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無名サイトのつづき

mamiya 645AFD+leaf aptus75導入記

かつて「そのうちデジタルバックを使いたいな」という目的でマミヤ645AFDを購入してから 早いものでもう6年近く経過した

こうした目論見自体は古くからあったものの、実際のところ元からタマ数が少ないデジタルバックはそうそう値下がりするものでもなく、スタンドアロンで動くタイプ(液晶画面とバッテリーとメモリーカードスロットがあり、単体で動作する機種。デジタルバックは元々スタジオカメラから発展している為、初期のモデルは液晶もバッテリーもメモリーカードスロットもなく、PCと接続して動かすタイプが多かった)は長らくどのモデルでも最低20万円はするという状況が続いていた。このため手元の645AFDはずっとフィルムオンリーで運用しており、それもしばらく使っていなかったため、フィルムや現像代が上がるたびに売却を考える始末だった。

……そうこうしているうちに中判デジタルの中でもペンタックス645Dなどは中古価格で20万円を切るようになっており、良くも悪くも普通の一眼レフと変わらない使い勝手から魅力的な選択肢になってきた。だが、マミヤのカメラ一式があるというのに、また一からシステムを揃えるという気にもなれなかった為、そちらを購入することもなかった。

とはいえ、流石に5~6年も経つとだんだんデジタルバックの相場も下がってきた。オークション等を見てもこれなら手を出せるかもという案件がちらほら出てきたということもあり、最近になってついにデジタルバックの購入に至ったのである。

というわけで、別にプロでもないが、面白がってデジタルバックに手を出してみようという人向けにいくらか参考になりそうな情報を残せればと思いここでまとめておく。

1.機種選定

前述の通り、今回の話というのはマミヤ645AFDに使用出来るというのが大前提の話である。各自手持ちでデジタルバックに使えるボディがあるなら適宜それに読み替えて欲しい。

とはいえ、懐の寂しい人間には正直マミヤ一択である。この当時のデジタルバック接続が考慮された中判一眼レフはほかにハッセルブラッドHシリーズ(富士フイルムGX645)やコンタックス645などがあるが、いずれもボディも高ければレンズも高い。対するマミヤは至って庶民派のお値段である。

例えばハッセルであればH1やH2、コンタックスなら645が同等のカメラにあたるわけだが、いずれもボディ単体で10万円はくだらない。一方でマミヤであればグッとお手頃になる。

とはいえ、もしこれを読んでいるあなたが安く手軽に「中判の写り」を楽しみたいのであれば、悪いことは言わないのでペンタックス645シリーズにしておいた方がよい。もしくはもう少しお金を出して富士GFXとかハッセルブラッドX系とかその辺。ぶっちゃけ古めのマミヤで揃えるというのは伊達と酔狂の世界である。

というのは、この頃のデジタルバックというのはまだ「フィルムカメラの記録側が撮像素子に変わっただけのもの」に過ぎず、前と後ろで別々のメーカーの製品であり、そこには現代のデジタルカメラのような高速動作や洗練された操作系は存在しないからである。具体的に言うと前後の電源は連動しないので、まず撮影する為にも二カ所の電源を入れ、バックの起動を待ってからでないとシャッターが切れない。それも(aptus75の場合)たっぷり数十秒は待たされるのだ。またリーフの場合、メニューはいちいちタッチペンで呼び出すというPDAのような操作を強いられる。っていうか実際PDAである(後述)。現代のカメラのような軽快さはハナから期待してはいけない。

それでも手元にはマミヤ645があるのでこれを使うわけである。

さて、上記のような事情からボディはマミヤで行くとして、バックの機種はスタンドアロン運用が可能であればなんでもよかった(実質的にはフェーズワンかリーフかの二択)。

スタンドアロン運用が出来ない、液晶もバッテリーもない世代であれば10万円以下でも購入出来るのだが、この場合は制御用のPCが必要だったりでかえって面倒なことになる(リーフで言うとValeoシリーズなど)。というのも、この時代のカメラの接続はだいたいIEEE1394で、現代のノートPCには搭載されていない端子だからである。古いMacBookが必要だったりするので、よほどの物好き以外には正直お勧めできない。デジタルバックの時点で相当な物好きなのだが、その中でもさらに修羅の道だということだ。第一外に持ち出せないのであれば魅力は半減である。

だが、そうした点を解決したスタンドアロンタイプでも本体側が645AFDで動く世代となるといずれもかなり古いモデルになる。具体的にオークション等で10万円台で狙えるのはフェーズワンならPシリーズ、リーフならaptusシリーズあたりである。あるいは両シリーズをマミヤが純正で販売していたDMバックや、マミヤZDバックも狙えるかもしれない。

そんな中で基本的には安く出てきたものを購入したに過ぎないのだが、一応の選定の方針としては「ペンタックス645デジタル系やフジGFX、ハッセルXシリーズが採用している44×33サイズではなくなるべく大きなセンサーのバック」というものがあった。こうしたことから、最終的にはリーフのaptus75を入手した。当然中古であり、それなりにシャッターカウントも進んではいたが可動部があるわけでもない(後述するが多少はある)ので特に問題ないと判断している。

