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無名サイトのつづき

続・テンバイヤーを考える

ここには以前にもテンバイヤーについての記事を書いたことがあったが、あの記事以降も転売行為は相変わらず猛威を振るっている。現に未だ市中でPS5の在庫を見かけることは希だったりする。

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さて、前回は転売の類型についてまとめてみたが、今回は少し切り口を変えてみたいと思う。そもそも何故転売はこれほどまでに多くの人間が参加する一大コンテンツになったのだろうか。昔からダフ屋などは居たが、現代では転売行為に参加するプレーヤーが激増しているように思えるのである。

例えばカメラの例で言えば、あまり商品知識を持たないであろう学生などが中古市で棚とスマホを交互に見比べているというのはここ数年間ですっかり一般的になってしまった。彼らはスマホでオークションの落札履歴を見ていくら儲かるか検討しているわけだが、目の前にある品が買いかどうか即座に判断出来ない程度には相場を知らないと言える。

仮にも転売で食ってくんなら相場くらい頭に叩き込んどけやと毒づきたくもなるのだが、実際のところ現代の転売というのは職人的なせどりよりもこうした専門性を持たないライトなテンバイヤーが多いといえる。要するに儲かれば商材は何でもいいし、そこに専門性や思い入れは必要ないということなのだ。

そしてこれは逆に言えば、カメラ中古市のような比較的マニアックな趣味の空間であってもテンバイヤーが珍しくなくなる程度には転売が流行っているという証拠である。そういう意味でもやはり転売ブームなのではないかと言えるのだが、では彼らのようなライトなテンバイヤーは何故ここまで増えたのだろうか。

……とその前に、ここで前提となる話をひとつ。前回記事でも改めて示した通り、商売の鉄則は「仕入れ価格<販売価格」である。これは転売行為であっても変わらない。

故にテンバイヤーは新品を取り扱う場合は(定価以上の値付けが許容される)限定品や品薄の商品を狙い、中古品を取り扱う場合は瑕疵のある製品を安く買い叩いた上で瑕疵を隠して売る手法が儲かるということを前回記事で述べた。当たり前の話だがテンバイヤー以外のルートから同じ物が安く買えるというのであれば転売は成立しない。

さて、上記の通り転売行為には仕入れと販売のフェーズがある。仕入れに関しても色々あるのだが、結局のところ実際にカネになるのは誰かに販売してようやくである。確保したブツを高値で売り抜けて初めて転売で儲けることが出来るのだ。

そこで現代の転売行為にとって生命線となるのはブツを売り捌く販売先である。ほとんどの場合、ヤフオクに代表されるネットオークションか、メルカリに代表されるフリマサイトが担っている。これらは主に個人間での取引であり、これらのサイトは個人売買のプラットフォームである。

これらが使われるのは何故か。例えば新品転売の場合、ゲーム機などはよほどのことがない限り通常の中古買い取りルートに流しても単なる中古品扱いとなり購入価格を下回る(利益が出ない)からである。

また、中古転売の場合も買取店がそこからマージンを乗せて店頭に並べるわけだから、買取価格は店頭に並んでいる価格よりも安くならざるを得ない。直接売ればそのマージン分も懐に入れることが出来るわけだ。もちろん中には一般買取業者であっても品薄の製品ならばプレミア価格で買い取るというところも出てきてはいるが、その場合も中古転売同様マージン分値引かれることになる。なので、結局ネットオークションやフリマサイトと言った個人売買の方がよりダイレクトに「欲しいけど買えなかった誰か」に高値で売りつける(≒利益を最大化する)ことが出来るわけである。

現代のテンバイヤーは先に述べた通り、相場観や商品知識も求められない。要は転売できそうなモノを探し、確保し、売ることが出来るならそれだけで始められてしまう。この手軽さもブームの一因なのだろう。

で、前回記事では「転売行為で本当に儲けているのは転売ノウハウと称するものを高値で売りつけている情報商材屋ではないか?」と書いたのだが、こうしてみると他にも儲かっているところがありそうだ。そう、場を提供しているオークションやフリマサイトである。

オークションやフリマサイトでは取引が成立すると寺銭を支払うのが通例となっている。ヤフオクであれば落札システム利用料として10%(有料会員8.8%)メルカリの手数料も10%ラクマであれば6%(いずれも記事執筆現在)である。

さて、一般に転売行為では「転売する側(テンバイヤー)」「テンバイヤーから買う側」の議論になりやすい。あるいはここに巻き込まれる新品メーカーの事情が含まれることもあるが、多くの場合はそうした個々のプレーヤー同士の議論になるわけである。

