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無名サイトのつづき

どこかに行こう ランダム旅行のススメ

私事にはなるが、毎年冬は旅行の季節である。それも年明け後である。  

何故かというと普段から貯めているJALのマイルが期限切れになり始めるのが年明けからだからというだけのことなのだが、閑散期で特典航空券に変えるにしても必要マイルが少なくて済むという利点もある。そういうこともあって冬は旅行の季節なのである。

参考までに2016年は女満別空港に行き北見厳寒の焼肉祭りとかいう零下の屋外で肉を焼いて食べるクレイジーなイベントに参加したり、海豹の聖地オホーツクとっかりセンターに行って海豹のやる気のなさを愛でたりやることが無いのでそのまま宗谷岬まで行ったりした。2015年は函館に行っており、その際の模様は一部このサイトでも記事化している。

しかしいくら閑散期とはいえ、北海道に行くには10,000マイルほど必要になる。期限を迎えて無駄になるよりはいいし、年に一度のささやかな贅沢ではあるのだが、一方でまた自由なんだからギリギリまでコストを削って回数を増やすという方向性もアリなのではないかと考えていた。

そんな中、この冬は何処に行こうかなんて考えていた時に発表されたのが「どこかにマイル」サービスであった。詳しくはこの辺りを参照して頂きたいのだが、日時を指定するとランダムで四カ所目的地が選ばれ、三日以内にその中の一つの予約が確定するというシステムである。そしてこのシステム、交換に必要なマイルが6,000マイルで済む。

穿った見方をすればつまり閑散期の閑散路線で空気を運ぶよりはマイル客でもいいから詰め込んだ方がいいってことなんじゃねーのという話なのだが、しかしこのシステム、航空会社はそうして搭乗率を上げることが出来るし、到着した先の観光地にはこれまで来なかっただろう人が来るし、そして何より旅行者は低コストで旅に出ることが出来る。損する人がいない素晴らしいシステムなのである。一部では「マイルガチャ」なんて呼ばれているそうだが言い得て妙である。

というわけで、ちょうど1月末に期限を迎えるマイルがあったことから、この仕組みを利用してこれまでよりもさらに低コストで旅に出ることにした。

今回はこうした流れからコンパクトにまとめるべく、土曜出発の日曜帰着で無理のないスケジュールを組むことにした。ちなみに希望の時間をセットしてランダムで提示された行き先は更新ボタンを押すことでシャッフルし直すことも出来る。そんなわけでサクッと予約を済ませ、ランダム性に身を任せることにした。

さて、ここで本来ならば「どの四つからどれが選ばれたか」書くべきなのだが、ついうっかりその四つがどれだったのかメモり忘れてしまった。そしててっきり予約メールに書いてあったかと思ったらまったく書いていなかったのである。そういうわけでこの記事最大の盛り上がりであるところの「どの四つからどれが選ばれたか」という点についてはまったく無力なのだが結果だけ言うと選ばれたのは北九州空港着便であった。

さて、北九州といえば関東在住の身にとっては、正直言って通過点としての記憶しかない。これまでの旅行や出張で福岡県内には何度訪れたものの、博多のイメージが強く、そういえば北九州に降り立って何かをしたという記憶がないのである。つまり何が言いたいかというと、こういう自分からは行かなかっただろう場所が選ばれるというのは望むところだということである。

持論になるが、ある程度旅慣れると次は何処に行こうかというのが案外難問だったりする。目的地を決める上では行き先に何か見たいものがあるとかそういうのが理想だが、一方でそれだけのために遠くにお金を使って向かうことに対してコストパフォーマンスというか、リターンを求めてしまう気持ちも正直に言って存在する。

翻って今回のような旅は、ある意味では行き先だけがあってそこがスタートである。それだけに「行こうとは思ってなかった場所」に連れて行ってくれる──それも格安で──というのはとてもありがたいことだった。

行き先が決まったとなれば、すぐさま移動手段の確保である。公共交通機関を利用するのもいいが、北九州空港はあまりそういう便が良さそうな位置でもないので素直にレンタカーを借りることにした。二日で約7,000円。これで自由が手に入るなら安いものである。次に宿泊先だが、色々考えた末小倉で安目のホテルを取ることにした。駐車場込みの素泊まりで約4,500円。ここはマイルで節約した分豪華に行くと考えることも出来るし、思案のしどころであるが、今回は当初の目的通り全体を安くまとめて将来的な旅行回数を増やすという方向にした。