さて、リーフaptus75について簡単に解説すると、2005年に発売されたセンサーサイズ48×36の3,300万画素デジタルバックである。現在はリーフとフェーズワンは同じ会社になっているが、これが発売されたころはそれぞれ独立した企業だった。とはいえ素人が買えるような値段のカメラではないので現役だった当時のことは正直よくわからない。あくまでもこの記事で書いていくのは2020年に素人が使った時の防備録としてである。

なお、古いボディとデジタルバックの組み合わせというのも悪いことばかりではなく、現状各社の最新モデルではすでに不可能になっているフィルムとデジタルバックのハイブリッド運用が可能だったりする。未だに冷凍庫にはいくらか120フィルムが余っているし、フィルムであれば645フルサイズでレンズが使用出来ることもいくらかメリットと考えてよいだろう。

最後に重要なこと。マミヤはレンズが安い。それはもう圧倒的に。タマ数は少ないが初期のレンズであればヤフオク等で3万円程度で買えるものも多いのである(45mm F2.8/55mm F2.8/80mm F2.8/150mm F3.5/210mm F4/55-110mm F4.5/105-210mm F4.5など)。これらのレンズを数本揃えればもう立派な中判システムの完成である。また測光等は効かないが、MF時代の645レンズも取り付けることは可能で、デジタルだからこそこちらを使うという手もある。こっちは更に捨て値で、モノにもよるが数千円で買えるレンズすら存在する。標準・広角・望遠の三本を揃えてもうまくいけば10万以内が十分狙えるシステムなのだ。

これをハッセルブラッドHやコンタックス645でやったらおそらく100万円あっても足りないだろう。もちろんマミヤ用でも、セコール・シュナイダー銘以降のレンズやフェーズワン仕様のものであればそれら他ブランドに勝るとも劣らないほど高価になるだが……。

あとレンズに関して言えば、初期のレンズはシグマで言うZEN仕上げのものが多く、べとつきが発生するので拭き取り済みか、最初からゴム質塗装のされていない後期生産のモデルを買うと良いだろう。ただこのおかげでオークション等では捨て値で出てくることもあるので要注意だ。

2.運用上の注意(設定編)

さて、ここからは具体的にマミヤ645AFD+リーフaptus75での運用について述べていこう。といってもまだ手に入れたばかりなので、たいしたことはしていない。今回手に入れたセットには純正現像ソフトのLeaf Capture(ないし後継となるCaptureOne)は含まれていなかったが、テザー撮影をしないのであればさほど問題はない。現像自体はAdobe Lightroomでも可能である。※どうやらLeaf Captureはまだダウンロード出来るようだ。

この世代はライブビューが出来ないが、それほど問題にはなっていない。あるに越したことはないがおそらくバッテリーも食うだろうから我慢できる範囲である。ただ、今更専用ファインダースクリーンは入手出来ず、カンでのフレーミングを要求されるのでそういう意味ではライブビューがあればありがたいのは確かだ。

メディアはCFカードであり、手元のサンディスク Extreme64GB等は問題なく使用出来た。ただ、サンワサプライのSD-CF変換にレキサーの256GB SDXCカードを挿入しても使えなかったので、CFがあるならそちらを使った方が無難だろう。

さすがに2005年のカメラなので、内蔵電池が消耗して日付が飛んだりずれたりするトラブルがあったが、幸いにしてこのカメラはDIYで直した方の記事が存在するので、同様の手順で電池を交換してみた。

 

偉大なる先人の記事はこちら(あちらはこのモデルの一世代後の75S)

ameblo.jp

 

さて、構造的には全くといって良いほど同じだったので、詳細な手順は先の記事に譲るとして、せっかくなので中の基板の写真を何枚か上げておく。あんまりこういうカメラの分解も多くはないようなので。
※当日Twitterに上げながらバラしていたので写真が雑なのは申し訳ない。

 

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このカメラ、箱形の筐体に収めるために同形状の基板がスペーサーを挟んで何層かに分かれており、大まかに言ってセンサー側にFPGA基板(このカメラではアルテラのFPGAが使われているようだった)が乗っかっている。先のリンク先にある75sではメモリはBGAだが、一世代古い75では懐かしのTSOPパッケージである。

基板には「DCB6」というシルク印刷が入っており、実際このカメラはだいたい6世代目にあたる。おそらくDigital Camera Back 6thとかの頭文字であろう。


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衝撃的なのが、このカメラPowerPCが積んである。当初はこれがメインのプロセッサで、FPGAで前処理→PPCで後処理という流れかとも思ったが、もしかしたらこれがOSを動かしているのかもしれない。

ミルビューのような統合チップのない頃の製品や、特殊なアーキテクチャの製品だとFPGA+汎用CPUという構成のカメラは意外にあるみたいなので、おそらくこれもそれに準じているのではないかと思われる。

