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無名サイトのつづき

ノウとハウ ~非創作同人誌を作るための調べもの講座~

そろそろコミケの当落の話も聞こえてきそうなので、少し頭を原稿モードに切り替えるべく、毎年のノウハウをここに書き残しておこうかと思う。

これまでに趣味で何度かコミケに出ており、主にカメラ関係の評論本を頒布している。部数の話は野暮なのでしないが、同じシリーズとして今のところ6冊ほど出しており、まぁ中程度には続けられている方であると自負している。

で、そういう素人の書いた本であっても一応他人に有償で公開する以上はそれなりの正確性を保ちたいと考えており、そこの担保の為には調べもののスキルが必要になってくる。ところがこの調べものというやつ、少なくとも「何を調べたいか、その場合どこを掘ればいいのか」がわからないと打っても響かないものであり、全くわからないところから手を付けるにはとても厄介なものなのである。

そこで、自分の思い出しがてら「カメラ関係の評論本を作る時の調べもの」という特定ジャンルの狭い話ではあるが「調べものの仕方」について書き綴ってみようかと思う。既にご存じの方には目新しい情報は何も無いかもしれないが、そういった方はこれらのスキルを使って新たなものを生み出して頂きたい。

 

1.インターネット

手段1、インターネットである。まぁ当たり前だ。これを見ている貴方であればきっと使いこなしているに違いない。現行製品はだいたいwebサイト上にあるし、取扱説明書がアップされている場合もある。また、各webサイトも保存期間の差こそあれ、かなり古いモノまで残っていることが多く時には資料がこれしかないなんてこともある。発売時期・価格・仕様といったものはメーカー公式よりも発売時のニュースサイトの方がまとまっていて見やすかったりする。

特にこの関係では老舗ニュースサイトimpress watchが群を抜いている。その理由としては、過去記事へのアクセス性の良さである。impressのログ維持にかける情熱はすさまじく、デジカメWatch立ち上げ前のPC watchのデジカメ記事ですら残っている。軽く20年以上の蓄積はそれだけでも偉大な財産である。

ちなみにおそらくimpress watch最古のデジカメ記事はこれである。開設の翌月である96年5月の記事だった。

pc.watch.impress.co.jp

現役PC系ニュースサイトの中では比較的記事の質が高いとかムカつく全画面広告を入れないとか素晴らしい点がいっぱいあるimpress watchであるが、敢えて最もお気に入りの点を挙げるとすればこの「昔の記事がきちんと今も参照できる」ことだろう。

この点から言うと、他のニュースサイトであるところのASCII24ASCII.jpや旧ZDnetITmediaのリニューアルに伴うログの断絶は大変悲しい状況なのである。記事自体は残っているがサイト構造の変化からバックナンバーリストすらなくなり、リンクとして追えない場合も多々あるのだ。

どうしてもという場合はInternetarchiveに頼ることになるが、これも万全ではない。特に画像などは欠落している場合も多く、あったらラッキーくらいのレベルであろう。

ただ、メーカーサイトが独自に開発者インタビューなどを掲載している場合はInternetarchiveに頼らざるを得ない場合もある。また、メーカーが撤退している場合や事業譲渡をした場合も、最低限のサポートを残してコンテンツが消滅する。このため、ある程度は有用である。

web.archive.org

web.archive.org

あとは個人サイトもリアルタイムの生の声を拾うには大変有用なのだが、残念ながら無料ホームページスペースやブログのサービス終了によって闇に消えたコンテンツが大量に存在する。直近であればまだまだジオシティーズの内容はGoogleにヒットするので、Googleの要約を見て期待を込めて飛んだ先がサービス終了のお知らせなんてことは日常茶飯事である。

また、レアものについて調べているとヒットするのが2ch(5ch)やmixiのコミュニティのログだけなんてケースも存在する。滅茶滅茶気になるものがサラッと流されていたりすると皆なんでそこで聞き出さなかったんだと地団駄踏むことしきりである。

あとはSNSなども活用出来るのであれば最有力であろう。なんだかんだでマニアのネットワークというのは強いので、そういうのを知ってそうな人にたどり着けるのであれば思い切って聞いてみるというのも一考である。

最後に、インターネットの問い合わせフォーム等を通してメーカーに聞くというのも広義のインターネットの活用の一つであろう。これに関しては先方の対応次第という面もあり、必ずしもこちらの求めていた返答が返ってくるとも限らないが、少なくとも問い合わせた結果として無視されたり、こちらが不快になるような回答が返ってきたことは一度も無いと断言しておく。必要であれば活用すべきであろう。

 

