今年も松屋にごろごろ煮込みチキンカレーが帰ってきたので、筆を執るにはこのタイミングしかないと思い、書き残しておく。
ごろごろ煮込みチキンカレーとは、松屋が不定期に実施する季節メニューの一つであり、文字通り大ぶりのチキンが入ったカレーのことである。というかまぁ説明するより松屋のページ見てもらった方が早いと思う。わりと人気のあるメニューで、だいたい半年から一年に一回くらいはリバイバルされている、ある意味で定番メニューである。
さて、このごろごろ煮込みチキンカレーであるが、実のところ名称に一つ重大なミスリードが含まれている。それは「煮込み」の文字である。
一般的に「煮込み」カレーといえば、具材が「カレーである程度の長時間煮込まれている」ことを連想するものだ。というか、それが自然であると断言しても良いだろう。
しかし、ごろごろ煮込みチキンカレーにおいては、実のところそうではない。それは実際にこのカレーを頼み、鶏肉単品で注意深く味わってみればわかる。この鶏肉にはカレーのような味の濃いソースで煮込まれれば多少なりとも発生するはずの「味の染み込み」がまったく無いのである。
調理手順については想像するほかないが、この味が染みていないという事実からは、この鶏肉はセントラルキッチンで予めカレーと共に煮込まれたわけではなく、茹でるか蒸すかされた後に軽く焼かれて、その後に初めてカレーソースと合わさったのではないかと考えることが出来る。つまり、一般的な意味で「煮込まれ」てはいないのである。
というか、以前このカレーを食べた時、深夜で店員も面倒だったのか、カレーのかかり方に偏りがあり、鶏肉の一角にカレーソースがかかっていない部分があった。つまり、最初からカレーと鶏肉が一緒にされているのではなく、別々に展開されているのではないか……というわけである。
とはいえ、これは少ない労力で多用なメニューを展開する為の企業努力の結果に他ならない。そしてそれはこの鶏肉以外も同じ事である。松屋における定食メニューは基本的には牛豚鳥の肉+タレという形でバリエーションが構築されており、季節メニューについてもタレを変えることによってアレンジが行われている。
このため、ごく一部ではその基本となるレディメイドの肉を「松屋肉」と呼んでいる。松屋肉+タレというのが、松屋における定食のバリエーション構築の基本形なのである。
さて、上記の考察から、おそらく松屋肉は「(少なくとも)カレーで煮込まれて」はいない。果たしてこのミスリードは糾弾されるべきであろうか? 一般的には味のほとんど付かない状態で加熱されている鶏肉は「煮られた」……ましてや「煮込まれた」の定義からは逸脱していると言えるだろう。つまり、煮込みの看板には偽りがあるのではないか、というわけだ。
しかし、である。
カレーにおける価値として「大きく、柔らかい肉がたくさん入っている」という事実はごろごろ煮込みチキンカレーに圧倒的な価値を生み出している。それは、カレーで煮込まれたかどうかなどという些細な論点など消し飛ばしてしまうほどのとてつもない価値である。たくさん肉の入っているカレーは強い。これは紛れもない事実だろう。キチンと煮込まれた少量の鶏肉よりも、煮込んでないけど大量の鶏肉。……こういう選択肢も存在して然るべきだし、事実支持されているわけである。
また、そういった意味では「味のほとんど付いていない肉にかけてもそれを感じさせないソース」としてのカレーのポテンシャルも相当なものである。多くの場合、顧客はカレーソースと肉を一緒に口にするわけであり、そのような食べ方をする限り、鶏肉に味が染みていないという問題点は容易に覆い隠されるのである。これは他のタレに比べた場合のカレーのアドバンテージでもある。こうした点においても、ごろごろ煮込みチキンカレーは見事なメニューであるといえる。
つまり何が言いたいかというと、期間限定なので今のうちに食べておいた方が良いということである。
※なお、実際のごろごろ煮込みチキンカレーの調理手順等は不明な為本ブログの記述には推測を含みます。