ガチャのちがい(飛行機ガチャで旅に出よう、の巻)
当ブログにおけるガチャといえば、当然マイルガチャ(JALのどこかにマイル)のことであることは古くからの読者諸兄であればご存じだと思う。
何度か記事にしているが、6,000マイルという比較的少額のマイルを支払うことで、選ばれた国内の四箇所の行き先の中から一箇所の往復航空券(というか座席)が手に入るというシステムであり、記事にしていない分も含めて既にこの方法を使って軽く10回以上は旅行に行っており使い倒していると言って良いだろう。
この6,000マイルが比較的少額というのがJALユーザー以外には伝わらないかもしれないのだが、仮に任意の日程・任意の路線でマイルを国内航空券に変える場合、往復航空券に必要なのは12,000~15,000マイルとなっている(羽田発北海道・九州沖縄などの比較的遠い路線は15,000マイル必要となっている)ので、行き先がランダムになるだけで半額以下で飛行機に乗れるわけである。故にすさまじくお得なのだ。
なお、JALマイルについてはJAL会員が他のポイント(Suicaやアマギフ、ビックポイント等)に交換する場合概ね1マイル=1円に換算される。つまりマイルガチャは6,000円相当で往復航空券(!)というわけである。
で、このガチャシステムに類似のものが最近始まった。LCC大手Peachの始めた旅くじである。既に関西で先行して始まっていたが、最近都内でも新たに設置されたという。
似たようなサービスということで当然こちらにも興味が湧いたのだが、一通り調べてみるとこの二つのシステムはガチャ的なランダム性だけが共通したまったくの別物であり、また(どこかにマイルヘビーユーザーの贔屓目があるにしても)JALの方が完成度が高く感じられた。
しかし「旅行先がランダムになる代わりにお得に乗れる」というサービスの建て付けは全く同じである。この両者の違いがなんなのかというのは非常に分かりづらい。そこで、両者をこれから検討する人に向けて調べた内容を書き残しておくこととする。
──さて「旅行先がランダムになる代わりにお得に飛行機に乗れる」これが両者のサービスの共通点だが、これを実現する方法は全く異なっている。以下にその内容について述べていく。
まず、サービスの対象者だが、JALはマイル(が6,000以上貯まっている)会員のみが対象であるのに対し、Peachは誰でもくじを引くことが出来る。サービスを受けるハードルとしてはPeachが圧倒的に低いと言って良いだろう。
……ぶっちゃけると、Peachの良い点はここだけである。
次に、ガチャを回した際に起きることについて述べる。
[JALの場合]
- ガチャを回すと希望の日程・時間に合う4箇所が提示される
※便に空きがない場合は提示されない場合もある - 選ばれた4箇所で問題なければ予約成立、即6,000マイルが引き落とされる
- 3日以内に4箇所のうち1箇所の往復航空券が予約される
- 行き先はJAL便で指定空港発・就航中のJAL便からランダムだが
使用する機材・便数・ニーズ等で出現し易い行き先は存在する(後述)
[Peachの場合 ※都内実施分]
- 5,000円支払ってガチャを回すと行き先指定及びポイント交換券が入っている
- ポイントは公式には「6,000円分以上」付与される
- この時点では予約はされないため、
このポイントを使って別途予約を取る必要がある
有効期限は22年3月31日まで - 行き先は成田空港からのPeach便11路線の中からランダム
と、実は結構違う。重要なのは、Peachの旅くじでを引いた時点では「航空券は確約されない」という点にある。また、行き先が確約されるという仕組み上6,000円以上のポイントを他の行き先に転用することも出来ない。
さて、では6,000円分+αというのは指定の行き先に対して足りるものなのだろうか。そもそもどのくらいの価値があるのだろうか。公式にも「ご購入時期により運賃は変動しますので、セールなどお得なタイミングに上手にお買い求めください」とある通り、実は足が出る場合があることを予め予告している。
そもそも、この旅くじには往復という言葉は使われていないので、これは片道のみを対象にしていると考えるべきである。
そうした中での両者の比較の例として、変則的ではあるが例えば一ヶ月後の週末にJALで引ける選択肢の中にある行き先と同じものをPeachでも引いたと考えて試算してみよう(ただし出発はJALは羽田・Peachは成田である)。
試しにJALで11/13-14でガチャを回してみたところ、三沢・熊本・長崎・宮崎の4箇所が選ばれた。この中でPeachでも就航しているのは長崎と宮崎である。