2.書籍

……そうはいっても、インターネットで調べられる情報というのは「インターネット以降の製品」であることが圧倒的に多い。要するにそれ以前のものというのは新品としてのニュースバリューがないので、企業サイトに取り上げられることは希であり、また先に述べたようにwebサービスの終了から現在では個人サイトの記述ですら追えないということも多い。

というわけで、インターネット以前の情報といえばやはり書籍である。書籍の調べ方についてはいくつかあるが、まず「購入する」のであれば、新品が手に入るのであればおそらくAmazonで事足りるだろう。ただ、Amazonで事足りるということは最近の本なわけで、おそらくインターネットで足りない情報を埋めるには物足りない。インターネット以前の情報を求めるのであれば、必要なのは古本である。そうなると、Amazonマーケットプレイスや日本の古本屋などを使うことになるだろう。

www.kosho.or.jp

なお、カメラではないジャンル、例えば鉄道や自動車などは、専門古書店が存在する場合も多い。そういうものが存在するジャンルの場合は、そういった店で一度は棚を眺めるべきである。理由は後述する。しかしカメラにおいては現在は存在していない。以前は神保町に写真集とカメラ関係という形で取り扱う書店があったのだが、後者はあまり売れないので写真集一本に絞ったと聞いている。

一般古書店でもこうしたジャンルでは棚は大きくないので数を回る覚悟が必要である。特にブックオフに代表される新古書店は棚に最近の本だけを並べるケースが多く、2000年代前半のカメラ雑誌でさえレアである。

 もちろん「購入しない」選択肢もある。図書館に行けば良いのだ。とはいえ、ここにもある程度のテクニックというかノウハウがあるので、その辺りについて少し解説する。住んでいる地方によっては難しいものもあるだろうが、あくまでも個人の経験からなので適宜アレンジして頂きたい。

さて、図書館といって最初に思い浮かぶのは地方の公共図書館であろう。たまたま横浜市に居住しているため、地方公共図書館としてはかなり充実している(らしい)横浜市立図書館が使えるが、おそらくこれはかなり恵まれている方ではないかと思っている。

地方公共図書館は基本的に雑誌のバックナンバーはないが、それ以外の単行本やムックであれば置いてある上、ある程度は開架なので棚を見てそのジャンルの専門書の傾向を掴むことが出来るという大きなメリットがある。次に述べる専門図書館国会図書館は基本的に閉架なので、ここが大きな違いである。また、必要とあらば借りられるというのもとても大きい。もし仮に大きめの地方公共図書館で借りられるアテがあるのならば、それは大きなアドバンテージの一つと言えるだろう。

次に、専門図書館である。多くの場合はそのジャンルの博物館などに併設されている場合が多い。鉄道博物館のライブラリー日本自動車工業会の図書館などが代表的であろう。

カメラにおいても専門図書館は存在しており、主に二カ所が挙げられる。この二つは性格が異なるため、使い分けると更に効率が高まること請け合いである。

まずは、東京・半蔵門にある日本カメラ博物館併設(実際は隣の建屋)のJCIIライブラリー。

www.jcii-cameramuseum.jp

「カメラ」博物館だけあって、このあと紹介する都立写真美術館よりもメカ寄りの本が多く収蔵されており、またメーカーからの寄贈本(一般の書籍流通に乗っておらず、ISBN等がないため既存図書館では管理されていない自主配布本や社内配布資料など)を保有していることが最大の強みである。とはいえ、残念ながらここにない本も存在する。また、国会図書館とハシゴできる立地なのもありがたい。

デメリットはといえば、平日のみ開館という点と、PC使用禁止、地下にあるため携帯の電波がほぼ入らないというところだろうか。また専門図書館なので貸出は出来ず、コピーを取るしかない。

特に平日しか開いていないというのはサラリーマンには有給取得が前提となるためとてもつらい。しかし、ここにしかない本がある以上その価値はあると言っていいだろう。もちろんオンラインでの蔵書の照会は可能なので事前調査をお薦めしておく。

次に、これも都内の恵比寿にある東京都写真美術館の図書館。

library.topmuseum.jp

こちらは「写真美術館」の名の通り、蔵書に関しては写真集の方がメインなのだが、日本のカメラ雑誌が写真雑誌も内包してきたからなのか、一般的なカメラ雑誌(アサヒカメラ・日本カメラ・カメラ毎日など)はバックナンバーが一通り揃っている。このため、雑誌の記事をひたすらに漁るのであればJCIIの図書館よりもお薦めである。

何故なら、東京都写真美術館は休日も開館しており申告すればPCの使用が可能(電源あり)。そして携帯の電波も通じるので、調べながらリアルタイムに書くということが可能だからである。これはJCII図書館にはないメリットだ。ここも貸出は出来ないが、コピー代はこっちのが少し安かったような覚えがある。

