて光学センサーが点灯しなくなったマウスに午後いっぱい室内光を当てても再度電源が入ることはなかった。つまり、一度電源が切れたらUSBで充電しないと再起動は出来ないものだと思った方がよい。

そしてそういった特徴もあってか、本製品にはマグネットタイプのUSB-Cショートケーブルが付属しており、リチウムイオンキャパシタの特性もあってか90秒の充電でフル充電が可能となっている。

……つまり、本機の実用上の特徴というのは、実は「ものすごく充電が速くて、太陽電池で充電を多少補助出来るマウスである」ということなのである。決して太陽電池だけで半永久的に使い続けられるマウスではない」のだ。実のところ、太陽電池はもちろんないよりはあった方がいいが、それだけで潤沢な電力を供給出来ているわけでもないのである(少なくともゼロからの起動には足りない)。

ただし、何度も言うようだが太陽電池はないよりはあった方が確実にマシであり、充電の補助として役に立っているものと思われる。なのでモバイル用途以外にも、例えば常時稼働だが保守時にしか入力機器を使用しないPCなどの側にお守り代わりに置いておくには最適な製品なのではないかと思える。

あと、マグネットタイプのUSB-Cケーブルは実のところ単体で入手しようとしても数百円~千円程度しており、このマウスが1,628円であることを考えれば破格である。正直マウスが使い物にならないと判断したとしても、このケーブルだけで数百円分は元を取れるだろう。というかこのケーブルで90秒繋げば、そこからまた数時間マウスは使えるのだし。

というわけで、用途を考えれば非常に満足しているのだが、その満足の中にはやはりいくらか「先進のデバイスを使用したガジェットを使いこなしている」という自己満足の部分が含まれるのも確かである。そういう意味では、こうした手の届く先進と言える、コストパフォーマンスの高いガジェットが増えることを今後も期待している。