これで宿と足が決まったので、あとは何を見に行くかである。早速近辺に土地勘のあるだろうフォロワーに聞いてみると、こうしたネタ含みの旅行という気持ちを十分にくみ取ってもらいつつも様々な提案を頂いた。写真的には日本三大カルストの一つ平尾台があり、今ホットなのは今年中の閉園が決まっているスペースワールド辺り、そしてメシはうどんがオススメだという。そういえば去年のGWにR439走破がてら四国カルストに行った時にとても景色が綺麗だったので、あれに並ぶとなれば行くしかないだろうと思い、スペースワールドもなくなるとなれば今しかないし、うどんも食べに行きたいしで腹は決まって、だいたいその辺りを無理なく巡れるように事前に目星を付けておいた。

そして旅行当日、晴れたらいいななんて脳天気な願いをあざ笑うかのように、日本全土を猛烈な寒波が襲っていた。普段なら降らないような地域ですら積雪の報が流れる中、羽田空港から飛行機は飛び立ったのだった。

なお、出発時の案内では現地悪天候のためダメだったら福岡空港ダイバート、それもダメなら羽田引き返しという条件付きでの離陸であった。特典航空券で払い戻しにも制限があるし今更レンタカーや宿をキャンセルも出来ないのでそのまま搭乗。

予想通りというかなんというか、やはり搭乗率としては満席ではない。しかし空席ばかりというわけでもないので、この路線においてはマイル客はスキマを埋める程度の役割のようである。乗ってしまえば後は祈るだけである。

果たして祈りが通じたのかどうかは不明だが、一時間少々のフライトの結果、無事北九州空港に到着した。すぐさま小雪が舞う中レンタカーを借り受け、スタートである。車種は前期型のノートで安い方のクラスの割には豪華で気分がよい。外を見れば天気は目まぐるしく雪と曇りと晴れを行ったり来たりするが、海側の空港はともかく、山側には晴れ間が見えるのでとりあえず平尾台を目指す。

……と、途中で妙に駐車場が車でいっぱいのうどん屋を見付け、どうにも気になってUターンして昼ご飯とする。ここがいきなりのヒットであった。節系の力強さを感じつつも甘辛いツユに、讃岐とはちがうコシを感じつつもなめらかな柔麺、そしてごぼう天と上陸一口目からすばらしいうどんを堪能することが出来た。ちなみに食べてから調べたら昼だけ営業の地元では有名な店とのこと。旅先での飛び込みはなかなか勇気がいるが、これだけのヒットが出るならやってみるものである。

余勢を駆ってそのまま平尾台へ。雲は残りつつも時折見せる晴れ間に夢中でシャッターを切る。が、寒い。ほぼ吹きっ晒しの環境下で、時折雪もちらつく過酷な環境である。なんで暖かい筈の九州まで来て雪に降られているんだろうと思いつつも、そうした雲と荒涼としたカルスト台地は遠くに来たことをあまりにもリアルに実感させてくれた。

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ついでにせっかくだからと思い近くにあった千仏鍾乳洞に入ったら、洞内が途中から水没しているという珍しい構造のところであり、滑る足下に気を付けつつ、膝上まで捲ったジーンズを濡らしながらかなりの冒険気分を味わうことが出来た。

が、このクソ寒い中で、場所によっては飛沫を上げて足下を洗い続ける湧水に突っ込むのである。正直途中からは足の感覚がなくなりそうだったが、坑内ということもあり水温は一定らしく体調に危機が及ぶようなことはなかった。これもなかなか出来る経験ではないので、これはこれで非常に面白かった。ただ一つ誤算があったとすれば、年間を通じて一定だということで外よりも暖かい洞内と、湧水による豊富な湿度のおかげでカメラのレンズが最初から最後まで曇りっぱなしでロクに写真が残っていないということくらいだろうか。

その後は一般道で北進しつつ、門司、門司港のレトロな建物を巡っていく。門司港駅が改装中だったのは残念だったが、歴史ある町並みを堪能することが出来た。そうこうしているうちに日没を迎えたため、夕飯の検討に入る。

ここで敢えて関門トンネルを使って、一旦山口県側に入る。実は車の場合いつも高速なので、ここを橋で越えることはあるがトンネルで越えたことはなかったのだ。感想はというとまぁ普通のトンネルなのだが、なんとなく両方達成すると気分がいいものである。

山口県側まで戻ったのは実は牡蠣小屋に行くためであった。どうも探した限りだと福岡側にもあったようなのだが、雰囲気がよさそうだったのでわざわざ山口側まで足を伸ばすことにしたのである。

ナビに指示されるまま漁港らしき(夜なのでまわりが真っ暗でよくわからない)場所の更に奥、一体こんなところに店があるのかというような場所に突き当たると、突然ビニールハウスのような店舗が現れた。それこそが目的地たる牡蠣小屋であった。