※例:PPCRISC CPUが入っているkodak SLR 14nやザイリンクスのFPGA+ミルビューカスタムの構成を取っているとされるシグマのfoveon機など。要はツインCPUなわけで、そりゃこれらのカメラの電池持ちが悪いのも納得である。

 

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で、三枚ほど基盤を引っぺがすとようやく電池交換が出来る。電池はCR1220。100円ショップにも売っている。

ちなみにこのカメラ、制御部分はWindows CEのようなのでコアシールが本体に貼ってある。この頃のWindows CE自体はArm版もPPC版もあったので、実際どの基板がOSを動かしているのかはちょっと判別が付かなかった。この電池入りの基板の下にいる基板にはMarvelのマークの入ったチップがあるので、これがArm入りでOS担当なのではないかとも思ったが、シールを剥がす必要があったのでチップの刻印は確かめてはいない。無線搭載なのでネットワーク関係のチップかもしれない。


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なお写真右側に鎮座しているのは空冷ファンである。中身を見るまでは「カメラに空冷ファンかよ……」と思っていたが、このCPU密度(少なくともPPCFPGAがある)を見るとむしろこれで冷やし切れているのか心配になった。

 

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ちなみに元から入っていた電池はスイスメイドであった。スイスの電池って初めて見たわ。

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なおセンサー面はこのようにステッパーの分割露光らしき痕跡がはっきりと見える。6回に分割して露光しているようなので、当然コストが高い部品だろうことは想像がつく。そりゃ新品の頃には数百万とかするワケである。

3.運用上の注意(実用編)

さて、このようなカメラなので当然電池の持ちは良くない……のかと思ったら、意外に健闘してくれた。具体的には、購入時には純正で標準サイズの電池が二個付属していたのだが、これらを使って撮り歩きに出たところ、最終的には電池二個をフルに使い切って450枚ほど撮影することが出来た。14nなどの劣悪な電池持ちの機種からすれば望外の結果である。

とはいえ、実のところ当初はこのカメラの電池持ちに一切期待していなかったので試し撮りよりも先に大容量バッテリーを手配していた。互換品は国内にはすでに流通しておらず、中国から取り寄せたので時間がかかってしまったが、下記の写真がそれである。

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手前側の電池が標準電池。圧倒的な大容量である。もちろんガタイもデカくて重たいのだが……。


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この電池、見た目はソニーのNPシリーズのカマボコ電池っぽいが、実のところサムスンのビデオカメラ用電池であるSB-Lxxxと互換性がある。このため中国の通販でこの辺の互換電池を探したところなんとか手に入れることが出来た。同様に充電器等も大陸の方であればまだまだ互換品が見つかるようだ。

リーフの場合、この電池がデジタルバックの下部に刺さるので電池がでかいと重量バランスは劣悪そのものなのだが、そうは言っても大容量バッテリーの安心感は大きい。

なお、先の450枚ほど撮った際は最短でスリープに入るようにしていたり、こまめに電源を切るよう心がけたりはしていたが、このカメラ起動がとても遅い(撮影枚数がかさむと体感で1分くらいは平気でかかる)ので、ある程度電池が持つとわかった今はむしろスリープ主体の運用の方がいいのかもと思い始めている。

あと注意する点と言えば、マミヤ645AFDはメーカーとして公式にデジタルバックとの通信が考慮され始めた最も初期のカメラだということである。というわけでたまに通信がロストしてシャッターが落ちなくなったりすることもある。またカメラボディ側にも単三電池六本を要求するので、そういう意味での電池の管理もややシビアだとも言える。といっても古いデジカメを使ってることを思えば許容範囲の出来事である。

もちろんこれ以降のボディ(645DF等)ではそういった通信は洗練されていくようなのだが、実はこれに伴ってフィルムバックでの撮影機能は省かれている。つまり、先に述べたようなデジタルとフィルムのハイブリッド運用という意味ではわざわざこの世代を選ぶ意味があると言えるのだ。そしてそういう虚勢を張らずとも、もし最新世代で揃えるとなれば軽く10倍以上の投資が必要となるのだから、現実的にはここらが2020年現在実用出来る中で最も安いラインだと言えるだろう。

というわけで、ここまでやれば万全と言える。あとは持ち出すのみなのだが、さすがに気軽に持ち出すというところからは遠く離れたところにいるカメラなのもまた間違いのないところである。

4.作例

というわけで、試し撮り時の作例などを。使用感については起動は遅いし、感度は上げられないしで現代的デジタルカメラを期待してはいけない。あくまでもフィルムの中判の感覚で付き合ったほうがいいのではないかと思っている。

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AF210mm F4 ULD

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AF210mm F4 ULD

L_000579

AF80mm F2.8

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AF45mm F2.8

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AF210mm F4 ULD

結論を述べると、実際のところデジタルバックはアマチュアにとって高くて使いづらいカメラなのは間違いない。(比較的安価な)マミヤ用で、型落ちだからたまたま手が届いてるだけに過ぎないのも紛れもない事実である。とはいえ、手が届くのであれば使ってみたくなるのは自然なことだし、そうであれば、この記事がそうなったときの一助になればと願っている。