しかし、転売行為で莫大なカネが動いているのだとすれば、そのうち数%の上前を常時掠め取っているプラットフォーマーは当事者そのものである。だが、多くの場合はこうした転売行為に関する議論において論じられることも少ない。つまり直接銃弾の飛んでこない場所で人知れず儲けているわけで、いろいろ考えると一番儲かってるのは実はコイツらなのではないかと思うのである。だいたい仮にテンバイヤーの立場で考えてみると、確かに売る場所としてありがたいとしても10%程度無条件で巻き上げられるのは腹立たしいしそもそもテンバイヤーでなくても10%は普通に高く感じる。しかしこれでもヤフオクとかは一時の殿様商売がマシになっており往時は月額有料会員でないと1万円以上の入札不可能で事実上勝負権がなかったとかマジで酷かったしあの恨みは忘れんぞ畜生。

そして、実のところプラットフォーマー側も「内容はともかく売り上がった分から無条件で10%程度の寺銭が入ってくる」のであれば、転売行為を積極的に規制するインセンティブを持たない。むしろ転売によって取引の額が上昇することは、そのまま彼らの取り分も上昇することを意味している。よって、表だって転売行為を応援はしないものの、積極的な自主規制もせず静観の立場を取っているように感じられる。

このため、直接的な規制が生まれるまでは転売行為に対してペナルティーを与えることもないだろう。直近だとコロナ禍においてマスクや消毒液の出品が禁止されたことは記憶に新しいが、これはそれに対する規制が生まれたことによる措置である(なお、現在は規制は解除されているが、各社では引き続き禁止扱いとしている)。ここまでやってようやく禁止になるのだ。

www.meti.go.jp

先に述べた通り、個人売買のプラットフォームが無ければ現代のテンバイヤーはおそらく成立しない。テンバイヤーにとって転売はあくまで手段であり、最終的に換金できなければ意味がない。そしてこの換金のキモが個人売買のプラットフォームになる為、無条件で徴収される寺銭やその税率(?)に対する不満はあるにしても相変わらずオークションやフリマサイトは利用され続けている。一方のプラットフォーマー側としても、自分達のサイトを利用し、多額の取引をするテンバイヤーというのは直接収入を増加させてくれるわけで悪い客ではないということになる。両者は相互に欠かすことが出来ない関係にあるわけだ。

そういえば、ヤフーオークションなどは終了直前の取消に対するペナルティーが強く望まれていることを知りながら、年単位でその要望を放置していることでも知られている。これもある意味「お得意様」に対する忖度なのではないかと思う。

オークション終了直前の出品取り消しをなんとかしてほしい - ヤフオク!改善レポート - ヤフオク!

※終了直前の取消が何故売り手に対する忖度なのかというと、不誠実な売り手は安価で出品し、オークション終了直前に希望の価格に満たなかったら取消することで安価で落札されてしまうことを防いでいるからである。この「見えない最低落札価格」に振り回されることになるので買い手としてはたまったものではないが、カメラカテゴリなどではこれが猛威を振るっている。これは不誠実な取引方法であると感じる。

なお、今回この改善レポートを引き合いに出そうと思ったらしれっとページごと削除されていたのでwebアーカイブから引っ張ってくる羽目になった。マジでそういうところやでYahoo!

また、フリマタイプの個人売買では製品知識を持たない出品者に対して無知につけ込んで本来の相場よりも遙かに低い値段を提示し、購入出来たら即座に高値で転売するというワンチャン狙いも横行している。前回述べた中古品の瑕疵を隠して販売する方法といい、転売が絡むとこのように不誠実な取引方法が横行していくのだ。その方が儲かるのだから。

しかし、これによってとばっちりを受けるのは主にテンバイヤー以外の参加者であるし、そうした取引が横行すれば個人売買のプラットフォーム自体もその信頼を無くしてしまうというのは前回も述べた通りである。個人的には、こうした行為で個人売買のプラットフォーム自体が衰退してしまうことを危惧している。

現代の転売ブームには出口として個人売買のプラットフォームが不可欠である。そういう意味ではプラットフォーマーは転売騒動の当事者に他ならない。だが転売に関する議論において矢面に立つことはほとんどない。また、プラットフォーマーとしては取引額の増大は収益向上に繋がるわけで望ましい。仮にそれが転売行為によるものであったとしても、である。

……こうした事実を考えると、転売ブームで最も笑っているのは個々のテンバイヤーではなく、個人売買のプラットフォーマーなのかもしれないというわけである。

ゴールドラッシュで本当に儲かったのは危険を冒した鉱夫ではなく、彼らに後方でジーンズを売った者なのだから。