以前行った伊勢の牡蠣小屋は定額食べ放題というシステムだったが、ここは一カゴ1,000円とオプションで各地の牡蠣が選べるという選択制。色々考えて地元産と福岡産のを一つずつから始めたのだが、結果としてはその二つで十分だった。たぶん40個くらいは食べたような気がする。おまけにマスターに横浜から一人で来たことを告げたところ、少しオマケしてもらった。人情が身に沁みる旅である。

腹も満腹になったところでホテルへと入り、少しの間ホテル周辺をうろつく。するとTwitterでは「せっかくだからうどんを喰え」という流れになった為、本日二度目となるうどんを食べに行く。

といってもこの時間(既に十時近かった)に開いているうどん屋はそうは多くないので、当地で有名らしいチェーンの資さんうどんである。余談だが、この資さんうどんは多くの店舗が24時間営業という関東圏でのうどん屋の常識を打ち破る営業形態である。讃岐をはじめとした多くの地域で「営業時間が短ければ短いほどうどん屋として偉い(?)」みたいな風潮すらある中で、この24時間うどんを食べたいという姿勢は見習わなければならないのではないだろうか。誰が誰にだ。

冗談はさておき、ほとんど深夜のような時間にも関わらず店内は結構混んでいて、やはり日常の中にうどんがあるのだなという気持ちになった。そして更に満腹になった。ホテルに帰りそのまま倒れ込むように就寝。主に食べ過ぎのせいで。

翌朝。

朝風呂をキメたらチェックアウト前に簡単に駅前を散歩し、二日目の行動を開始する。今日の目標はスペースワールドとうどんである。正直そろそろラーメンとか喰ってもいいのではと内心思っていたがうどんである。Twitterで教えてもらったオススメの店リストから一番近いところを選んで行ってみる。するとまたこれが衝撃であった。

昨日は暖かい汁うどんばかり食べていたので目先を変えてめんたいマヨぶっかけ(温)という変化球を頼んでみたのだが、これがまた細めの麺が透き通り輝いているという、今までにないものであった。のどごしはなめらかでかつコシもあり、いわゆる福岡うどんのイメージとは若干異なるのだが、文句なしのうまさであった。

事前に調べていたところ、更に隣町になるがこの店と同系列の店があるらしいのでこの時点で続けて行くことに決定。20分ほど走って二件目へ。今度は冷やしでぶっかけを頼む。当然うまい。むちゃくちゃうまい。なんだこれ。

結局二日連続で行動に支障をきたすほどに食べ過ぎたわけだが、それにもまったく悔いがないという恐るべきうどんであった。というか今これ書いてる中でもまた食べに行きたい。そのくらい美味しかった。この時点で二日でうどん四杯目だが気にしない。

その後はスペースワールドに移動したのだが、そういえば旧製鉄所遺構が世界遺産登録されたんだよなと思いつつ高炉跡(※これは世界遺産ではない)やら八幡製鉄所事務所棟やらを先に見て回っていたらいつまで経っても遊園地に辿り着かないという事態を引き起こした。まぁこれもざっくりとしか予定がなく現地の風向きに合わせる一人旅の良い面である。

スペースワールドは混んでいるというほどの人の入りではなかったが、かといって人の気配がないというわけでもなく、ごくごく普通であった。閉鎖の報が流れたから人いっぱいか誰も居ないかどちらかに振り切れているのかと思っていたのだが、そういうわけでもなく、ただただ淡々としていた。例の魚のスケートリンクも中には入らなかったが、特に何か謝罪文が張り出されているといったこともなく、やっぱり普通であった。

そしてこの年にして男ひとり遊園地という偉業の達成に画面右上で実績解除のテロップとファンファーレが鳴るのを内心で噛みしめつつも、ぐるっと一周回ってみたが、やっぱり特別な悲壮感はなく普通であった。

もちろん大盛況の状態を基準に作られた建造物である遊園地というのは、少しでも人出がそれを下回るとガラガラの通路が出現することになったりと途端に悲壮感が漂うように出来ているのだが、しかしメンテナンスの痕跡は確かに感じるし、実際それほど待たずに乗れてかつ誰もいないというわけではないというある意味プラスに感じられる程度の人は来ていた。来園者にとってはそう悪くもないように思えたのである。

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そんな中、絶叫マシンは苦手なので、最後にここに来た記念として一人で観覧車に乗ってみることにした。ここでもまたろくでもない実績が解除されたなという自覚を感じつつもゴンドラに乗り込んだ瞬間、一つ思い出したことがあった。高いところ苦手だったんだった。

高所恐怖症の人というのは、起こりうる最悪を勝手に想像して自分で自分を追い詰めてしまうが故に恐怖を感じるそうだが、実際にこの時の気分もまさにそれで、普段よりも強い風のことや、ゴンドラが軋む音や、果てはゴンドラ内で席を移動するときの僅かな揺れなどの全てが自分にとって敵であり、空中に取り残されたような気分を味わう羽目になった。