なお、どちらの図書館でもレファレンスサービスが利用可能なので、行き詰まった時は司書さんに相談してみるのも手である。

というのも、これらの図書館は基本的に閉架図書館なので、検索端末でアタリを付けて取り寄せるまで実際にそこに何が書かれているのか、求める情報があるのかは判断出来ない。検索端末に表示されるのは簡単な見出しがせいぜいなので、なかなか上手くいかない時も多いのである(一部雑誌は目次のみをコピーした目録があるのでこれを使うと効率的)。

そんな中で、閉架の中に入り込んで棚に並ぶたくさんの本の中から「それっぽい」のを調べもののプロに探して貰えるのがレファレンスサービスなのだから、利用しない手はない。というか基本無料なのがすごい。

最後に、これらにもない本を探す手段が国会図書館である。実はこれらの専門図書館の手からもこぼれ落ちる本というのが存在する。これらの図書館では「カメラ雑誌」は収蔵しているが、「カメラを取り上げることが多い家電雑誌」などは実は収蔵していないのである。例えばこのジャンルで有名な「特選街」だとかは雑誌として保有していないことを確認している(ちなみに古い特選街でカメラ関係の署名記事を見ると、カメラ雑誌でよく見るライターが名を連ねていたりする)。

また、初期のデジカメについてはどちらかといえばPC周辺機器的な立ち位置だったこともあり、PC雑誌においてレビューされていたことも多いのだが、実はこれらもカバーしていない。よって、これらを探すためにはカメラ専門図書館だけでは不十分なのである。

というわけで、国会図書館である。

www.ndl.go.jp

建前上日本の全ての書籍は収蔵されることになってるのだが、まぁ実際はそんなこともない。ここからこぼれ落ちてる本などいくらでもある。雑誌などでは抜け落ちてることは日常茶飯事だ──とはいえ日本のありとあらゆる図書館の中で最強の存在であることは間違いない。そんな場所である。

登録が必要で貴重品以外は持ち込めなかったりするが、あとは基本的には馬鹿でかいだけで基本的な閉架図書館と同じである。土曜日開館なのでサラリーマンにもやさしい。永田町にあるのでカメラ博物館から歩いていくことも出来る。

この辺りを調べれば、おそらく手に入らない本というのは相当少なくなっているはずである。少なくとも日本語の文献においては。

これ以外には海外のコレクターが書いた本(洋書)を取り寄せるとかがある。いまのところ上記専門図書館に置いてある範囲でなんとかなっているが、語学の勉強の必要もあるとなれば今から頭の痛いところである。

3.論文・技報

だいたいインターネットでもある程度までは探せるのだけど、一応一般的なインターネットサイトとは性格が異なるのでこちらに切り分けた(実際に読む場合は2の図書館との合わせ技が必要な場合もある)。

専門の学会や企業の研究報告で無料で読めるものが結構あるので、そのあたりを参考にすることも多い。流石に一般誌ほど読みやすいモノではないが、書かれている内容は間違いなく参考になるはずである。以下にいくつか参考リンクを挙げておく。

www.jstage.jst.go.jp

annex.jsap.or.jp

www.konicaminolta.jp

www.fujifilm.co.jp

jp.ricoh.com

j-stageは無料で読めないのも結構あるのでそういうときは諦めよう。

ともかくこの辺りを使いこなせれば確実にワンランク上の内容が書けるのではないかと思ったりしている。またこうした論文には特許番号が書かれている場合もあるため、これらを取っ掛かりにして特許を調べるというのも面白い。特許の調べかたについてもある程度知見があったのだが、つい最近J-platpatがリニューアルされて検索方法がまるっきり変わってしまったので覚え直しである。よってここでは省く。

最後に、これらの情報というのはだいたいにおいて「置かれている」だけである。誰かに活用されることを期待して整理分類されてはいるが、実際のところそこに辿り着くには「書名」「著者名」「年代」などからアタリを付ける技術が必要になる。

特に閉架図書館では本棚を見て「これも関連しそうだな」という探し方は不可能なのである。なので、図書館でも古本屋でもいいからそのジャンルのオープンな本棚がある時は、なるべく数を見ることで書名や著者名の情報を叩き込むことも必要になるかと思う。

インターネットの検索にしたって、適正な検索ワードの指定というものは(もはや意識していないかもしれないが)必須のスキルである。情報は何処かにあるけど、手に入るとは限らない、そういうものなのだと思う。

なお、重ねてのお断りにはなるが、本記事の内容はカメラ関係という狭い範囲であり、その中でも都内に実際に足を運べる人間に特化した内容となっている。この記事がカバー出来ていない部分に関しては、大変勝手なお願いではあるのだがどなたかが「地方における情報収集」としてまとめられることを期待して、本記事の結びとしたい。