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無名サイトのつづき

最後の一葉(あるいは「元チェーン」という概念について)

旅に出るとよく「(地元を含む)何処にでもある全国チェーン店」と「そこにしかない個人店」みたいな二項対立に出会うことがある。せっかく旅に出たのだからチェーン店で飯を食うのはもったいない、みたいな話である。

もっとも、例えばチェーンであってもその土地ローカルなチェーンであればその地域でしかお目にかかれないという意味で「その土地に行った意味」になり得る(有名な例としては静岡県外には一切出店しない「さわやか」等がある)し、あるいは全国チェーンであっても地域限定メニューが存在したりということもある。なので必ずしも割り切れるというわけでもない。

そして、今回ここで論じるのはこうした両者の中間的存在である「元チェーン」についてである。

「元チェーン」とは何かというと、かつてチェーン店として多店舗展開したにもかかわらず、現在はその勢いが失われてしまった結果、最後の一店舗しか残っていないような店舗が「元チェーン」である。

もちろん、全盛期に比べて店舗数を減らしているというチェーン自体は多数あるので、ここでは「その屋号を掲げる店舗がほかにない=最後の一軒であり現在はチェーンとしての体を成していない」ということを「元チェーン」の(狭義の)定義として定めておく。もっとも、かつて数十店舗あったのがすでに2~3軒しか残っていないというのであれば感覚的には十分「元チェーン」に近いと言えるだろう。とりあえずここでは狭義の元チェーンについて述べていく。

さて、それらが残り一店舗にまで減った背景に様々な理由があるということは想像に難くない。おそらくは現在の主流から外れていたり、強力な競合が現れていることも確かだろう。とはいえ、逆に言えば「少なくとも過去のある時期においては時流を掴み、支持を得てそれなりの規模まで発展を遂げていた」ということもまた確かである。そういう意味では、ある時期においての空気感みたいなものを残す店舗が多いのもこれらの特徴だったりする。また、最後の一店舗ということは機を逸したら二度と訪問出来なくなるという危険性も孕んでいる。

以上のような理由から、今この「元チェーン」という概念に注目しているのである。

──とはいえ、こうした店舗をゼロから探すのはとても難しかったりする。

というのも、「ほかに店舗展開していない店舗(非チェーン)」や「今チェーンになってる店舗」を探すのはインターネット上でも比較的容易(例えば公式サイトに店舗一覧があればチェーンであると判断可能)だが「過去多店舗展開したチェーンだったが、今は最後の一軒しかない」というのは過去の検索に弱いインターネットではなかなか難しいのだ(特にこうしたチェーン店の盛衰については10年以上のスパンで起きていることも多いため)。仮にネット上で探すのであれば、かつての姿を知る人による「昔はほかにも店舗があった」という記述に頼るしかないのである。

それ以外には、過去の雑誌等の資料に当たると意外なところがチェーンだったというパターンもあるが、ともかく元チェーンだけをインターネット上で一本釣りで探すことにはかなりの困難があると言って良いだろう。

一応ヒントになり得る要素としては、現在一店舗しかないのに「○○店(あるいは本店)」と名乗っている場合などがある。これは以前は同名のほかの店舗が存在した名残である可能性が高いのだ。とはいえこれも、かつてどのくらいの店舗が存在していたのかどうかについては何も教えてはくれないのである(○号店のような表記がある場合を除く)。

こうした「元チェーン最後の一軒」については知る限り下記のようなものがある(残念ながらいずれも未訪問)。

tabelog.com

・丼太郎 かつて牛丼太郎の名称で都内で多店舗展開していたが、運営会社の倒産を経て現在は茗荷谷の店舗のみ

www.annamillersrestaurant.jp

アンナミラーズ 制服が可愛いファミレスチェーンとしてかつては有名で「アンミラ」の通称で覚えているオールドオタクも多いのではないだろうか。現在は高輪に一店舗のみ。

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・ロッキーバーガー かつては数十店舗存在したとされる、オールドハンバーガーチェーン。運営会社は倒産し屋号を引き継いでいるようだが、すでに最後の一軒となっている。

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・カレーの店スマトラ 過去7店舗あったらしいが、現在はここのみ。

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・やきそば屋 大盛りかつちょっと特殊(プレーンで出てきて味付けは客が行う)な焼きそばで有名な店だが、過去はこのほかにも多数店舗があったとのこと。

……無論、本稿で述べたような概念自体は本稿以前から存在しており、実際にそうした各店舗に取材した記事も存在している(上記の店舗リストはこうした記事やTwitter上でのフォロワーからの情報も参考とした)。しかし、ここに載っていない未知のチェーンを新たに調べて発見しようとするとやっぱり大変なのである。

だいたい、チェーンの最後の一軒というのはたいてい運営会社の倒産や吸収などの諸事情をもってひっそりと消えていく。例外としてはすかいらーくグループにおけるすかいらーく業態の消滅時くらいのものである。このときはニュースにもなったくらいだ。ただ、ほとんどの「元チェーン」は地元の人に偲ばれつつ、ひっそりと消えていくものだと思って間違いないだろう。

また、こうした「元チェーン」の全盛は70~80年代の場合もあるが、当然この頃にはインターネットはなく、ローカルチェーンの場合はその都道府県内でしか認知されていない場合がある。こうした事情も元チェーンの概念がつかみ所のない存在となってる理由の一つである。

故に、こうした「元チェーン」という概念を再度ここで提唱し、往時の栄光とその残り火をインターネットのどこかに記録しておかなければいけないのではないかと考えている次第である。