とはいえしばらくするとそれも落ち着いて、窓の外には暮れゆく街が広がっている。先ほど足を伸ばした場所も含めて眼下に広がる町並みには、やはり乗っておいて良かったと感じさせるものがあった。そしてふとゴンドラの中を見渡すと、扉とは反対側にノートがつり下がっていた。いわゆる無人駅などにある駅ノートと同様の意図で置いてあると思われるそれを開くと、1ページめから閉園に触れた書き込みが続いていた。ここに思い入れを持っている人達がいて、そうした人達の思いに触れると、なんだかこちらもしんみりした気分になった。

そういえば、思い出の場所が消えてしまったということはいくつも経験がある。そして消えてすぐの頃は容易に思い出せたそれらも、いつしか景色が上書きされていく中で次第に薄れていってしまう。消えゆくものであるならば、せめてそうなる前に触れてそして書き残しておこうと考えてここに来た人達のことを考えると、なんとも言えない気分になる。寂しさかもしれないし、最後に間に合っている羨ましさかもしれないし、なんというか一言で言い表せないのである。

もう来ることはないかもしれないし、興味本位で初めて来た者が言えた義理はないかもしれないが、そういう思いの一端に触れただけでも来て良かったのだと思う。

しんみりしながらも車に戻り、いよいよ旅は最終局面に向かっていく。指定された航空便はほぼ最終便なのでまだ夕飯を食べる時間は残っているが、やることと言ったら一つしかない。うどんだ、うどんを喰うのである(半ばヤケ気味)。

実際うどんに始まった旅なのだからうどんで終わらせるのも悪くないかとは思ったものの、既に昨日から数えて三食続けてうどんであるし次が四食目となるともはやうどんグランドスラムとでも言いたくなってくる。四大大会制覇である。

そして最後に残された店、こいつが強敵であった。「福岡のうどんらしいうどん」というのは聞いていたのだが、注文時に大か小か聞かれてうっかり大、ついでにごぼう天を頼んだところ、これがまぁ想像を超える代物だった。

まずごぼう天はこれまでに他の店で目にしたり口にしてきたような笹掻きではなく、丸々切ってあるか半割にしてあり、トータルだとゴボウ1/2本くらい食べてるのではという怒濤の量。 食物繊維の鬼である。そしてこんな丸のままなのにうまいのだから悔しい。

うどんもまたここに来て初めてテンプレート通りに福岡うどんらしいというか、一部で言ういわゆる福岡うどんの特徴の「太い・柔らかい・汁を吸って更に柔らかい」という基本を忠実に守った代物であった。ここで初めて「ツユ追加」という独自の文化を経験することになる。食べててツユが足りなくなるって、ザル蕎麦じゃないんだぞ。そして飲んでもいないのに目に見えて汁が減ったということは、すなわち麺の量が増えていることを意味している。故に食べても食べても終わらない。

結局、都合五食目のうどんはなんとか完食して面目を保ったが、最後に待ち受けていたのはまさしくこの地でなければ味わえない、本場の味でありラスボスであった。

結局この二日間常に食い過ぎているなと思いつつも最後の力を振り絞って空港へと戻り、最終の飛行機までには腹も多少は落ち着いた。そして特に問題もなく羽田まで戻って、旅は終わりを告げたのであった。

翻ってみると、今回の旅はランダム要素とテーマ性がうまくバランスして楽しく過ごすことが出来た。そもそも行き先からしてランダムだったわけだし、その訪れた先から妙なテーマ性が派生してひたすらうどんを喰いまくることになったのもまた楽しい偶然の産物である。

そして最初の方でも述べた通り、この地は「どこかに」行くというのでなければ、これまで独立した目的地としては考えてもいなかった場所だった。しかし、行ってみればこの通りである。そういうところに気付かせてくれたというか、行く切っ掛けを作り出してくれたというだけでもこの旅は大成功だったと言える。

ましてこの旅行、費用としてはたいして掛かっていない。その気になれば二度目、三度目が試せるくらいのマイルはまだ残っている。別にJALの回し者ではないし書いたからと言って何か得があるわけでもないのだが、ステマどころかここを見ている人達にはダイレクトにマーケティングしたい。そんな気分である。これは本当に格安移動の一つの革命だと思う。マジで。

……ランダム旅行、正直言って超が付くほどオススメです。是非その際は適度にスカスカの予定を組んで、出来れば現地で見たもの聞いたこと知ったことに流されつつ、楽しんで。早くも二度目の予約を検討するくらいには、いい旅でした。