というわけで、仮にPeachでもガチャを回し、6,000円相当のポイントを保有した上でどちらかに行くとする。この二路線について同日の予約に必要な金額を見てみよう。
長崎は片道5,690円。
宮崎は片道4,890円である。
つまり、良くても片道の航空券相当にしかならず、それにしたって金額的な旨味というのはほとんどないということになる。こうなると、会員専用の煩わしさはあるとはいえ、金額的な旨味ではどこかにマイルの圧勝と言って良いだろう。
では何故これほどの違いがあるのかである。ここからは推測含みにもなるのだが、まずはそもそもの両者の元々のビジネスモデルの違いも多分に存在している。
飛行機を飛ばすために最低限必要なコストが存在し、それは乗っている客の数に関わらず常にある一定の金額がかかるとする。すると当然どの航空会社も客がいっぱい乗っていた方がいいということになるが、実際にはその需給状況によって空席が発生する場合もある。
どこかにマイルが画期的だったのは「航空会社の都合で客を振り分けられる」ことにあった。というのは、普通は北海道行きが満員、沖縄行きがガラガラだったとしても、北海道行きを予約しているのは北海道に行きたい人達なのだから、沖縄行きに乗り換えて下さいなんてことは言えるはずもないからである。つまり、航空会社の都合で乗客の行き先を振替ることは不可能だったのだ。
しかしここに「行き先は何処でも良いから飛行機に乗せろ」という客が出現したらどうだろうか。ガラガラで飛ばしてもどうせ金は掛かるのだから、仮に普通よりも更に少ないマイルしか取れないとしても、空席にしておくよりは乗せてしまえばいいのである。それがつまりマイルガチャのシステムなのだ。このシステム故に、もし満席御礼でガチャ客を乗せる余地がないのであれば、その時はお前らにやる席はないと表示すればそれで終わりである。
一方のLCCでは、空席対策が最初からLCCの仕組みに組み込まれている。すなわち人気のないダイヤ・路線に関しては予めチケットを安くしておくことで、需要を均しておく仕組みになっているのだ。こうすれば、人気の便では高い値段を取れるし、不人気の便にもそれなりに乗客が集まり、トータルではキチンと収益が得られる……とまぁだいたいこんな仕組みである。LCCによくあるキャンペーン価格も、実際に予約しようとすると使いづらい平日早朝や深夜の便にしか設定されていないということもザラであるが、需要と供給を露骨に提示するのもまたLCCならではの手法である。そして、行き先のみが事前に決定するPeachのガチャでは、ガラガラの便に航空会社側から指定して乗ってもらうということは不可能である。だからこそ6,000ポイント+αの付与になるのだ。
また、JAL方式の場合は予約システムと半ば一体化しており、指定の日時で席が余っている便が提示され、申し込み後三日以内に予約まで完了する。このため頻出目的地として地方便やシーズンオフの沖縄など特定の行き先が出やすい(引く側にとって偏りはあまりうれしくないが、仕組みを考えれば人気便には乗れないのだから仕方ない)。
Peach方式の場合は予約とは無関係ということになるので、行き先選びという意味ではおそらくよりランダム性が高いと言えるだろう。しかし、席が余っている(≒金額が安い)便を引き当てられるとは限らない以上、引いた行き先や希望の日程次第では片道にすら足りず、更に数千円投入しなければ乗れない可能性すらある。
もちろん、6,000ポイント+αとあるので、遠方の比較的高額な行き先についてはその分の+αが付与される可能性もあるが、先の試算からすればそれも片道分が支払えれば御の字と言ったところだろう。旅程次第では復路の航空運賃は更に高額化する可能性もあるし、そもそも現金にして5,000円相当を予め支払っていることを考えれば(6,000ポイントは)特別安いというわけでもない。
最高に運が良いパターンは「6,000ポイントを得た上でその行き先にキャンペーンが適用され、6,000ポイントで往復航空券相当と引き換えることが出来る」だろうか。しかしこれもよくよく考えてみれば、ガチャを引かなければ現金6,000円で同じことが出来ることになる。その差は1,000円(+α)程度しかなく、しかも行き先に制限がない時点で自由度は段違いである。
つまるところ、もし旅くじが説明の通りであるならば、このガチャというのは無限の可能性を持つ5,000円を支払って期間内かつ指定の行き先にしか使えない6,000(+α)ポイントに換えるという、いわば「少し気の利いた足枷」を購入する行為に他ならないのである。
もちろん多少の制限があった方が燃えるというのであれば止めはしない。とはいえ、同じPeachでもその5,000円で普通に航空券を買った方が良いのではないか……というのがこうして調べた限りでの率直な感想である。